春の花の季語をまとめました。
春の花は非常に数が多いので、これから何回かに分けてお送りします。
今回は樹木、木に咲く花です。
その中でも花の色が、赤やピンク、紫色系統の花を集めました。
それぞれの種類に白花や違った色の花もある種類が多いので、ここにない場合は他の色のページもご覧ください。
なお梅、桜に関する季語は、それぞれ春の梅の季語、桜の季語・植物、桜の季語・その他をご覧ください。
春の草花・白
春の草花・ピンク、赤
春の草花・青、紫
春の草花・黄色、オレンジ、その他
植物
椿
三春
ツバキ科の常緑照葉樹で、早春から大輪の花を咲かせる。
日本原産の花木。
散る時には花全体が丸ごと落ちる。
伊豆大島の椿が有名。種から椿油がとれる。
また出雲の八重垣神社(やえがきじんじゃ)には「連理玉椿」があり、二本の椿が一本の幹になっている。
年によっては二葉が現れ、ハート形に見えるとのこと。
古代には、椿は霊力のある神聖な木とされた。
日本書紀には、景行天皇が椿の木で作った槌で、土蜘蛛を退治したという話が記されている。
葉広斎つ真椿 其が花の照り坐し其が葉の広り坐すは大君ろかも
仁徳天皇皇后
巨勢山(こせやま)のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を
坂門人足(さかとのひとたり)万葉集
平安時代には正月、上の卯の日に、悪鬼を追放する卯杖(うづえ)として天皇に献上される木の一つでもあった。
その後、花木として観賞されるようになり、国内海外問わず園芸品種が多数作られてきた。
- 椿踏む道や寂寞たるあらし 支考
- 椿落ちてきのふの雨をこぼしけり 蕪村
- 赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐
- ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に 高浜虚子
- 葉を打つて落ちし花あり崖椿 原石鼎
- はなびらの肉やはらかに落椿 飯田蛇笏
- 落椿挟まるまゝに立て箒 鈴木花蓑
- 燈台へ椿の径がかくす海 長谷川素逝
- ひとつ咲く酒中花はわが恋椿 石田波郷
- 白椿昨日の旅の遥かなる 中村汀女
紫荊、花蘇芳、花蘇枋(はなずおう、はなすおう)
晩春
マメ科の落葉低木、中国原産で江戸時代に渡来した。
枝はほうき状に上に伸び、四月頃葉が出る前に、紅紫色の小花を枝いっぱいに密集して咲かせる。
木部を乾燥させたものが蘇木(そぼく)で、漢方薬として用いられる。
- いとしめば紅よどむ蘇枋かな 松根東洋城
- 風の日や煤ふりおとす花蘇枋 瀧井孝作
- 花よりも蘇枋に降りて濃ゆき雨 後藤比奈夫
- 花蘇枋夕映えの空低くなる 阿部貞
沈丁花(じんちょうげ)
仲春
中国原産のジンチョウゲ科の落葉低木で、三月から四月に香りの良い花を咲かせる。
花は外側が赤紫色で内側が白色。白や淡紅色もある。なお、花びらのように見えるのは萼である。
ジンチョウゲ科の沈香と、フトモモ科の丁子に香りが似ていることから名付けられた。
香りが遠く千里に及ぶとの意味で「千里香」とも呼ばれる。
雌雄異株で、日本に植えられているのはほとんどが雄株なので実はつかない。
実のなるものは実なり沈丁花といわれるが、果実は有毒である。
漢名「瑞香」の由来は、山林の中で眠っていた僧侶が、夢の中で良い香りがしたので目を覚ますと、沈丁花が一面に咲いていたので「睡香」と名付けたのが、のちに縁起がよいものとして「瑞香」となったという。
- 沈丁の香の石階に佇みぬ 高浜虚子
- 三日月の大きかりける沈丁花 松本たかし
- 丁子の香闇美しと思ふとき 渡辺青萌
- 沈丁の夜風からまる家路かな 和田祥子
海棠(かいどう)
晩春
バラ科の落葉低木、中国原産。
四月ごろ、紅色の長い柄から一重または八重の花を下向きに咲かせる。
古来、雨に濡れた様子が女性の艶姿にたとえられた。
睡れる花の異名は楊貴妃の故事に由来している。
実のなる実海棠が「海紅」で、黄色の実は食用になる。
野に自生して白い花を咲かせる野海棠もある。
また、園芸品種は多数創出されている。
- 海棠の日陰育ちも赤きかな 一茶
- 海棠の花より花へ雨の鵯(ひよ) 阿波野青畝
ライラック
晩春
ヨーロッパ原産のモクセイ科の落葉低木で、四月ごろ、香りのある紫色の花をつける。
寒地を好むので、東北・北海道などでよく植えられる。
花は円錐形のふさ状になる。淡紫色のほか、白、淡青色、青紫などの色もある。
花の先は四つに分かれているが、五つに分かれて星状になっているものをラッキーライラックといい、見つけると幸せになれるといわれている。
- 蝶来ると見ればいつしかリラ咲けり 水原秋櫻子
- 弥撒(ミサ)の鐘聴きをり牧のリラの辺に 貞弘衛
長春花(ちょうしゅんか)
晩春
庚申薔薇(こうしんばら)の名で知られる、中国原産のバラ。
春から秋まで咲く四季咲き性。
郁季の花(にわうめのはな)
晩春
中国原産のバラ科の落葉低木。
淡紅色または白色の小さい花を、枝の節々に2、3個ずつびっしりと咲かせる。
梅のような花を咲かせるので、庭梅とも呼ばれる。
しべが長く黄色が鮮やかに見える。
万葉集では唐棣(はねず)の名でその花色の美しさが詠まれている。
赤く熟した実は食用になり、果実酒にも用いられる。
- 曙や郁季の匂ふ家の前 青木月斗
躑躅(つつじ)
晩春
ツツジ科の植物の総称。種類が多く、花色も様々なものがある。
五月から夏の初めにかけてじょうご形の花を咲かせる。
古来より歌にも詠まれ、伝統色の襲色目にも「躑躅」がある。
水伝ふ磯の浦廻(うらみ)の石上(いは)つつじ 茂く開く(もくさく)道をまたも見むかも
舎人 万葉集巻二
舎人が召されて他の場所に移る時の思いを詠んだ歌。つつじが盛んに咲いている、この道を再び見ることができるだろうかという感慨が詠まれている。
- 盛りなる花曼荼羅の躑躅かな 高浜虚子
- 花びらのうすしと思ふ白つつじ 高野素十
- 漣のくづれずに寄る白つつじ 広瀬直人
霧島躑躅(きりしま)
晩春
躑躅の園芸種で、庭園、盆栽によく用いられる。
深山霧島、ヤマツツジを親として改良された。
- 遠き過去霧島躑躅火がつきて 篠田悌二郎
アザレア
晩春
ツツジ科の常緑低木。アジア原産のサツキなどをもとに、ヨーロッパで品種改良されたもの。
大輪で八重咲きの花を咲かせる。
花期は春だが、温室で促成栽培されたものが冬から出回る。
寒さに弱いので、鉢植えにして冬は室内で育てる。
- アザレアに触れしドレスの裾ひらく 福田清秋
藤(ふじ)
晩春
日本原産のマメ科のつる性落葉低木。
四月末頃から香りのある薄紫色の花を総状花序に垂れて咲かせる。
観賞用として藤棚を作って栽培される。
長く垂れた花穂が風に揺れる優雅な様子を藤浪といって、古くから日本人に愛されてきた。
古事記には藤の伝説があり、万葉集では多数の藤の歌が詠まれている。
藤波の影なす海の底清み沈著(しづ)く石をも珠とそわが見る
大伴家持 万葉集巻十九
- くたびれて宿かる頃や藤の花 芭蕉
- ぬれつゝも藤沈みたる暮の色 園女
- 藤棚や雨に紫末濃(すそご)なる 泉鏡花
- 梢の子踊り満樹の藤揺るる 中村草田男
- 白藤や揺りやみしかばうすみどり 芝不器男
桃の花(もものはな)
晩春
バラ科の落葉小高木。三月から四月にかけて、淡紅色の五弁花を咲かせる。
ひな祭りには欠かせない花となっている。
白花の白桃、濃紅色の緋桃、紅白咲き分けの源平桃などがある。
中国北部原産で、古く日本に渡来し花を愛でるとともに薬用ともしてきた。
古代中国より桃は邪気を払う霊力があるとされた。
日本書紀には、伊奘諾の尊(いざなぎのみこと)が雷に追われて逃げ帰った時に、道端の桃の木から実をとり投げつけたところ、雷はみな逃げていったという伝説が記されている。
大晦日の追儺式では桃の弓、葦の矢、桃の杖で鬼を追い払うという行事になった。
また桃太郎の鬼退治の話が生まれた。
春の苑(その)紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女(をとめ)
大伴家持 万葉集巻十九
- わが衣に伏見の桃の雫せよ 芭蕉
- 昼舟に乗るやふしみの桃の花 桃隣
- 桃柳かがやく川のながれかな 蝶夢
- 桃咲くや縁からあがる手習ひ子 斎藤緑雨
- 野に出れば人みなやさし桃の花 高野素十
- 桃咲いて風は素足で歩きけり 平井照敏
榠樝の花(かりんのはな)
晩春
中国原産のバラ科の落葉高木。
四月から五月にかけて、新葉とともに淡紅色の五弁花を咲かせる。
毎年樹皮が剥がれるため、幹に雲紋状の模様ができる。
木材としては赤い色を帯びて硬いので、古くから家具材や床柱として用いられる。
主に寒地で栽培される。
香りの良い実は秋の季語。
- 榠樝の花数へたくなるやさしさに 相馬遷子
- 小暗きに散り敷くことよ花かりん 岸田稚魚
木瓜の花(ぼけのはな)
晩春
中国原産のバラ科の落葉低木。
三月から四月ごろ、朱紅色または白の五弁花を咲かせる。
枝にはとげがある。
白と淡紅色の咲き分け品種もある。
秋に実が熟し、木瓜酒などに用いられる。
- 紬着る人見送るや木瓜の花 許六
- 花よりも水くれなゐに井出の木瓜 飯田蛇笏
- 浮き雲の影あまた過ぎ木瓜ひらく 水原秋桜子
樝子の花(しどみのはな)
晩春
日本原産のバラ科ボケ属の落葉小低木。
草木瓜ともいわれ、山野などに自生する。
高さは30~60センチほどで、細い枝が蔓状に伸びて、とげがある。
四月から五月に木瓜に似た朱紅色の五弁花を咲かせる。
秋に黄色い実が熟す。
八重咲きや白花の品種もある。
- 土ふかくしどみは花をちりばめぬ 軽部烏頭子
- 花しどみ倚れば花より花こぼれ 橋本多佳子