初夏、木々の緑は初々しく鮮やかな緑色をしています。
若葉から青葉へ、そして濃い緑色へと変化していきます。
樹種によって微妙に色味が異なり、さまざまな緑のハーモニーで山は彩られます。
木々は強い日差しを遮り、涼しい木陰も提供してくれます。
今回は夏の新緑、若葉に関する季語を集めました。
緑の美しい夏、ぜひこれらの季語で俳句を詠んでみてくださいね。
- 植物
- 葉桜(はざくら)
- 夏木立(なつこだち)
- 新樹(しんじゅ)
- 若葉(わかば)
- 青葉(あおば)
- 新緑(しんりょく)
- 茂(しげり)
- 万緑(ばんりょく)
- 木下闇(このしたやみ)
- 緑陰(りょくいん)
- 結葉(むすびば)
- 柿若葉(かきわかば)
- 椎若葉(しいわかば)
- 樫若葉(かしわかば)
- 樟若葉(くすわかば)
- 若楓(わかかえで)
- 葉柳(はやなぎ)
- 土用芽(どようめ)
- 病葉(わくらば)
- 常盤木落葉(ときわぎおちば)
- 竹落葉(たけおちば)
- 竹の若葉(たけのわかば)、竹の若緑(たけのわかみどり)
- 芭蕉の巻葉(ばしょうのまきば)
- 芭蕉若葉(ばしょうわかば)
- 蕗の広葉(ふきのひろば)
- 紫蘇の葉(しそのは)
- 蓮の浮葉(はすのうきは)
- 麻の葉(あさのは)
- 蔦青葉(つたあおば)
- 歯朶若葉(しだわかば)
- 蓼の葉(たでのは)
- 蒲の葉(がまのは)
植物
葉桜(はざくら)
初夏
桜の花が散った後、芽吹いた若葉の緑も日に日に濃くなってくる。
新緑の生き生きとした美しさが愛でられるようになり、夏の季語となった。
- 葉桜に心ゆかしや鞍あぶみ 鬼貫
- 葉ざくらや南良(なら)に二日の泊まり客 蕪村
- 葉桜のひと木淋しや堂の前 太祇
- はざくらや青き巌に青き影 麦水
- 葉桜の中の無数の空さわぐ 篠原梵
夏木立(なつこだち)
三夏
夏になり青葉の茂る木々が群がって生い立ったもの。
一本の木は「夏木」という。
- 先ずたのむ椎の木もあり夏木立 芭蕉
- 鳩の声肩にとどくや夏木立 麦水
- 又雨の太き糸見え夏木立 星野立子
- 信濃路は夏木にまじる蔵白く 角川源義
- 葬(とむらひ)の四五人容(い)るる夏木立 岸田稚魚
新樹(しんじゅ)
初夏
初夏の、緑の若葉がみずみずしい立木のこと。
- 夏山は目の薬なるしんじゆかな 季吟
- 空暗くなり来新樹に風騒ぎ 高浜虚子
- 隙々(ひまひま)を白雲わたる新樹かな 西山泊雲
- 夜の雲に噴煙うつる新樹かな 水原秋櫻子
- 滝浴のまとふものなし夜の新樹 山口誓子
- 新樹かげ朴の広葉は叩き合ふ 前田普羅
若葉(わかば)
初夏
初夏の若葉はみずみずしく、木の種類によって緑の色合いも少しずつ異なる。
場所や状況、樹種によってさまざまな傍題がある。
- 谷若葉(たにわかば)、里若葉(さとわかば)、山若葉(やまわかば)、庭若葉(にわわかば)、森若葉(もりわかば)、寺若葉(てらわかば)、窓若葉(まどわかば)、水若葉(みずわかば…水辺の若葉)
- 若葉時(わかばどき)、若葉風(わかばかぜ)、若葉雨(わかばあめ)、うら若葉・むら若葉(若葉の色彩の濃淡を示す言葉)、八重若葉(やえわかば)
- 柿若葉(かきわかば)、椎若葉(しいわかば)、樫若葉(かしわかば)、樟若葉・楠若葉(くすわかば)、梅若葉(うめわかば)、榎若葉(えのきわかば)、柏若葉(かしわわかば)、櫨若葉(はじわかば)、藤若葉(ふじわかば)、桜若葉(さくらわかば)
- 吹入るる窓の若葉や手習ひ子 惟然
- ざぶざぶと白壁洗ふ若葉かな 一茶
- 大空も見えず若葉の奥深し 北枝
- 薄茶のむ菓子の白さよ若葉寺 寒川鼠骨
- たるみなく水のはしるや若葉影 大原其戒
- 若葉雨なにかやさしくものを言ふ 西島麦南
青葉(あおば)
三夏
若葉が生い茂って緑が濃くなり、青々とした状態。
木によって濃淡さまざまな緑色がまじっているさまを「青葉若葉」という。
- あらたふと青葉若葉の日の光 芭蕉
- 蝶ひくし青葉ぐもりといふ曇り 久保田万太郎
- 目つむるや青葉雫す幽明に 林原耒井
- この墓に青葉もる日のやはらかく 池内友次郎
- 青葉若葉谺の中の滝ひとつ 田中冬子
新緑(しんりょく)
初夏
初夏の、目の覚めるような鮮やかな若葉の緑色。
明るい初夏の光の中、さわやかな緑色である。
- 新緑の風にゆらるるおもひにて 飯田蛇笏
- 新緑やまた水楢に歩をとゞめ 佐野青陽人
- 新緑の谿に何の葉朱点うつ 篠田悌二郎
- 新緑の山径をゆく死の報せ 飯田龍太
- 風入れてたたむ喪服に緑さす 古賀まり子
茂(しげり)
三夏
夏に木々の枝葉が密生して重なり合い、鬱蒼と生い出でたさま。
- 光り合ふ二つの山の茂りかな 去来
- みどり深く夕雨めぐる嵐山 暁台
- 灯ともせば雨音わたる茂りかな 角川源義
万緑(ばんりょく)
三夏
夏の盛りの、見渡す限りの草木の緑。
新緑も深緑も含めてことごとく緑色の意味。
- 万緑の万物の中大仏 高浜虚子
- 万緑になじむ風鈴夜も昼も 飯田蛇笏
- 万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男
- 万緑の奥のつめたき水の音 辻蕗村
木下闇(このしたやみ)
三夏
夏木立が鬱蒼と生い茂り、昼なお暗いさま。
- 須磨寺や吹かぬ笛聞く木下闇 芭蕉
- 線香の折るる音あり木下やみ 蝶夢
- 木の闇を音なくて出づ揚羽蝶 山口誓子
緑陰(りょくいん)
三夏
明るい夏の日差しの中の、青葉が生い茂った木立の陰のこと。
- 笠で貌ぱつぱとあふぐ木陰かな 一茶
- 緑陰に三人の老婆わらへりき 西東三鬼
- 緑陰に読みて天金をこぼしける 山口誓子
- 老木の緑陰のいとこまやかに 富安風生
結葉(むすびば)
三夏
夏に木々の枝葉が茂り若葉が重なり合って、結ばれたような形に見えること。
- 結び葉のその放埓も過ぎにけり 相生垣瓜人
- 結葉に後庭山の流れひく 岡本圭岳
柿若葉(かきわかば)
初夏
椎若葉(しいわかば)
初夏
樫若葉(かしわかば)
初夏
樟若葉(くすわかば)
初夏
若楓(わかかえで)
初夏
楓の若葉は鮮やかな緑色が美しく、紅葉の時とは違った趣がある。
「若葉」の一つだが、古くから特別に賞美されていたので若楓という。
- 雨重き葉の重なりや若かへで 太祇
- 四阿に日の影動く若楓 正岡子規
- 朝のそら青さをふかめ草楓 瀧春一
- 若楓京に在ること二日かな 川崎展宏
- 父母へこころ置く日の若楓 倉垣和子
葉柳(はやなぎ)
初夏
「柳」は春の季語であるが、夏の緑濃くなった柳を葉柳という。
水辺に枝を垂れた柳が風になびく様子は涼しげである。
- 葉柳の寺町過ぐる雨夜かな 白雄
- 夏柳岸の鮨屋も蔵造り 酒詰万千雄
- かかり舟雨水溜めし夏柳 勝又一透
土用芽(どようめ)
晩夏
木々が芽吹くのは春だが、土用(立秋の前18日間)の頃に出てくる新芽を土用芽という。
春に出た若葉の次に、二次的に枝を伸ばした先に新芽を出す場合もあれば、冷害や雹などの害、虫害などにより一度葉がなくなったあとでもう一度芽吹く場合、また春に植え替えなどで根付きが遅かった場合など。
真夏に春のような初々しい新芽はめずらしく、目を引くものである。
- 土用芽の星のごとくにつらなれる 山口青邨
- 土用芽やたしかに生きる樹を廻る 阿部みどり女
- 色浅き土用芽風になぶらるる 品田てい
病葉(わくらば)
晩夏
病気になり変色したり朽ちたりしてしまった木の葉。
- 病葉や大地に何の病ある 高浜虚子
- わくら葉を指にひろへり長やまひ 日野草城
- 地におちてひびきいちどのわくらばよ 秋元不死男
- 病葉の水になじまぬまゝ流れ 上野章子
常盤木落葉(ときわぎおちば)
初夏
常緑樹は新葉が茂ってくる初夏になると、去年の古葉を落としてゆく。
- 山蛙(やまかはづ)常盤木落葉時しらず 臼田亜浪
- くわんぬきをさせば月夜や松落葉 渡辺水巴
- しづかなる音のただ降る椎落葉 長谷川素逝
- 梢より谿流の音杉落葉 青柳志解樹
竹落葉(たけおちば)
初夏
竹、笹は初夏に新葉が出ると古い葉を落とす。
草木の春秋とは反対で、竹の春は秋、竹の秋は春である。
「竹秋(ちくしゅう、春の季語)」は陰暦三月の異称となっている。
初夏には筍が若竹に成長し、古い竹は落葉する。
秋には若竹がさらに成長して春のような鮮やかな色になる。
「竹春(ちくしゅん、秋の季語)」は陰暦八月の異称である。
- 落る葉やあやに月洩る竹の嵯峨 都貢
- 竹の葉の降りつもりけり小柴垣 蝶夢
- 木菟(づく)鳴くや竹の落葉に竹の雨 水原秋桜子
- 祇王寺やかさりこそりと竹落葉 中山碧城
竹の若葉(たけのわかば)、竹の若緑(たけのわかみどり)
晩夏
夏の季語「若竹(わかたけ)」の傍題。
筍は皮を脱ぎながら成長し、夏になりすっかり竹らしい姿になる。
風にそよぐやわらかい緑の若葉は風情がある。
今年竹(ことしだけ)
- 白沙やしよろりとはえし今年竹 浪化
- 若竹や日はまだ八つの通り雨 几董
- 若竹や豆腐一丁米二合 正岡子規
芭蕉の巻葉(ばしょうのまきば)
初夏
夏の季語「玉巻く芭蕉(たままくばしょう)」の傍題。
芭蕉は初夏に堅く巻いたまま新芽が出て、やがて伸びてほぐれてゆき大きな若葉となる。
玉解く芭蕉(たまとくばしょう…ほぐれて大きな若葉となった状態)
- 唐寺の玉巻芭蕉肥りけり 芥川龍之介
- ことごとく風に玉とく芭蕉林 高野素十
芭蕉若葉(ばしょうわかば)
仲夏
夏の季語「青芭蕉(あおばしょう)」の傍題。
玉を解いてひらいた大きな葉は、長さ2メートルほどもあり、青々と美しい。
夏芭蕉(なつばしょう)
蕗の広葉(ふきのひろば)
初夏
夏の季語「蕗(ふき)」の傍題。
初夏の頃には、蕗は傘のような円形の葉を広げて成長する。
葉柄は皮を剥いで伽羅蕗(きゃらぶき)や煮物とする。
蕗刈り(ふきかり)、秋田蕗(あきたふき)、蕗の雨(ふきのあめ)、欵冬(かんどう)
- 山陰や葉広き蕗に雨の音 闌更
- 山水に夏めく蕗の広葉かげ 飯田蛇笏
紫蘇の葉(しそのは)
晩夏
夏の季語「紫蘇」の傍題。
紫色の赤紫蘇はゆかりやジュース、梅漬けに用いられ、緑色の青紫蘇(大葉)は薬味、天ぷら、刺身のつまなどに用いられる。
- 紫蘇ひとり梅にも通ふ匂かな 鷺水
- 雑草に交らじと紫蘇匂ひ立つ 篠田悌二郎
- 紫蘇濃き一途に母を恋ふ日かな 石田波郷
- 紫蘇もんでゐる老人の地獄耳 飯田龍太
蓮の浮葉(はすのうきは)
初夏
初夏に蓮は若葉を出して、緑色の円形の葉を水面に貼り付けるように浮かべる。
それを浮葉といい、その形から銭葉とも呼ばれる。
- 波なりにゆらるゝ蓮の浮葉かな 正岡子規
- くつがへる蓮の葉水を打ちすくひ 松本たかし
- やがて月出でてふたゝび蓮浮葉 田村木国
- 堰守(せきもり)の篝火あかき浮葉かな 加藤楸邨
麻の葉(あさのは)
晩夏
夏の季語「麻」の傍題
麻は茎から繊維を取り、実を食用とするために栽培される。
大麻(おおあさ)、麻畑(あさばたけ)、麻の実(あさのみ)、麻の花(あさのはな)
- ゆり出だす緑の波や麻の風 惟然
- しのゝめや露の近江の麻畠 蕪村
- 麻の葉のきりこみふかく涼徹す 大野林火
蔦青葉(つたあおば)
三夏
夏の季語「青蔦(あおつた)」の傍題。
夏に蔦が青々と茂っていること。
蔦茂る(つたしげる)、蔦青し(つたあおし)、夏蔦(なつつた)
歯朶若葉(しだわかば)
初夏
夏の季語「青歯朶(あおしだ)」の傍題。
歯朶は初夏の頃に青々とした羽状の葉をひろげる。
庭園の下草や、観賞用にされる。
- 晴れあがる雨あし見えて歯朶明り 室生犀星
- 富士晴れに瑞の葉ささぐ孔雀歯朶 山口草堂
蓼の葉(たでのは)
青々と茂る蓼の葉。
蒲の葉(がまのは)
蒲は池、沼などに生息する大型の多年草で、1〜2メートルの茎が直立し、葉は細長い。