初夏は、夏の三ヶ月を初夏、仲夏、晩夏と分けたときの初めの一ヶ月で、ほぼ五月にあたります。
二十四節気では立夏、小満の期間(五月五日頃から六月五日頃)になります。
今回は夏の時候の季語のなかでも、初夏に分類される季語を集めました。
まさに今ならではの時候の季語で、一句詠んでみませんか。
三夏の時候の季語
仲夏、六月の時候の季語
晩夏、七月の時候の季語
時候
初夏(しょか)
初夏
夏を初夏、仲夏、晩夏の三つに分けたうちの第一で、夏の初め。
日差しが強くなり、牡丹や薔薇の花が光溢れる中で咲き誇る時期。
- 初夏や蝶に眼やれば近き山 原石鼎
- 初夏や夕月に添ふ星一つ 小沢碧童
- 初夏の山立ちめぐり四方に風 水原秋櫻子
- 一と部屋は藺茣蓙(ゐござ)の香あり夏初め 瀧春一
- はつなつのおほきな雲の翼かな 高田正子
五月(ごがつ)
初夏
陽暦五月五日ころに立夏を迎え、五月はほぼ初夏にあたる。
木々の緑も鮮やかになり、爽やかな日光を浴びて花々も咲き誇る。
傍題の「聖五月」「聖母月」は、カトリック教会では五月を聖母マリアの月として祝う伝統があることによる。
- 藍々(あおあお)と五月の穂高雲をいづ 飯田蛇笏
- 朱欒(ざぼん)咲く五月となれば日の光り 杉田久女
- 噴水の玉とびちがふ五月かな 中村汀女
- 子の髪の風に流るる五月来ぬ 大野林火
- 鳩踏む地かたくすこやか聖五月 平畑静塔
卯月(うづき)
初夏
陰暦四月の異名で、ほぼ陽暦の五月にあたる。
卯の花の咲く月だから、という説が有力である。
古俳諧では「四月」と書いて「うづき」と読んだ。
傍題の「花残月(はなのこりづき)」は、山にまだ桜が咲き残っているという意味である。
- 鉄砲の遠音にくもる卯月かな 野径
- 旅人も草も夜明の四月(うづき)かな 鳳朗
- 栴檀(せんだん)のほのめく雨の卯月かな 葛三
- 大仏に傘重なりて卯月雨 高浜虚子
- 卯月野のほとけの親にあひに来し 西島麦南
清和(せいわ)
初夏
気候が清らかで温和なことをいい、陰暦四月(陽暦五月)の候である。
昔、中国では陰暦四月朔日を清和節といい、四月を清和月といった。
白居易(白楽天)の詩にも「四月の天気は和にして且つ清し」(白氏文集巻十九)とある。
- 天清和南薫すでに至るかな 岡本圭岳
- 窯の火のよき音となる清和かな 新田祐久
- 土踏みし足裏よろこぶ清和月 井沢正江
- 竹林の闇のあをさも清和かな 古賀まり子
立夏(りっか)
初夏
二十四節気の一つで、陽暦の五月五日ごろ。
この日から、暦の上では夏に入る。
夏の三か月間は立夏、小満、芒種、夏至、小暑、大暑に分けられ、立夏は夏の初めになる。
- 夏立つや衣桁にかはる風の色 也有
- 夏立つや忍に水をやりしより 高浜虚子
- 夏立つや未明にのぼる魚見台 高田蝶衣
- 滝おもて雲おし移る立夏かな 飯田蛇笏
- 独り居の夏になりゆく灯影かな 長谷川春草
- 甘藍もつややかに夏立ちにけり 相生垣瓜人
- 沖雲に夏立つ白きすべり台 後藤満子
- 葦原にざぶざぶと夏来たりけり 保坂敏子
夏浅し(なつあさし)
初夏
夏に入ってまだ日が浅いこと。
「浅し」は他の季節でも季語となっています。
春浅し、夏浅し、秋浅し、冬浅し
- 夏浅き草花店や種も売る 中村楽天
- 寺の鶏鳴いて漁港の夏浅し 木村蕪城
- 夏浅しまだ水張らず湖畔の田 三輪青舟
- 夏浅し朝市なればもの焚いて 牧瀬蟬之助
夏めく(なつめく)
初夏
夏になり、気候も自然も、身の回りのあらゆるものが夏らしくなってくること。
人々の装い、食べ物など生活の中にも夏を感じるようになる。
「〜めく」の他の季節の季語
春めく、朧めく、夏めく、梅雨めく、秋めく、冬めく
- 夏めきて人顔見ゆるゆふべかな 成美
- 山水に夏めく蕗の広葉かげ 飯田蛇笏
- 夏めくや合わせ鏡に走る虹 久米三汀
- 袖かろし夏めく水仕はげまされ 及川貞
- 夏めくや庭土昼の日をはじき 星野立子
- 夏めくや庭を貫く滑川 松本たかし
薄暑(はくしょ)
初夏
初夏の頃、やや暑さを覚えるくらいになった気候。
少し歩くと汗ばむ程度で、服装も軽快になってくる。
- 浴衣裁つこゝろ愉しき薄暑かな 高橋淡路女
- 伸びきほふ蔓のひかりの薄暑かな 久保田万太郎
- 個展いで薄暑たのしき街ゆくも 水原秋櫻子
- 笋の皮の流るる薄暑かな 芥川龍之介(笋…たかんな、たけのこの古名)
- 青空の中に風吹く薄暑かな 松瀬青々
- 草原や光る薄暑の走り水 室積徂春
麦の秋(むぎのあき)
初夏
初夏の麦の取り入れ時のころ。麦は初夏に黄金いろに実る。
麦秋といい、陰暦四月の異名でもある。
- 麦秋や雲よりうへの山畠 梅室
- 麦秋や蛇と戦ふ寺の猫 村上鬼城
- 我とともに老いたる牛や麦の秋 久保田久品太
- 麦の秋一と度妻を経てきし金 中村草田男
- 麦秋の亡者を埋むる土の音 西島麦南
- 苔寺へゆく道問ふや麦の秋 渋沢渋亭
- 麦の秋加賀一国は晴れわたり 神蛇広
小満(しょうまん)
初夏
二十四節気の一つで、立夏の後、陽暦の五月二十一日ころ。
「陽気盛んにして万物しだいに長じて満つる」という意味。
五月尽(ごがつじん)
初夏
五月が終わること。五月の終わりの日。
快適な五月が終わり、梅雨入りに向かう。
- 街ゆきて独活なつかしむ五月尽 加藤楸邨
- 子を呼べば妻が来てをり五月尽 加藤楸邨
- 水口をはしる小蟹や五月尽 千保霞舟