雪に関する季語、天文と地理編です。
雪にもたくさんの名前があります。
さらさらの雪、湿った雪、降り積もった雪、みぞれのような雪、風を伴った雪…
雪の状態、周りの状況によりたくさんの言葉が生まれました。
とくに雪国では大変な試練の時であり、生活に根ざした言葉がたくさん生まれました。
(雪に関する季語・生活編はこちら)
白居易の漢詩から生まれた言葉「雪月花」にもあるように、美しく風流なものの代表でもある雪。
純白の輝きの中に、いつかは融けて消え去ってしまう儚さを秘めている雪に、人々は様々な思いを託して歌に詠んできました。
雪の結晶を研究した中谷宇吉郎は、「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残しています。
雪の俳句を詠まれる際に、ぜひ参考になさってください。
春の雪の季語
天文
雪催い(ゆきもよい)
三冬
今にも雪が降り出しそうな空模様のこと。
空には重く灰色の雲がたれこめ、冷え込んでどんよりと暗くなってくる。
- 雪空と鐘にしらるる夕べかな 西鶴
- やはらかに袱紗(ふくさ)折つたり雪曇り 才麿
- 京まではまだ半空(なかぞら)や雪の雲 芭蕉
- 狐鳴く岡の昼間や雪曇り 丈草
- 雪催ひせる庭ながら下り立ちぬ 高浜虚子
- 湯帰りや灯ともし頃の雪もよひ 永井荷風
初雪(はつゆき)
仲冬
その冬に初めて降る雪のことで、積もらなくても「初雪」という。
北海道では十月下旬ころ、東北では十一月ころ、その他の地域でも十二月ころが多い。
標高の高い富士山では、九月から十月に初冠雪を迎えることが多い。
- 初雪や水仙の葉の撓(たわ)むまで 芭蕉
- 初雪や払ひもあえずかいつぶり 許六
- 初雪や柿に粉のふく伊吹山 許六
- 初雪や真葛の枯葉降りつたふ 青蘿
- 初雪や田中の杭の一つづつ 柳居
- はじめての雪闇に降り闇にやむ 野澤節子
- うしろより初雪降れり夜の町 前田普羅
雪
晩冬
冬、上空の水蒸気が凍って結晶となって降るもの。
山に積雪の形が浮かび上がる雪形によって、古くはその年の農作物の豊凶を占った。また、農作業の目安となる農事暦として用いられた。
雪は豊年の瑞(しるし)ということわざにもある通り、雪が多く降るのは豊年の前兆とされ、雪は昔から稲の花に見立てられてきた。
また、白居易の詩由来の言葉「雪月花」は自然の四季の美しいものの代表とされている。
雪に儚いもの、移ろいゆくものの美を見出す感性が、月、花とともに、多くの俳句を生んできました。
雪片(せっぺん)、新雪、粉雪、
根雪(積雪が重なり春まで溶けずに残っている雪)、積雪、
しまり雪(積もった雪が圧縮されて密度が高くなったもの)、
ざらめ雪(表面の雪が溶けたり凍ったりを繰り返し、ざらめ糖状になったもの)、
湿雪(しっせつ)、べと雪、水雪(雨交じりの雪)、
雪紐(ゆきひも…木の枝や塀などに積もった雪が溶けてすべり、紐のように垂れ下がったもの)、
筒雪(つつゆき…電線などに凍りついた雪)、
冠雪(かむりゆき…門柱、電柱などに積もって大きく笠状になった雪)、
雪冠(ゆきかむり…冠雪に同じ)、
雪庇(せっぴ…山の稜線から風下の谷に向かって突き出して、ひさしのようにせり出した雪)、
細雪(ささめゆき)、
餅雪(もちゆき…餅のようにふわふわした雪)、
小米雪(こごめゆき…砕けた粉米のように細かな雪)、
衾雪(ふすまゆき…衾とは昔の掛け布団の一種で、衾を広げたように一面に厚く降り積もった雪)、
しずり雪(木の枝などから落ちる雪)、しずり、
堅雪(かたゆき…昼間に溶けた雪が夜にまた凍結して硬くなったもの)、
雪空、雪気(ゆきげ…雪が降りそうな空模様)、
雪催い(ゆきもよい…雪が降りそうな空模様)、雪模様、雪雲、雪曇り、
雪暗(ゆきぐれ…雪雲で暗くなること)、
雪風、
雪明(ゆきあかり…積もった雪の反射で、夜が薄明るく見えること)、
雪の声(木や屋根などに積もった雪が落ちる音や、雪が窓に当たる音など)、
大雪、小雪、深雪(みゆき…深く積もった雪)、
雪月夜、雪晴、雪景色、暮雪(ぼせつ…夕暮れに降る雪、夕暮れの雪景色)、
雪国
- 馬をさへながむる雪の朝(あした)かな 芭蕉
- 我が雪とおもへばかろし笠の雪 其角
- 雪の旦(あさ)母屋のけぶりめでたさよ 蕪村
- 麦の芽のうごかぬ程に小雪ちる 蝶夢
- 是がまあつひの栖(すみか)か雪五尺 一茶
- 地の涯(はて)に倖せありと来しが雪 細谷源二
雪晴(ゆきばれ)
晩冬
雪が止み、空が晴れ渡ること。
雪の翌朝は、快晴で無風になることが多い。
ひときわ明るく静かな雪景色が広がる。
- 雪晴れて蒼天落つるしずくかな 前田普羅
風花(かざはな)
晩冬
晴天にちらつく雪。
高い山から風下に向かって雪片が飛来する。
- 日ねもすの風花淋しからざるや 高浜虚子
- 日が眩し牟婁(むろ)の風花こまやかに 高橋淡路女
- 風花や胸にはとはの摩擦音 石田波郷
- いまありし日を風花の中に探す 橋本多佳子
吹雪(ふぶき)
晩冬
強い風を伴い、激しく降る雪。
古くは「雪吹(ふぶき)」と書いた。
雪煙(ゆきけむり…雪が風で舞い上がり、煙のように見える現象)、
雪浪(ゆきなみ…積もった雪の表面に、波紋の起伏ができること)
- 雁高く低く雪吹をめぐるかな 暁台
- 長橋の行先かくす雪吹かな 太祇
- 瓦斯(ガス)燈に吹雪かがやく街を見たり 北原白秋
- 行人や吹雪に消されそれつきり 松本たかし
雪しまき
晩冬
雪をともなった、激しく吹き荒れる風や旋風。
吹雪と同じ状況だが、風が主となっている言葉である。
しまきは「風巻」と書く。
- しまきくる雪の黒みや雲の間 丈草
- しまきして烏賊(いか)釣る篝(かがり)消されたり 寺野守水老
- 梅寒し野に一塊のしまき雲 内藤吐天
雪時雨(ゆきしぐれ)
晩冬
時雨が雪や霙(みぞれ)になり、降ったり止んだりすること。
- 海かけて暗むと見れば雪しぐれ 石塚友二
- 古町の三つ目の角雪しぐれ 日下部宵三
雪女
晩冬
大雪の夜に、雪のような白い肌をして白装束を着た女の姿で現れる、想像上の雪の妖怪。
雪山で道に迷った人間の男に、氷のように冷たい息を吹きかけて凍死させる。
- かく行けば平家は住まず雪女郎 阿波野青畝
- 雪女郎振りむけば去る振り向かず 永井東門居
- 笄(こうがい)は白骨作り雪女 鈴木真砂女(笄…髪をかき上げたり、髷(まげ)などに挿す髪飾りの一種)
しずり
三冬
木の枝や屋根などから、積もった雪が落ちること。
雪の重みで自然に落ちたり、風により吹き落されたり、日に溶けて落ちることもある。
漢字では「垂る(しずる)」と書く。
- 寝て起きぬ戸をこそ操るやしづり雪 永井荷風
- しづり雪誘ひさそはれ淵に落つ 阿波野青畝
- 何鳥の撃たれし音や雪しづれ 深谷光重
雪起し(ゆきおこし)
三冬
雪の降ろうとする時に鳴る雷。
寒冷前線の通過に伴う現象で、空が急に暗くなったかと思うと、突然雷光と雷鳴があり、その後強い季節風と降雪があることが多い。
雪国の人々はこれを雪起しと呼んだ。
- 照るときの伊吹の鞍や雪起 阿波野青畝
- とつぷりと暮れし海より雪起し 田村木国
- 黒燿(こくよう)の眼が驚きし雪の雷 細見綾子
- 雪起し障子震はし過ぎにけり 本間翠雪
地理
雪山、雪嶺(せつれい)
三冬
冬の季語「冬の山」の傍題。
雪が積もった山。
草木も枯れつくし、荒々しい岩肌に雪が降り積もっている山。
高い雪嶺を遠くから眺めて詠むことが多いが、冬山登山やスキーなど様々な視点からも詠むことができる。
そちらは宮中や貴族の邸宅の庭に、雪で蓬莱山などに似せた山を作るものです。
冬山、枯山(かれやま)、冬山路(ふゆやまじ)、冬山家(ふゆやまが)、冬山肌(ふゆやまはだ)、冬嶺(ふゆみね)、冬登山
- 雪山を匍(は)ひまはりゐる谺かな 飯田蛇笏
- 雪嶺に汽車現れてやゝ久し 中村汀女
- 雪嶺に三日月の匕首飛べりけり 松本たかし(匕首とは、つばのない短剣、合い口のこと)
- 鳶ないて雪山空に暮れかぬる 金尾梅の門
- 雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 森澄雄
雪の田
三冬
冬の季語「冬田(ふゆた)」の傍題。
冬田は、稲刈りの後そのままにしてある冬の田のことで、そこに雪が降ると雪の田になる。
冬の田、休め田、冬田道、冬田面(ふゆたも)
- 雪の小田びろうどびかりさしにけり 阿波野青畝
凍渡(しみわたり)
晩冬
積もった雪が固く凍りついたところへ、日差しにより柔らかくなって、溶けかかり濡れたようになっている雪の上を歩いて行くこと。
春の到来を予感させる言葉である。
- 小学校ひきよせて子の凍渡 千保霞舟
雪壁(せっぺき)
晩冬
冬の季語「氷壁(ひょうへき)」の傍題。
山や渓谷の岩壁などに雪がつき、雪の壁となったもの。
- 夜明けむと大雪壁の押出づる 望月たかし