夏の時候の季語・三夏|五月、六月、七月

夏の海

立夏から立秋前日までの、夏の時候の季語のなかでも、三夏に分類される季語を集めました。

季語それぞれの持つ微妙な印象の違いを解りやすくするため、例句を多く挙げています。

俳句作りの際にぜひ参考になさってください。

初夏の時候の季語
仲夏の時候の季語
晩夏の時候の季語

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時候

夏(なつ)

三夏麦茶

夏の三ヶ月。
暦の上では立夏から立秋の前日まで。(陰暦四月、五月、六月)
一年で最も暑い時期。

三夏(さんか)…初夏、仲夏、晩夏の総称。
九夏(きゅうか)…夏の九十日間。九暑。
朱夏(しゅか)…夏の異称。五行思想で、夏には朱(赤)が当てられるため。
炎夏(えんか)…暑い夏、真夏
蒸炒(じょうそう)…夏の異称
炎帝(えんてい)…夏を司る神、太陽
祝融(しゅくゆう)…中国の伝説上の帝王で、火、夏、南方の神として祀られる。
夏場(なつば)…夏の時期
  • ころがらん夏の青みのつづらやま 惟然
  • 夏真昼死は半眼に人を見る 飯田蛇笏
  • 夏あはれ生きてなくもの木々のあひ 室生犀星
  • 炎帝につかへてメロン作りかな 篠原鳳作
  • 草に木に夏百日の窶(やつ)れ見ゆ 石塚友二
  • 瘤(こぶ)に艶ためて街樹が招く夏 佐野まもる
  • 炎帝の怒りに我の髪乱れ 上野泰

夏の日(なつのひ)

三夏青空と太陽

夏の一日、夏の太陽、どちらの意味にも用いられる。

傍題の「夏日影(なつひかげ)」は、夏の日差し、日光という意味です。
(日の当たらない場所は「日陰」を用いる。)
夏日(なつび)、夏日(かじつ)、夏日向(なつひなた)、夏日影(なつひかげ)、日の夏(ひのなつ)、夏朝日(なつあさひ)、夏夕日(なつゆうひ)
  • 夏の日や一息に飲む酒の味 路通
  • 鬼歯朶の巻葉のはじく夏日かな 室生犀星
  • 夏の日や薄苔つける木木の枝 芥川龍之介
  • 焼岳は夏日に灼けて立つけぶり 水原秋櫻子
  • 岩を攀(よ)ぢ天の夏日の小さゝよ 石橋辰之助
  • 硬きまで乾きしタオル夏日にほふ 篠原梵
  • オルガンに絵硝子の夏日灯と紛(まが)ふ 殿村菟絲子

夏の暁(なつのあかつき)

三夏夏の夜明け

夏の明け方、夜明け。
夏は早く朝四時過ぎ頃から東の空が明るくなり始める。

夏暁(なつあけ)、夏の夜明(なつのよあけ)、夏未明(なつみめい)

「暁」はそれぞれの季節で時候の季語となっています。
(春の暁、夏の暁、秋の暁、冬暁、初暁)

  • 人行くや夏の夜明の小松原 正岡子規
  • 山雀の一番鳴きや夏の暁 長谷川かな女
  • 聖病院夏の夜あけに子を賜ふ 山口誓子
  • 水を汲む豊かな音に夏暁けぬ 阿部みどり女

夏の朝(なつのあさ)

三夏早朝の水田

夏のまだ日が高くない時分。
緑濃い夏のさわやかで清々しい朝の時間帯である。

「〜の朝」もそれぞれの季節で時候の季語があります。
(春の朝、夏の朝、秋の朝、冬の朝、寒き朝、三つの朝(みつのあさ…元日の朝のこと・年の始め、月の始め、日の始めなので))

  • 夏の朝病児によべの灯を消しぬ 星野立子
  • 夏の朝戸くるに親しき人通り 篠原温亭

夏の夕(なつのゆう)

三夏縁側に蚊取り線香

長い夏の日の夕暮れ。
梅雨明け後の暑い日中から、日が西に沈み行く頃、暑さもいくぶん和らいでくる。
打ち水に濡れた道を涼風が吹き抜け、ほっとするひととき。

夏夕べ(なつゆうべ)、夏の暮(なつのくれ)

「〜の夕」も、それぞれの季節の時候の季語となっています。
春の夕、夏の夕、秋の夕、冬の夕

  • 雲焼けて静かに夏の夕かな 高浜虚子
  • 帆を以て帰るを夏の夕とす 山口誓子
  • すがる子のありし浴(ゆあ)みや夏の夕 石橋秀野
  • 明るくて夏の夕餉はすでに終ふ 山口波津女
  • くび垂れて飲む水広し夏ゆふべ 三橋敏雄

夏の宵(なつのよい)

三夏ホタル

夏の夜のまだ浅いとき。日が暮れてまだ間もない頃。
庭で花火をしたり、縁台で将棋を指したりして夕涼みを楽しむ時刻。

宵の夏(よいのなつ)

「〜の宵」も、それぞれの季節の時候の季語となっています。
春の宵、夏の宵、秋の宵、冬の宵

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夏の夜(なつのよ)

三夏花火大会

日中の暑さから解放されて、夏の夜には夜更かしして楽しむ人々が多くなる。
うちわ片手に浴衣姿で祭りに出かけ、夜店、花火などを楽しむ。

清少納言も枕草子で「夏は夜。月のころはさらなり。」と、夏の夜の風情を愛でている。

夜半の夏(よわのなつ)

「〜の夜」も、それぞれの季節の時候の季語となっています。
(春の夜、夏の夜、秋の夜、冬の夜、年の夜(…としのよ、大晦日の夜))

  • 夏の夜の闇も納まる星の数 野坡
  • 夏のよや雲より雲に月走る 闌更
  • 夏の夜をとりひろげたり草の上 蘭水
  • 夏の夜の湖白し松の間 佐藤紅緑
  • 月の輪をゆり去る船や夜半の夏 杉田久女
  • 檣燈(しょうとう)を夏の夜空にすゝめつゝ 山口誓子

短夜(みじかよ)

三夏夜明け前

夏の夜は短く、夏至にはもっとも短くなる。

春分を過ぎると夜は昼よりも短くなり、秋分を過ぎると昼が夜よりも短くなっていき、冬至ではもっとも日が短い。

これらのことを春は日永(ひなが)、夏は短夜、秋は夜長、冬は短日という。

霍公鳥(ほととぎす)来鳴く五月(さつき)の短夜も独りし宿(ぬ)れば明かしかねつも
万葉集巻十

「短夜」は夜、「明易」「明易し」は、夜明けのほうに重点を置いた言葉です。
短夜(たんや)、夜のつまる(よのつまる)、明易(あけやす)、明易し(あけやすし)、明急ぐ(あけいそぐ)、明早し(あけはやし)
  • 廻廊に夜の明けやすし厳島 涼菟
  • 短夜や小店明けたる町はづれ 蕪村
  • 明けいそぐ夜の美しや竹の月 几董
  • 短夜や空と分るゝ海の色 几董
  • 短夜や耳もと過ぐる馬子が唄 成美
  • 明易き夜を身の上の談(はな)しかな 井上井月
  • 短夜や笹の葉先にとめし露 高橋淡路女
  • 短夜の色なき夢をみて覚めし 西島麦南
  • 短夜の看とり給ふも縁かな 石橋秀野
  • 明け易くむらさきなせる戸の隙間 川崎展宏

暑し(あつし)

三夏高温を示す温度計

夏の気温の高い状態のこと

暑さ、暑苦し(あつくるし)、暑(しょ)、暑気(しょき)、暑月(しょげつ)、暑熱(しょねつ)
  • 石も木も眼(まなこ)に光る暑さかな 去来
  • 傘(からかさ)の匂うてもどる暑さかな 涼帒
  • さびつきて碇の暑し砂の上 乙二
  • 嘴あけて烏も暑きことならん 田村木国
  • 世にも暑にも寡黙をもつて抗しけり 安住敦
  • 口重に過せし暑気も過ぎにけり 能村登四郎
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暑き日(あつきひ)

三夏うなだれるヒマワリ

夏の暑い一日、または夏の暑い太陽の意味でも用いられる。

暑き夜(あつきよ)
  • 暑き日を海に入れたり最上川 芭蕉
  • しばらくは落る日暑し樟の枝 成美
  • かへりみて暑かりし日はかがやけり 山口波津女

涼し(すずし)

三夏風鈴と涼風

暑い夏には、涼しさがもっとも快く感じられるので、夏の季語となっている。

風や木陰、風鈴の音に一抹の涼味を感じること。

立秋を過ぎると、「新涼(しんりょう)」「秋涼し」となる。

涼(りょう)、涼気(りょうき)、涼味(りょうみ)、夏のほか、夏のよそ、朝涼(あさすず)、夕涼(ゆうすず)、晩涼(ばんりょう)、夜涼(やりょう)、宵涼し(よいすずし)、涼夜(りょうや)、微涼(びりょう)、涼雨(りょうう)、涼風(りょうふう)、涼風(すずかぜ)、水涼し(みずすずし)、露涼し(つゆすずし)、燈涼し(ひすずし)、庭涼し(にわすずし)、影涼し(かげすずし)、鐘涼し(かねすずし)、月涼し(つきすずし)

時候以外の「涼し」がつく夏の季語
天文…風涼し(かぜすずし)、星涼し(ほしすずし)
地理…滝涼し(たきすずし)
動物…鴛鴦涼し(おしすずし)、鴨涼し(かもすずし)、蝉涼し(せみすずし)

  • 涼しさを先づ武蔵野の流れ星 其角
  • 涼しさや日の落かゝる海の上 秋色
  • 手のひらにのせて涼しや初真瓜 雲裡
  • 涼しさや鐘をはなるゝ鐘の音 蕪村
  • 涼しさや投出す足に月の影 定雅
  • 山涼し筏の上に灯がともる 原月舟
  • 禅寺は涼しきものと思ひ来し 高浜年尾
  • 晩涼の真白き蝶に今日のこと 星野立子
  • 踏切の夜涼に待てり乳母車 藤田湘子
  • 音涼し閉店の椅子たゝまるゝ 小路紫峡
  • 朝涼や川底あゆむ手長蝦 衣川砂生
この記事を書いた人
こよみ

このサイトではテーマごとに季語を集め、画像とともに一目でわかりやすいようにまとめました。季語の持つ多彩な魅力をぜひお楽しみください。

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