夏の冷たい食べ物、飲み物の季語を集めました。
梅雨明けとともに本格的な夏の到来、猛暑の中で冷たいものが欲しくなる季節。
ひとときの涼を感じながら、俳句を詠んでみてくださいね。
生活・食べ物
冷奴(ひややっこ)
三夏
冷した豆腐に、おろし生姜やネギ、紫蘇、花かつおなどの薬味を添えていただく。
冷奴の奴の由来は、昔、大名行列の先頭をゆく槍持奴(やりもちやっこ)が四角い紋をつけていたことによるといわれている。
- 冷奴死を出で入りしあとの酒 高浜虚子
- 縁にしなふ竹はねかへし冷奴 渡辺水巴
- 北嵯峨の水美しき冷奴 鈴鹿野風呂
- うすまりし醤油すゞしく冷奴 日野草城
- 舌にふとその冷えまこと冷奴 高浜年尾
冷汁(ひやじる)
三夏
味噌汁やすまし汁を、器ごと冷して出すものを冷汁または煮冷しという。
昔、冷蔵庫が無かった時代は、冷水の中に器とともに浸して冷たくした。
夏の冷製スープなど。
- ひや汁にうつるや背戸の竹林 来山
- 冷汁の筵引ずる木蔭かな 一茶
- 冷汁に宵月浅し貝杓子 島田五空
冷索麵(ひやそうめん)
三夏
索麵を茹でて洗い、冷水や氷で冷やして、ねぎ、紫蘇、七味、わさびなどの薬味でいただく。
小麦粉から作る麵で、冷麦よりも細い。
- ざぶざぶと索麵さます小桶かな 村上鬼城
- さうめんを浸して居たり十二橋 佐藤春夫
- さうめんの淡き昼餉や街の音 草間時彦
- 婆とゐて索麵好きに育ちけり 平野彩霞
- 流しさうめん桶の翳りに檜山の香 つじ加代子
冷麦(ひやむぎ)
三夏
小麦粉から製する麵で、うどんよりも細く、索麵より太い。
冷水や氷で冷やしたものを冷麦という。
- 冷麦や嵐のわたる膳の上 支考
- 冷麦に朱の一閃や姉遠し 秋元不死男
- 竹に雨ひやむぎに箸なじめるよ 村沢夏風
葛索麵(くずそうめん)
三夏
本葛粉から作る麵状の食べ物。
固めた葛を押し器に入れて、熱湯の中に押し出して作る。
冷やしてだし汁や蜜をかけていただく。
葛餅(くずもち)
三夏
葛粉を練って煮立たせ、箱に流して冷やし固めた菓子。
蜜ときな粉をまぶして食べる。
- 葛餅や老いたる母の機嫌よく 小杉余子
- 葛餅や山影たたむ茶屋の前 吉田冬葉
- 葛餅や松籟いまも真間に鳴り 富岡掬池路
葛饅頭(くずまんじゅう)
三夏
半透明の葛粉の皮に、餡をくるんだ饅頭で、冷やして食べる。
桜の葉に包んでいるものを葛桜という。
- 葛ざくら濡れ葉に氷残りけり 渡辺水巴
- 葛桜水巴忌近くなりにけり 斎藤空華
- 夕映の町は変れど葛ざくら 百合山羽公
- ぶるぶると葛饅頭や銀の盆 千葉草之
葛練(くずねり)
三夏

葛切り
葛粉を水で溶いて砂糖を加えて煮て練り固めた菓子。
葛切は、これをうどんのように細く切ったもの。
冷やして蜜をかけて食べる。
- 葛切の井のすずしさを掬ふごとし 大野林火
- 葛切の黄昏どきでありにけり 岸田稚魚
- 葛切の沈むくらさをすすりけり 村沢夏風
白玉(しらたま)
三夏
白玉粉を水でこね、小さく丸めてゆでた団子。
冷やしてゆで小豆をのせたり、冷やし汁粉に入れて食べる。
- 白玉にとけのこりたる砂糖かな 高浜虚子
- 白玉にいろどる紅や祭の日 長谷川かな女
- 白玉や母の代からの砂糖壺 増田龍雨
- 白玉やきいてはかなき事ばかり 篠田悌二郎
ゼリー
三夏
ゼラチンを用いて果汁やワインなどを冷やし固めたもの。
透明で夏らしい清涼感がある。
蜜豆(みつまめ)
三夏
茹でた豌豆に黒蜜やシロップをかけて食べる。
小さく切った寒天、桜桃、パイナップル、ミカンなどの果物、求肥(ぎゅうひ)などを添える。
- 蜜豆の寒天の稜(かど)の涼しさよ 山口青邨
- みつ豆やすだれをなせる窓の雨 山本波村
- みつ豆や仲がよすぎてする喧嘩 稲垣きくの
- 蜜豆や無垢で笑みたるころのこと 塚本忠
- 蜜豆や幸せさうに愚痴を言ふ 和気久良子
茹小豆(ゆであずき)
三夏
茹でた小豆に砂糖と少量の塩を加え煮たもの。
缶詰やレトルトも出回っていて一年中食べられるが、夏の甘味として夏の季語となっている。
- 葭簀(よしず)越し白波寄する茹小豆 戸川稲村
水羊羹(みずようかん)
三夏
寒天に小豆あんを混ぜて、水分を多めに固めたもの。
桜の青葉にのせたり包んだりして、冷やしていただく。
- 林泉のやがて淙々と水羊羹 川端茅舎
- 鳴りのよき明治の時計水羊羹 菅裸馬
- 一しきり旅の話や水羊羹 野村蝶子
- 水羊羹舌にころがる滝の前 加藤かずえ
金玉糖(きんぎょくとう)
三夏
寒天に砂糖や餡を入れて煮詰め、冷やし固めたものを賽の目に切って、ざらめ砂糖にまぶしたもの。
ざらめをまぶさないものを金玉羹という。
- 鉢に敷く笹葉透かして金玉糖 長谷川かな女
- 人ごみに金玉糖を持ち帰る 赤尾博
淡雪羹(あわゆきかん)
寒天に泡立てた卵の白身と香料を入れ、冷やし固めた菓子。
口に入れると淡雪のように溶けていくのでこの名がついた。
心太(ところてん)
三夏
天草を煮溶かして漉したものを、型に入れて冷やし固め、心太突きで突き出して、酢、醤油、蜜などをかけて食べる。
- 清滝の水汲よせてところてん 芭蕉
- 順礼のよる木のもとや心太 其角
- 白雨に躍り出でけりところてん 許六
- ところてん逆しまに銀河三千尺 蕪村
- 一尺の滝も涼しや心太 一茶
冷し瓜(ひやしうり)
晩夏
西瓜(すいか)などの瓜を冷したもの。
もとは真桑瓜(まくわうり)を井戸水や清水に浸けて冷したものをいった。
- ひやし瓜宇治の堰にかかりけり 暁台
- 冷し瓜二日立てども誰も来ぬ 一茶
- 水中に水より冷えし瓜つかむ 上田五千石
- 井に深く星またたけり瓜冷す 大網信行
氷水(こおりみず)
三夏
氷を削ってシロップをかけたもの。
シロップにはイチゴ、レモン、メロン、抹茶など、そして茹で小豆を加えた氷あずきなどがある。
昔は鉋(かんな)で削っていた。
- 氷挽く音こきこきと杉間かな 臼田亜浪
- 日焼顔見合ひてうまし氷水 水原秋櫻子
- 荒々しき男同士や氷水 村山古郷
- 片隅に旅はひとりのかき氷 森澄雄
- 犬吠の濤に真向きの氷店 森田峠
氷菓(ひょうか)
三夏
夏の氷菓子の総称。
アイスクリームはバニラ、ストロベリー、モカ、抹茶などの定番のものだけでなく、様々な種類がある。
ソフトクリーム、シャーベット、アイスキャンデーなど。
- アイスクリームおいしくポプラうつくしく 京極杞陽
- まろび寝に氷菓もたらす声俄か(にはか) 堀口星眠
- 水際のみどりの深き氷菓売 岡本眸
かちわり
晩夏
氷塊を、口に含まれるほどの大きさに割った氷のかけら。
夏の甲子園の名物。
- 鉾衆にかちわり氷振舞はれ 野崎方道
生活・飲み物
アイスコーヒー
三夏
コーヒーに氷を入れてシロップで甘みをつけ、夏の飲料とした。
アイスティーは、濃いめに入れた紅茶を氷を入れたグラスに注いだもの。
- 自愛日々冷し紅茶も控へつつ 大島民郎
葛水(くずみず)
三夏
葛粉と砂糖で作った葛湯に、冷水を加えて薄め、冷やしたもの。
- 葛水の冷たう澄みてすゞろ淋し 村上鬼城
- 青空は松風のほかや葛水す 渡辺水巴
- 葛水やコップを出づる匙の先 芥川龍之介
- 葛水やしんしんと昼の遠ざかる 中島月笠
- 葛水やまま母まま子老いにけり 草間時彦
砂糖水(さとうみず)
三夏
昔は砂糖を冷たい水に溶いた砂糖水を、夏の清涼飲料とした。
- 山の井を汲み来りけり砂糖水 青木月斗
- 唇あつるコップの厚き砂糖水 富安風生
- 砂糖水まぜればけぶる月日かな 岡本眸
清涼飲料水(せいりょういんりょうすい)
三夏
暑い夏の渇きをいやすための、冷たい飲料のこと。
- 心ゆく許り(ばかり)の二人ソーダ水 高浜虚子
- 一生の楽しきころのソーダ水 富安風生
- ラムネ抜く音の思ひ出三田訪はな 石川桂郎
- サイダーの気泡消えゆく別れなる 黒岩秀子
麦湯(むぎゆ)
三夏
炒った大麦を煎じた飲み物。麦茶。
- 鎮魂のあけくれ麦茶のみにけり 阿波野青畝
- 麦茶冷し井戸より上ぐる音すなり 岡本圭岳
- 冷え徹る麦茶の碗を掌に愉し 日野草城
振舞水(ふるまいみず)
三夏
昔、夏の暑い日に、通行人が自由に水を飲めるようにしていた。
道端や木陰に冷水を入れた桶や樽を置いて、柄杓や茶碗をそえておいたもの。
- 昼過や振舞水に日のあたる 高浜虚子
ビール
三夏
麦を主成分としたアルコール飲料。
- 遠近(をちこち)の灯りそめたるビールかな 久保田万太郎
- 里の子等庭に見てゐる麦酒酌む 富安風生
- 逃げし風船天井歩くビヤホール 右城暮石
梅酒(うめしゅ)
晩夏
まだ青い梅の実を、氷砂糖を加えて焼酎に漬けたもの。果実酒の一種。
- 梅酒に身を横たふる松の風 前田普羅
- 貯へておのづと古りし梅酒かな 松本たかし
- 雨夜経て琥珀ふかめし梅酒あり 沢田しげ子
冷酒(ひやざけ)
三夏
夏は暑いので、燗をせずに冷して飲む日本酒。
- ひや酒やはしりの下の石畳 其角
- 塩鳥の歯にこたへたり冷し酒 暁台
- 冷酒に澄む二三字や猪口の底 日野草城
- 冷し酒幽明界となりはじむ 石田波郷