暑い一日を終え、涼しい夜風にほっと一息ついたら、夜空を見上げてみませんか。
秋、冬、春とは違った、夏ならではの味わいの月や星々が輝いています。
夕立後の空気の中、雨雲の切れ間からのぞく月や星。
晴れたら明るい星がたくさん見えてきます。東の空には夏の大三角形白鳥座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガ。
そして南の空には赤く光るさそり座のアンタレス。
今回は夏の月と星の季語をまとめました。
俳句を詠む際にぜひ参考になさってください。
天文
夏の月(なつのつき)
三夏
枕草子にも「夏は夜。月のころはさらなり。」とあるように、古来より夏の月は和歌にもしばしば詠まれてきた。
夏の夜は短く、明けやすいので、夏の月には儚い雰囲気が漂う。
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月やどるらむ
清原深養父 古今集166
夏の夜の月の光が、地面を照らして白く霜が降りたように見えるのを「夏の霜」という。
白居易の詩に「月照平沙夏夜霜」(月は平沙を照らす夏の夜の霜)とあり、和歌にも多く詠まれている。
- 蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭蕉
- おき上る草木の影や夏の月 蝶夢
- 町中を走る流れよ夏の月 白雄
- 網もるゝ魚の光や夏の月 闌更
- 夏の月蚕は繭にかくれけり 渡辺水巴
- なほ北に行く汽車とまり夏の月 中村汀女
梅雨の月(つゆのつき)
仲夏
梅雨の時期に出る月。
雨が降っているか、厚い雨雲に覆われて全く月が見えない晩も多いが、その中でも雲を通してぼんやりと滲むように月明かりが見えたり、雨上がりに雲が切れて月が明るく見える時もある。
梅雨時の、雨気のこもった空の月である。
- 樅の芽を花とは見せつ梅雨の月 水原秋桜子
- わが庭に椎の闇あり梅雨の月 山口青邨
- 梅雨の月障子あければなかりけり 岡田耿陽
- 翡翠に梅雨月ひかりはじめけり 飯田龍太
- 梅雨の月雲脱ぎ捨てゝなほ淡し 西谷しづ子
- 乾坤の闇一痕の梅雨の月 福田蓼汀
- 蜘蛛手綱梅雨満月を掬ひけり 山崎冨美子
夏の星(なつのほし)
三夏
夏の夜の星々。
日中の暑さから解放され、夏には星空を見る機会が増える。夏休みに帰省した田舎の星の多さに感動したり、各地で星空観測会も多く開催されたり、子どもたちと夏の星座を探したりすることもあるだろう。
星涼し(ほしすずし)…暑い一日の終わりに夜空を見上げると、夏の星々が輝き、涼しい夜風が吹いてくる。涼しさを際立たせるような星の光が印象的である。
へっつい星(へっついぼし)…かんむり座(北天の小さな星座、かまどの形に見立てた言い方。みなみのかんむり座とは違う)の別称。上図右上参照
赤星(あかぼし)、豊年星(ほうねんぼし)…蠍座のアンタレス。仲夏を司る星といわれた。
鯛釣り星(たいつりぼし)…蠍座の別称
- 夜明前夏星のせて忘れ潮 秋元不死男
- アラビアの空を我ゆく夏の星 星野立子
- 星涼しアンデルセンの童話など 星野麦丘人
- 夏の星汐騒の村寝落つなり 桜井菜緒
梅雨の星(つゆのほし)
仲夏
梅雨の夜空の雲間から見える星。
雲間からもれるように星の光が見えることもあれば、晴れ上がった梅雨空に見えることもある。
雨雲にずっとおおわれている時期なので、星が見えた時の感慨も深まる。
傍題の麦星、麦熟れ星とは、うしかい座の一等星アークトゥルスのことで、「さみだれぼし」などの和名を持つ。オレンジ色に明るく輝く恒星。
(うしかい座は春の星座として知られ、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラで、春の大三角を形成している。)
午後八時ごろでいうと、うしかい座は春は東の空低く現れるが、六月には東の空高く現れるようになり、21~22時で天頂付近に達する。
- むささびや杉にともれる梅雨の星 水原秋櫻子
- 梅雨の星闇へピンセットで飾る 若木一朗
- ドラセナの葉の隙洩るる梅雨の星 小林謙光
旱星(ひでりぼし)
晩夏
夏の夜に、日照りを象徴するように赤く輝く星のこと。
火星や蠍座のアンタレスなど。

火星
- 旱星われを罵るすなはち妻 西東三鬼
- ふるさとや豊年星の旱星 有働亨
- 萱刈つて墓にこつんと旱星 平松良子