初春は、春の三ヶ月を初春、仲春、晩春と分けたときの始めの一ヶ月で、ほぼ二月にあたります。
二十四節気では立春、雨水の期間(二月四日頃から三月五日頃)になります。
今回は春の時候の季語のなかでも、初春に分類される季語を集めました。
仲春、三月の時候の季語晩春、四月の時候の季語三春の時候の季語
春の季語一覧
時候
初春(しょしゅん)
初春
春を初春、仲春、晩春と三つに分けたうちの第一。春の初めのひと月。
また、立春後まもない春の初めをいう。
- 初春まづ酒に梅売るにほひかな 芭蕉
- 枯枝に初春の雨の玉円(まど)か 高浜虚子
- 孟春や鳥影須臾(しゅゆ)もとゞまらず 光岡朶青子
二月(にがつ)
初春
陽暦二月四日ころに立春を迎え、二月はほぼ初春にあたる。
実際にはまだ寒さの厳しい時期だが、次第に日脚も伸び梅も咲きはじめ、冬から春へ移り変わってゆくのが確実に感じられる時期である。
- 鴨減りて水のさびしき二月かな 樗堂
- 梅散つて鶴の子寒き二月かな 内藤鳴雪
- 眠れねば香きく風の二月かな 渡辺水巴
- 累々と橙落つる二月かな 野村喜舟
- 雪の上に二月の雨の降りにけり 石原舟月
- 晴れわたる浅黄の空の二月かな 物種鴻両
睦月(むつき)
初春
陰暦一月の異名で、ほぼ陽暦の二月にあたる。
正月は親疎往きむつぶゆゑに、むつみ月ともひへり
北村季吟「増山の井」
- 山国の年端月なる竃火(かまび)かな 飯田蛇笏
- 神の磴睦月の蝶を遊ばしむ 富安風生
- 筑紫野ははこべ花咲く睦月かな 杉田久女
- 能登低く見ゆや睦月の波の上 岸川素粒子
旧正月(きゅうしょうがつ)
初春
陰暦の正月で、略して旧正ともいう。
陽暦への移行に伴い、日本ではほとんど行われなくなった。
潮の満ち引きが影響する漁業や、月齢によって作業をする農業など、地方によっては旧正月を祝うところもある。古き時代を懐かしむ味わいのある語である。
- 旧正を今もまもりて浦人等 高浜年尾
- 琉球王国よりの旧正にぎやかに 上村占魚
- 隣りより旧正月の餅くれぬ 石橋秀野
- 桑畑も旧正月もなくなりし 岸霜蔭
寒明(かんあけ)
初春
寒は小寒(一月五日ころ)から大寒(一月二十日ころ)の期間で、節分までの約三十日間なので、寒明けは実際には立春と同じである。
寒さの極まる期間が終わったという安堵の気持ちが込められた言葉。
- ふるさとの菓子嚙み割りし寒の明け 横光利一
- 明色のネクタイに替へ寒明くる 米澤吾亦紅
- 寒明くる家並みの隙の夕茜 田中江
- 寒明けの三和土(たたき)に釦ひろひけり 佐藤ゆき子
- 寒明けの畳にひろげ形見分け 島田藤江
立春(りっしゅん)
初春
二十四節気の一つで、二月四日ころにあたる。
節分の翌日で、暦の上ではこの日から春になる。
春立つ(はるたつ)、立春大吉(りっしゅんだいきち)
春来る(はるくる)、春さる(はるさる)、春になる…これらは必ずしも立春の日でなくてもよい
- 春たちてまだ九日の野山かな 芭蕉
- 音なしに春こそ来たれ梅一つ 召波
- 花鳥にひま盗まばや春も立ち 杉風
- 何事もなくて春立つあしたかな 士朗
- さざ波は立春の譜をひろげたり 渡辺水巴
- 立春の日の輪月の輪雲の中 中川宗淵
早春(そうしゅん)
初春
立春を迎え、暦の上では春になってしばらくの間。
まだ冬の寒さの中にありながらも、万象の中に春のしるしが垣間見えるころ。
- 早春の入日林中の笹を染む 水原秋櫻子
- 早春の門すこしぬれ朝の雨 及川貞
- 早春の見えぬもの降る雑木山 山田みづえ
- 早春の光返して風の梢 稲畑汀子
春浅し(はるあさし)
初春
立春を過ぎ暦の上で春となってもまだ寒く、本当の春にはまだ遠く感じる、春の初めの頃。
「早春」が立春後しばらくの時候をさす語であるのに対し、「春浅し」には実感の上での気持ちがこもる。
- 春浅き水を渡るや鷺一つ 河東碧梧桐
- それ以来誰にも逢はず春浅し 鈴木花蓑
- 白き皿に絵の具を溶けば春浅し 夏目漱石
- 眺めやる野水の行方(ゆくへ)春浅し 松本たかし
- 春浅き白飯に湯をそそぐなり 本宮銑太郎
冴返る(さえかえる)
初春
寒が明け、立春を過ぎ春になってから、一旦緩んだ寒気がぶり返すこと。
余寒、春寒を意味するが、寒波の襲来や冷気が澄み通るような、より動的な語である。
- 柊にさえかえりたる月夜かな 丈草
- 冴返る音や霰の十粒程 正岡子規
- 一本の薄紅梅に冴え返る 高浜虚子
- 真青な木賊(とくさ)の色や冴返る 夏目漱石
余寒(よかん)
初春
寒が明け、立春を過ぎてからも、なお残る寒さのこと。
冬の寒さが続いているという意味がある。
- ものの葉のまだものめかぬ余寒かな 千代女
- 関守の火鉢小さき余寒かな 蕪村
- 水に落ちし椿の氷る余寒かな 几董
- 余寒なほ爪立ちともすひとりの灯 樋口冨貴子
春寒(はるさむ)
初春
春になってからの寒さ。
余寒と同じだが、余寒が冬の寒さが残るというのに対し、春寒は「春」に心を寄せているところがある。
また春寒(はるさむ)というのと、春寒(しゅんかん)というのとでは響きの違いから表現効果にも微妙な違いが生じる。
料峭(りょうしょう)とは、春風が肌に寒く感じられること。
- 春寒し風の笹山ひるがへり 暁台
- 橋一つ越す間を春の寒さかな 成美
- 春寒の指環なじまぬ手を眺め 星野立子
- 春寒といふやはらかき日ざしかな 高桑義生
遅春(ちしゅん)
初春
立春以後も、なかなか暖かくならないこと。
春の到来を切実に待ち望む気持ちがこもった語である。
- わが快き日妻すぐれぬ日春遅々と 富安風生
- 春遅し泉の末の倒れ木も 石田波郷
- 春遅々とたためる傘の滴れり 蓬田紀枝子
春めく(はるめく)
初春
春らしい兆しが現れてくること。
二月、三月のまだ寒い中、人々は春の訪れを待ち望み、春の気配を感じ取った。
- 鶯の来ぬ日春めく木の間かな 鳳朗
- 春めきし野山消え去る夕かげり 高浜虚子
- 春めきてものの果てなる空の色 飯田蛇笏
- 春めくや真夜ふりいでし雨ながら 軽部烏頭子
- 春めきて小夜の客ある茶の間かな 松尾静子
うりずん
初春
沖縄で旧暦二月、三月の時期、潤いが土に滲み透るという意味を持つ。
爽やかで暖かな風が吹き、麦の穂が出る頃といわれる。
- うりずんや石塀高き島の家 丁野弘
- 花木棉(ばんや)黄のあざやかにうりずん南風 知念広径
- うりずんや屋根石として装へる 松下康雨
魚氷に上る(うおひにのぼる)
初春
七十二候の一つで、立春の第三候にあたる。
春になって氷の割れ目から魚が躍り出て、氷に上るということ。
- 魚は氷に上りて白き鷗どり 森澄雄
- 魚が氷に上るを待てり石に坐し 草間時彦
- 魚は氷に上り光の渦まとふ 北光星
- 山陰や魚氷に上る風のいろ 原裕
雨水(うすい)
初春
二十四節気の一つで、立春の後十五日頃で、二月十九日頃。
雪や氷が溶けて水になるという意味。
- 薩埵富士雪縞あらき雨水かな 富安風生
- 大楠に諸鳥こぞる雨水かな 木村蕪城
- 落ちてゐし種ふくらめる雨水かな 滝沢伊代次
- 地をおほふ靄に雨水の日の夕べ 井沢正江
獺魚を祭る(かわうそうおをまつる)
初春
七十二候の一つで、雨水の第一候にあたる。
獺が捕らえた魚を岸に並べる様子が、先祖の祭りの供え物に見えるところからといわれる。
正岡子規はまわりに書物をならべているのを魚を並べる獺になぞらえ、「獺祭書屋主人(だっさいしょおくしゅじん)」と号した。
そのため、その忌日を「獺祭忌(だっさいき)」と呼ぶ。(正岡子規の忌日は「糸瓜忌(へちまき)」ともいう)
- 獺の祭見て来よ瀬田の奥 芭蕉
- 茶器どもを獺の祭の並べ方 正岡子規
- 夕月や魚祭るらん獺の声 吉田冬葉
- 獺の祭球磨もここらは緩やかに 宗像夕野火
二月尽(にがつじん)
初春
二月が終わること。
二月二十八日、閏年なら二月二十九日であるが、二月も末の方という意味で用いられることが多い。
- ちらちらと空を梅ちり二月尽 原石鼎
- 雪原の靄に日が溶け二月尽 相馬遷子
- 櫂(かい)入れし水の素直さ二月逝く 朔多恭
- 二月尽くかがやかざりし一日もて 綾部仁喜