春になると、ニュースや天気予報で春一番の話題を聞くことがあります。
春一番といえば有名な歌謡曲の題名にもなったことから、春のうららかなイメージがあるかもしれませんが、実際の春一番と言われる風は非常に強く、さまざまな災害を引き起こす危険な風です。
(春の暖かくのどかな軟風は「春風」「風光る」などとなります。)
今回は春一番について、その由来や例句もまとめてみました。
俳句作りの際にぜひご参考になさってください。
春、天文
春一番
仲春
立春(二月四日ころ)から春分(三月二十一日ころ)までの間に、日本海側に低気圧が発達し広い範囲で初めて吹く、暖かく強い南風のことをいいます。
地域によっても異なりますが、気象庁では風速8m/s以上の風(1秒間に8メートル)が吹くと、春一番としています。
これはかなり強い風で、気温が上がり「春を呼ぶ風」という優しい印象とは異なり、火災や雪崩、竜巻などをもたらす恐れがある注意の必要な風となります。
最初にこの風を春一番と呼ぶようになったのは、長崎県の壱岐島(いきのしま)といわれています。
1859年にこの春先に吹く強い南風の影響で、漁に出ていた船はことごとく転覆し、大勢の漁師が遭難しました。
漁師たちはこの南からの暴風を「春一番」「春一」と呼び恐れていましたが、この事故以後は気象の調査に尽力し安全な漁に徹したとのことです。
郷ノ浦港には、自然の怖さを忘れず漁の安全を祈願して建てられた「春一番の塔」があります。
春一番は雨を伴うこともあり、傘がさせないほど吹き荒れることもあります。
春一番武蔵野の池波あげて 水原秋桜子
春一や列島藻塩まぶれとす 阿波野青畝
石蓴(あをさ)打ち上げて通りし春一番 右城暮石
雀らも春一番にのりて迅(はや)し 皆吉爽雨
声散つて春一番の雀たち 清水基吉
春一番砂ざらざらと家を責め 福田甲子雄
春一番吹き抜けしあと畦(あぜ)見ゆる 進村五月
春一番山を過ぎゆく山の音 藤原滋章
同じく春の強い南風を、「春疾風(はるはやて)」といいます。
また強風で砂塵が巻き上げられると「春塵(しゅんじん)」になります。
強い南風が山脈を越えて日本海側に乾いた高温の風をもたらすと、「フェーン」となり火災に注意が必要になります。