雪の季語で一番多いのが、生活に関するものです。
雪への備えから始まり、雪かきなど除雪作業、移動手段、衣服や履物など、必要に応じて雪専用のものがたくさん生まれました。
子どもたちは雪合戦や雪だるま作りをして遊び、大人も雪見やウインタースポーツなど、雪の時期ならではの楽しみがあります。
生活の中で生まれたこれらの季語を見つけたら、一句詠んでみませんか。
生活・雪への備え
雪囲(ゆきがこい)
仲冬
雪国で、とくに強い北西の風や雪の害を防ぐための冬構えのひとつ。
家の周囲、屋根や戸などに木組みをして、束ねた藁(わら)や萱(かや)などをかけて除雪する。
- 雪がこひするやいなやにみそさざい 浪化
- 親犬や天窓(あたま)で明ける雪囲ひ 一茶
- 雪囲よりあふれ出て子ら下校 法師浜桜白
- 雪垣の一隅パセリ青みけり 樋笠文
雁木(がんぎ)
晩冬
雪の多い北信越地域で、雪よけのため家屋の前につける広い庇(ひさし)のこと。
往来の通路を確保するため、道を覆うように軒から長く突き出すように作られる。
雪国の商店街では歩道全体に屋根を造っているところが多い。
普段は雨よけにもなっている。
- 灯一つともる雁木を行きぬけし 高野素十
- 来る人に灯影ふとある雁木かな 高野素十
- 雁木外れ浜焼きの魚尾をつらね 石田章子
墓囲う(はかかこう)
仲冬
寒さの厳しい地域では、積雪や寒気のために墓石が破損することを防ぐため、筵(むしろ)や菰(こも)で墓を囲うように巻きつける。
- 薦(こも)巻いてさらに埋れて雪の墓 森澄雄
- 藁厚く囲みて縛る母の墓 船田一路
藪巻(やぶまき)
仲冬
木や竹の雪折れを防ぐために、筵(むしろ)や縄でぐるぐる巻きにしておくこと。
丹念に巻くというよりは、ごく無造作に巻きつけてあるので面白い風情がある。
- 薮巻の雪解け道にさす日かな 塩谷鵜平
- 薮巻のひとつひとつに風の鳴る 法師浜桜白
- 薮巻やこどものこゑの裏山に 星野麦丘人
雪吊(ゆきづり)
仲冬
庭園や公園、庭などの木の枝が雪の重みで折れるのを防ぐため、支柱を立て縄を張り、枝を吊り上げておくこと。
金沢市の兼六園の雪吊りの松が有名である。
- 大寒の星に雪吊り光りけり 久保田万太郎
- 雪吊の白山颯とかがやけり 阿波野青畝
- 雪吊りの百万石の城曇る 阿波野青畝
- 雪吊や旅信を書くに水二滴 宇佐見魚目
生活・除雪作業
雪搔(ゆきかき)
晩冬
家の前や表通りの雪を掻いて往来を確保すること。
雪国では毎日のように行わなければならない重労働である。
先の平らな除雪用のスコップや、雪掻きべらを使う。
- 雪掃や地蔵菩薩のつむり迄 一茶
- 雪掻いてゐる音ありしねざめかな 久保田万太郎
- 身ひとつや仏仕えも雪掻きも 高岡智照尼
- 雪掻いて黄菊の花のあらはるる 高野素十
雪下し(ゆきおろし)
晩冬
力が要る上に危険な作業だが、屋根に積もった雪の重みで家が傾いたり、戸や窓が開かなくなるのを防ぐために必要な作業である。
最近では屋根の材質や勾配や建て方などさまざまな工夫により、雪下ろしが不要な家も多くなった。
- 飛びたつは夕山鳥かゆきおろし 白雄
- 雪卸し能登見ゆるまでに上りけり 前田普羅
- 雪下す日の山はみなかがやける 法師浜桜白
- 燈標の昏るる迅さよ雪卸し 村上しゆら
雪踏(ゆきふみ)
晩冬
道に降り積もった雪を踏み固めて、その上を行き来できるようにすること。
俵を半分に切ったような藁沓で、紐で吊り上げるようにして雪を踏み固める。
- 雪踏みて乾ける落葉現はれぬ 高浜虚子
- 雪踏に馴れみちのくの冬に馴れ 二唐空々
- 雪踏みの父ら吹雪にまた隠る 西村公鳳
融雪溝(ゆうせつこう)
晩冬
道路の側溝に発電所からの温水を流し、路上の雪を投入して融かす装置。
- たまの旭に融雪溝のわきあふる 飯山修
- 融雪装置まはり郵便届けらる 杉本清子
消雪パイプ(しょうせつぱいぷ)
晩冬
道路の中央に埋め込んだパイプから、雪よりも温度の高い地下水を散布し、雪を消す装置。
気温が低い北海道などでは、散布した水自体が凍ってしまうため、使われていない。
- 雪やんで消雪パイプ虹生めり 小松沙陀夫
生活・乗り物
橇(そり)
三冬
雪や氷の上をすべらせて、人や荷物を運ぶ道具。
馬や犬に引かせるもの、手押しのものなど。
冬山で切り出した木材を運搬するため、山の木立の中を縫うように移動し運ぶことのできる馬橇は、現在でも使われている。
- 一つ行く橇に浪うつ最上川 前田普羅
- 橇の道雪あたらしくかゞやけり 水原秋桜子
- 橇がゆき満天の星幌にする 橋本多佳子
雪上車(せつじょうしゃ)
晩冬
雪や氷の上を走るための車で、キャタピラーを装備している。
- 山裾に入る雪上車浮き沈み 村上しゆら
- 雪上車傾く車中にて怺(こら)ふ 橋本美代子
ラッセル車(らっせるしゃ)
晩冬
雪を押し分けながら除雪する、除雪用の機関車。
先端が船首部分のような形をしている。
羽根車がついていて雪を遠くまで飛ばす装置のあるものを、ロータリー車という。
- 除雪車を降り埋めむと雪舞へり 水原秋桜子
- 除雪車に雪降る海が動きくる 加藤楸邨
スノーチェーン
晩冬
降雪時にスリップを防ぐため、タイヤに巻きつけるタイヤチェーン。
- 旧街道スノーチェーンの音過ぎゆく 戸川稲村
生活・身に付けるもの
雪合羽(ゆきがっぱ)
三冬
北国の人が雪の日に着る合羽のこと。
特別に仕立てたものではなく、雪の日に着るので雪合羽という。
古くは紙に油をひいたものを用いたが、その後木綿や羅紗製のものができた。
- 合羽つづく雪の夕べの石部駅 正岡子規
- 雪蓑の子が立つ道のまん中に 中田みづほ
- 火に寄れば皆旅人や雪合羽 細見綾子
雪袴(ゆきばかま)
三冬
雪国で用いる袴で、裾を締めた括り袴(くくりばかま)風の下衣。
雪深い日の外出には、その上から脛巾(はばき)をつける。(脛巾とは、藁などで出来ていて、すねから足元にかけて巻きつけてひもで結び、歩きやすくするもの。)
- 雪袴腰のふくらみ菜を洗ふ 森澄雄
雪帽子(ゆきぼうし)
三冬
冬の季語「防寒帽(ぼうかんぼう)」の傍題。
雪の日にかぶり、防寒とともに雪を防ぐ帽子。
毛帽子、蓑帽子
- 雪帽子まぶか終生どもる癖 小泉行雄
- 古寺やかけならべたる蓑帽子 会田耕成
- 一日の旅に馴染し雪帽子 吉村ひさ志
雪沓(ゆきぐつ)
三冬
雪の中を歩くための、藁(わら)で編んだ沓(くつ)のこと。
雪国ではさまざまな形の雪沓がある。
- 雪沓も脱がで炉辺の話かな 正岡子規
- 鮎焼きの炉辺の雪沓うつくしき 前田普羅
- 蹤(つ)いて来る子の雪沓も鳴りにけり 黒木野雨
綱貫(つなぬき)
三冬
雪沓(ゆきぐつ)の一種。皮で作り、底に鉄の釘を打ったもの。雪の中を歩くのに用いた。
- 綱貫や一夜に室生雪籠めに 早崎明
- 綱貫は神々が履く沓に似る 中西碧秋
樏(かんじき)
三冬
深い雪に足を踏み込んだり、滑ったりしないように、履物の下につける道具。
木の枝、つるなどを円形や楕円形に曲げて作る。
- 城うらや樏の道に星光る 白雄
- 父と子や樏の跡混へつゝ 石田波郷
- 樏を履きて高野の人力車 福田蓼汀
雪下駄(ゆきげた)
三冬
雪国で雪の上を歩くために履く下駄。
歯の底には滑り止めがついていて、爪先を覆う爪皮がついている。
- 雪下駄が雪嚙み町へバス待つ間 米田一穂
- 雪下駄のひと灯の下に来て紅し 村上しゆら
生活・雪を楽しむ
雪見(ゆきみ)
晩冬
雪景色を眺めて賞すること。
花見、月見と並んで風流として楽しまれてきた。
- しづかにも漕ぎ上る見ゆ雪見船 高浜虚子
- 船頭の唄のよろしき雪見かな 斎藤梅子
雪丸げ(ゆきまろげ)
晩冬
雪の塊を雪の上で転がしながら、次第に大きな塊にしていくこと。
- 大小の雪まろげ行きちがひけり 中田みづほ
雪投げ(ゆきなげ)
晩冬
雪を丸めてボールのようにし、互いに投げてぶつけあって遊ぶこと。
- 軍兵を炭団(たどん)でまつや雪礫(つぶて) 其角
- 母織れる窓の下なる雪あそび 皆吉爽雨
- 雪合戦休みてわれ等通らしむ 山口波津女
雪兎(ゆきうさぎ)
晩冬
雪でウサギの形を作る遊び。
お盆の上に置き、目には赤い南天の実を、耳には南天の葉を用いる。
- 雪兎欲(ほ)りし熱の子もう眠る 久保田月鈴子
雪達磨(ゆきだるま)
晩冬
大きな雪玉の上に小さな雪玉を重ね、目鼻を木炭などでつける。
頭にバケツをかぶせたり、枝で手を作ったりする。
- 掃よせん君いざつくれ雪達磨 蓼太
- 月さえて二日になりぬ雪仏 蒼虬
雪像(せつぞう)
晩冬
雪でさまざまな物を模して造った像。
小さいものから、大きな建築物なども造られる。
札幌雪まつりが有名である。
- 時計台の針は顫(ふる)はず雪の像 新田汀花
- 雪祭星の暗きに身をしづめ 中丸義一
スキー
晩冬
一対の細長い板を足につけ、雪の上を滑るスポーツ。
元々は北欧の板樏(いたかんじき)の一種から生まれたもの。
様々な種目がある。
- スキー列車月蝕の野を曲るなく 石田波郷
生活・雪に関するその他
雪焼(ゆきやけ)
晩冬
積雪に反射した日光の紫外線により、皮膚が黒く焼けてしまうこと。
- 山頼りかせぐ村人雪焼けて 大野林火
- 岡持ちをさげてくる子の雪やけて 市川東子房
雪眼(ゆきめ)
晩冬
冬山やスキーで、積雪に反射した多量の紫外線に当たることにより、目の結膜や角膜に炎症を起こすこと。
- 雪眼に沁み風は山より一筋道 大野林火
雪眼鏡(ゆきめがね)
晩冬
雪眼になるのを防ぐため、紫外線防止のガラスで作られたゴーグル。
- 雪眼鏡山のさびしさ見て佇(た)てり 村山古郷
雪見舞(ゆきみまい)
晩冬
大雪があった時に、知人や親戚に安否を尋ねること。
また雪崩などさまざまな雪害の時に見舞うこと。
- 曙や伽藍伽藍の雪見廻ひ 荷兮
すが洩り(すがもり)
晩冬
寒地で屋根に積もった雪や、軒下に雪が凍ったものが、室内の暖房や雪解けに伴って融け、屋根葺材の間を通って小さな隙間から流れ込み、屋内に漏れて染みを作ること。
すがは氷、氷柱、凍った雪という意味。
- すが漏るや夜泣き子昼を深眠り 米田一穂
- すが漏れの音あやしくも夜となりぬ 堀川牧韻
雪見障子(ゆきみしょうじ)
三冬
冬の季語「障子」の傍題。
ガラス戸と組み合わせた障子で、障子を閉めていても外の雪景色を見えるようにしたもの。
地方により、ガラスの前に上げ下げできる障子をつけたもの(摺上げ(すりあげ)障子)を雪見障子と呼ぶことも多い。
冬障子、腰障子(下部に腰板のついている障子)、明かり障子(白い和紙を張った一般的なもの)、猫間障子(ねこましょうじ…開閉できる小障子を組み込んだ障子)
- 柔かき障子明りに観世音 富安風生
- ふりむけば障子の桟に夜の深さ 長谷川素逝
- しづかなるいちにちなりし障子かな 長谷川素逝
- 煎薬の匂ひ来る障子とざしけり 角川源義
雪竿(ゆきざお)
晩冬
積雪の深さを測るために立てる竿で、目盛りがついている。
また、雪に埋まってしまう道などで、道しるべとして使われる。
積雪地では道幅を知らせるため、路肩に沿ってスノーポールという赤と白に塗られた竿を立てる。
- 雪竿の上に見ゆるや佐渡ヶ島 伊藤松宇