夏の花の季語をまとめました。
その中でも今回は「初夏」「三夏」に分類される、赤やピンク系統の色の花を集めています。
花色が豊富にある種類も多いので、ここにない場合は他の色の花のページもぜひご覧ください。
夏の花の季語・初夏(白)
夏の花の季語・初夏(青、紫)
夏の花の季語・初夏(黄、オレンジ、その他)
植物
薔薇(ばら)
初夏
古くから世界中で愛され、多くの品種が作り出されたバラは、五月に最盛期を迎える。
咲き方や香り、枝の棘の有無も様々なものがある。
- 夕風や白薔薇の花皆動く 正岡子規
- 咲き満ちて雨夜も薔薇のひかりあり 水原秋櫻子
- 薔薇白し暮色といふに染まりつゝ 後藤夜半
- バラの香か今行き過ぎし人の香か 星野立子
- 手の薔薇に蜂来れば我王の如し 中村草田男
- 薔薇よりも淋しき色にマッチの焰(ひ) 金子兜太
牡丹(ぼたん)
初夏
五月に香りのある大輪の花を咲かせる牡丹は、百花の王と呼ばれる。
紅、ピンク、白、黄、紅紫と色も形も様々なものがある。
古歌では富貴草(ふうきぐさ)、深見草(ふかみぐさ)など大和言葉の名で呼ばれた。
- 牡丹蘂深く分出づる蜂の名残かな 芭蕉
- 牡丹散つてうちかさなりぬ二三片 蕪村
- 園くらき夜を静かなる牡丹かな 白雄
- 夕風や牡丹崩れて不二見ゆる 鳳朗
- 月の暈(かさ)牡丹くづるゝ夜なりけり 石井露月
- 白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
- 牡丹を活けておくれし夕餉かな 杉田久女
- 夕牡丹しづかに靄(もや)を加へけり 水原秋桜子
石南花(しゃくなげ)
初夏
ツツジ科の常緑低木で山地に自生し、初夏に紅色のツツジに似た花を枝の先端に球状に咲かせる。
白花や黄花のものもある。長い葉には毒があるので注意。
- 石楠花や朝の大気は高嶺より 渡辺水巴
- 石楠花によき墨とゞき機嫌よし 杉田久女
- 石楠花や雲の巻舒(けんじょ)をまのあたり 阿波野青畝
- 石楠花にかくれ二の滝三の滝 宮下翠舟
- 石楠花や踊りて岐る雨の瀬々 黒木野雨
毒空木の花(どくうつぎのはな)
初夏
ドクウツギ科の落葉低木で、五月頃に黄緑色の小さい花を総状花序につける。
実は赤く、熟すと黒くなり、猛毒である。
グラジオラス
三夏
南アフリカ原産の、アヤメ科の多年草。
色は様々あり、球根植物である。
茎は高く直立し、先端に穂状の花をつける。
葉の形は剣状で左右二列につく。グラジオラスの名はラテン語の「剣」からきている。
- 刃のごとくグラジオラスの反りにけり 佐久間慧子
- 黄は観音赤は仏にグラジオラス 柴田光子
- 茎太にグラジオラスは男花 田口三千代
ゼラニューム
初夏
南アフリカ原産の多年草で、長い茎の先に花を球状に咲かせる。
葉は丸いハート形をしている。斑入りのものや、もみじ型の葉のものもある。
ヨーロッパでは窓辺を飾る花として多く利用されている。
- ヂェラニューム紅しあまりに焦土広し 殿村菟絲子
- ゼラニューム 咲かせアビタシォンの窓々 成瀬櫻桃子
罌粟の花(けしのはな)
初夏
ケシには様々な種類があり、アヘンの原料となり植えてはいけないものにソムニフェルム種、アツミゲシ、ハカマオニゲシなどがある。
観賞用に植えても良いケシは、オニゲシ、アイスランドポピー、ヒナゲシ、ブルーポピーなど。
ケシ科の一、二年草で、花色は紅、白、アイスランドポピーはオレンジ、黄色、ヒナゲシはピンクなど様々なものがある。
- ちるときの心やすさよ芥子の花 越人
- 棹竹の雫落ちけり罌粟の花 惟然
- 荒海をかかへて芥子の咲きにけり 蓼太
- 蟻の来て引きずるけしの一重かな 蒼虬
- 月光に奪はれぬ紅や罌粟の海 島村元
- 芥子赤し旅も終りはさびしけれ 五十嵐播水
- 花芥子の雨に堪へつゝゆがみたる 高浜年尾
雛罌粟(ひなげし)
初夏
ヨーロッパ中部原産の一年草で、五月ごろに細長く伸びた茎から、薄紙のような花びらの色とりどりの花が咲く。つぼみは下を向いているが、咲く時に上を向く。
中国の武将、項羽の寵姫虞美人の化身だという伝説から、虞美人草の名がある。
- 裏富士やかかる里にも美人草 不白
- ひなげしの曲りて立ちて白き陽に 山口青邨
- 風を呼び風を遊ばせ虞美人草 磯田富久子
鬼罌粟(おにげし)
三夏
オリエンタルポピーとも呼ばれ、草丈1メートル以上に伸び、朱紅色の大輪の花を咲かせる。
花弁は4~6枚で、基部に黒色の斑紋がある。
松葉菊(まつばぎく)
初夏
南アフリカ原産のハマミズナ科(ツルナ科)の常緑多年生草花。
高温や乾燥に強く、石垣などに繁茂している。
葉は多肉質で、花は菊に似た細い花弁でやや光沢があり、紅紫色の花を全体に咲かせる。
- 石垣に咲くや下田の松葉菊 阿部筲人
- 蛇の尾のかくれきらずに松葉菊 永田耕一郎
常夏(とこなつ)
三夏
中国から渡来した唐撫子(石竹)の園芸変種のひとつ。
四季咲きで色は緋赤、ピンク、白など。
撫子の古名を常夏ともいい、古今集などでは河原撫子のことを指す場合もある。
- 常夏に切り割る川原川原かな 一茶
- 常夏に水浅々と流れけり 松瀬青々
- 常夏や帰省の吾子は深眠り 新谷徳子
カーネーション
初夏
江戸時代にオランダから渡来したので、和蘭撫子とも呼ばれる。
母の日にカーネーションを贈る習慣はアメリカから広まった。
- カーネーション籐椅子ならして骨牌(かるた)とる 長谷川かな女
- 灯を寄せしカーネーションのピンクかな 中村汀女
フロックス
初夏
北アメリカ原産の、ハナシノブ科フロックス属の一年草または宿根草。
品種は多く、キキョウナデシコ、クサキョウチクトウ、ツルハナシノブ、シバザクラなど。
ガーベラ
三夏
南アフリカ原産のキク科の多年草。
ピンク、紅、黄、白など多種栽培されている。
花の形から、花車の別名もある。
- ガーベラの炎だつなり海を見たし 加藤楸邨
- 明日の日の華やぐがごとガーベラ挿す 藤田湘子
- ガーベラの夜も朱かければこころ冷ゆ 宇咲冬男
酔仙翁草(すいせんのう)
三夏
ヨーロッパ南部原産のナデシコ科の多年草。
株全体が白い綿毛で覆われているところから、フランネル草とも呼ばれる。
紅色が多く、他にピンク、白色の五弁花を咲かせる。
ペチュニア
三夏
南アメリカ原産のナス科の一年草で、色は様々なものがある。
開花期が長く、花数も多く株全体を覆うように咲くため、夏のガーデニングによく用いられる。
- 夕風やペチュニア駄々と咲きつづけ 八木林之助
- ペチュニアの色の豊かさ人疲れ 藤村かつ子
ベゴニア
三夏
熱帯、亜熱帯に分布するベゴニアから多くの品種が作り出された。
花期が長く、花色も豊富で斑入りや八重咲きのものなどがある。
巌藤(いわふじ)
三夏
山地や川岸に自生する、ニワフジと呼ばれるマメ科の低木。
五月から六月に、淡紅色の蝶形花を総状に咲かせる。
- 岩藤や高根につづく雨の雲 比良
- 活けてあるひめいはふぢの池の坊 丸山綱女
- 岩藤にそこはかとあり川の風 津田好
二葉葵(ふたばあおい)
初夏
ウマノスズクサ科カンアオイ属の多年草で、山地の日陰に自生している。
一株から二葉がでることからこの名がついた。
葉の形はハート形で、茎は地面を這い、節々から根が出る。
五月頃に二葉の間から淡紅紫色の小さい花に見える萼をつける。
京都の賀茂神社の祭りにこの葉を使うので賀茂葵ともいう。
九輪草(くりんそう)
初夏
サクラソウ科の多年草で、山地などの湿ったところに自生する。
五月頃に紅紫色の花が輪生して咲く。花が数段にもなる様子が、五重の塔などの頂上の九輪に似ているところから名付けられた。
- 牛去りし泉に赤し九輪草 相馬遷子
- 九輪草径きれぎれに沼あふれ 原柯城
- 九輪草忌明けの雨のいたりけり 恩賀とみ子
夏薊(なつあざみ)
三夏
キク科の多年草で、夏薊という特定の種類があるのではなく、夏に咲く薊のことをいう。
「秋薊(あきあざみ)」秋の季語
- ほこりだつ野路の雨あし夏薊 飯田蛇笏
- そよ風に雲の匂ひや夏薊 佐野青陽人
- 夏薊渡らむ島を消して雨 和田暖泡
- 野の雨は音なく至る夏薊 稲畑汀子
捩花(ねじばな)
初夏
ラン科の多年草で、芝地や草地に自生する。
五、六月頃に淡桃色の小さな花を螺旋状につける。
昔、陸奥国信夫郡で行われた型染めの模様「捩摺(もじずり)」に似ていることから、もじずりとも呼ばれる。
陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに
河原左大臣 古今集 巻十四 724百人一首などでは「乱れそめにし」となっています。
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに
- ありそめし文字摺草や温泉(でゆ)の道 岡安迷子
- ねぢ花をゆかしと思へ峡燕(かひつばめ) 角川源義
- 仏彫る里にもじずり咲きにけり 林徹
- ねぢれ花ねぢれ咲けるも天意かな 山口いさを
下野草(しもつけそう)
三夏
バラ科シモツケソウ属の多年草で、山地に自生する。
直立した茎の先に淡紅色の細かい花を密集して咲かせる。
花が繍線菊(しもつけ)に似ていることから名付けられた。
- むれ咲いて下野草は雨を恋ふ 船迫たか
- 下野草挿頭して少女羞らへり 富山広志
巌千鳥(いわちどり)
初夏
ラン科の多年草で、山地の岩壁などに自生する。
高さは10センチ程度で、細い茎に淡紫色の唇形花をつける。
花の形が千鳥に似ていることから名付けられた。
浦島草(うらしまそう)
初夏
サトイモ科の多年草で、低山地や林野の湿ったところに自生する。
五月頃、花茎を伸ばして、紫褐色の仏焰苞をつける。
花軸の先が長く伸びて糸状に垂れる様子から、浦島太郎が釣り糸を垂れる姿に見立ててその名がついた。
- 蜑(あま)が家(や)の簾の裾の浦島草 山口青邨
- 浦島草茎立ち不二は雲の中 富岡掬池路
- 浦島草夜目にも竿を延したる 草間時彦
蛇の髭の花(じゃのひげのはな)
初夏
ユリ科の常緑多年草で、山林の日陰に自生する。
細い葉から、龍の髭と呼ばれ、庭にも植えられる。
初夏に花茎を出し、淡紫色の小花を咲かせる。
花の後は青色の実をつける。
- 龍の髭の花いとほしめ庭男 籾山梓月
- 龍の髯茂りぬ花のひそみより 上川井梨葉