晩冬は、冬の三ヶ月を初冬、仲冬、晩冬と分けたときの最後の一ヶ月で、ほぼ一月にあたります。
二十四節気では小寒、大寒の期間(一月五、六日頃から二月二、三日頃)になります。
今回は冬の時候の季語のなかでも、晩冬に分類される季語を集めました。
三冬の時候の季語
初冬、十一月の時候の季語
仲冬、十二月の時候の季語
時候
晩冬(ばんとう)
晩冬
冬を初冬、仲冬、晩冬と三期に分けた末の一か月。
陰暦では十二月のこと。陽暦では一月にあたる。
私大(わたくしだい)
晩冬
陰暦十二月が二十九日までの小の月の時、翌日の朔日を大晦日とし、一月二日を元旦としたこと。
津軽地方などで行われていた。
一月(いちがつ)
晩冬
一年の最初の月。
正月というと祝賀感があるが、一月というと簡潔で厳冬の季節感がある。
- 一月や枯れ木の肌の日のぬくみ 小島政二郎
- 流人も見し一月の遠澄みの空 榎本冬一郎
- 野歩きの果一月の星得たり 細見綾子
- 一月や油紋の海に雨の粒 桂信子
- 一月の正しき日数鴛鴦の水 神尾久美子
寒の入(かんのいり)
晩冬
寒に入ること。小寒の一月五、六日。
小寒、大寒の期間が寒の内。
寒の入りの時には各地で行事がある。
- うす壁にづんづと寒が入りにけり 一茶
- 踏み踏みて落葉微塵や寒の入 飛鳥田孋無公
- 夕焼に野川が染みつ寒の入 水原秋櫻子
- 同じ家に病母遠しや寒の入 目迫秩父
- 濁り江に魚深く棲む寒の入り 松影千春
小寒(しょうかん)
晩冬
二十四節気の一つ。冬至の後十五日目で、一月五、六日頃にあたる。
寒さが厳しい時期で、このころ武道や芸事の寒中稽古が始まる。
- 小寒や枯草に舞ふうすほこり 長谷川春草
- 小寒や石段下りて小笹原 波多野爽波
- 小寒のさゞなみ立てて木場の川 山田土偶
- 小寒の楠匂はせて彫師なる 坪野文子
鵲初めて巣くう(かささぎはじめてすくう)
晩冬
七十二候の一つで、小寒の次候・第二候(一月十日から十四日ころ)。
寛文三年の「増山の井」より記載が見られる。
- 鵲や松かさ一つ巣のはしら 車来
大寒(だいかん)
晩冬
二十四節気の一つ。小寒の後十五日間で、一月二十、二十一日ころ。
一年でも最も寒い時期。
- 大寒の粥あつあつと母子かな 清原枴童
- 大寒の富士へ向つて舟押し出す 西東三鬼
- 大寒やしづかにけむる茶碗蒸 日野草城
- 大寒の鳶水平に岬の日 田中冬子
鶏初めて交む(にわとりはじめてつるむ)
晩冬
七十二候の一つで、大寒の初候・第一候(一月二十日から二十四日ころ)。
鶏始乳(にわとりはじめてにゅうす)とされる。
日本の略本暦(明治)では大寒の末候・第三候にあたり、鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)という。
- 臼の蔭に鶏交む日向かな 朝叟
- 日に顫(ふる)ふしばしの影や鶏乳む 飯田蛇笏
- 鶏交り太陽泥をしたゝらし 富沢赤黄男
寒の内(かんのうち)
晩冬
小寒、大寒の候の総称。
寒の入り(小寒の一月五日ころ)から、寒明(かんあけ)となる立春の前日(節分二月三日ころ)までの、約三十日間。
寒に入って四日目を寒四郎、九日目を寒九という。
- から鮭も空也(くうや)の痩(やせ)も寒の内 芭蕉
- 寒ぬくし浪打際の雨の脚 松根東洋城
- 深山空寒日輪のゆるるさま 飯田蛇笏
- 寒の日が染めて畳の目の細か 菅裸馬
- ちいちいと山を鶸(ひは)とぶ寒九かな 岡井省二
寒土用(かんどよう)
晩冬
土用は年に四回あり、立春、立夏、立秋、立冬それぞれの前十八日間のこと。
単に「土用」といえば夏の土用のことをさすが、立春の前の十八日間を「寒土用」という。
- 寒晒土用の中をさかりかな 許六
- 白絹を裁つ妻と居て寒土用 北野民夫
- 腰おろす石ぬくかりし寒土用 前口美千子
厳寒(げんかん)
晩冬
冬のもっとも厳しい寒さ。
ことに大寒のころから二月にかけて、寒波の襲来による厳しい寒さが続く。
- 寒を盈(み)つ月金剛のみどりかな 飯田蛇笏
- 厳寒や夜の間に萎えし草の花 杉田久女
- 酷寒かなし母よと呼ばぬまでにして 中村草田男
- 酷寒の松へ赤ん坊負うて寄る 佐藤鬼房
- 聖堂の灯や極寒の坂照らす 岸風三楼
しばれる
晩冬
北海道、東北地方の方言で、厳しく冷え込むこと。
- 旭川のしばれなつかし二重窓 西本一都
- 凍れ木に手斧菱形一つづつ 北光星
- 崖しばれ羅漢のごとき眼をふやす 源鬼彦
- 空見えぬ海峡かしぐしばれかな 新谷ひろし
冬深し(ふゆふかし)
晩冬
真冬の厳冬期、ほぼ寒の内のころ。
- 冬深き井戸のけむりよ朝まだき 室生犀星
- 四囲の音聴き澄ますとき冬深く 加藤楸邨
- 冬深し海も夜毎のいさり火も 八木絵馬
- 糊皿に一雷鳴や冬深し 外川飼虎
- 冬深き志野の湯呑の肌ざはり 大場美夜子
- 親星を子星はなれず冬深む 大附沢麦青
- 鉄橋を渡るたび冬深むかな 山口いさを
日脚伸ぶ(ひあしのぶ)
晩冬
冬至の頃が昼が最も短く、冬至を過ぎるとだんだん日が長くなっていく。
春を前に日一日と日が長くなっていくのを感じるのは、冬も終わりに近づいたころである。
- 山へ帰る人に鴉に日脚のぶ 阿部みどり女
- 日脚伸ぶどこかゆるみし心あり 稲畑汀子
- 四十雀鳴きて日脚を伸ばしをり 福田甲子雄
- 山彦は奥嶺の使ひ日脚伸ぶ 牧野麦刄
- 日脚伸ぶ煎じ薬のいつか煮え 加藤覚範
春待つ(はるまつ)
晩冬
冬に、来るべき暖かな春を待ちわびる心。
- 待春や机にそろふ書の小口 浪化
- 春待つや空美しき国に来て 佐藤紅緑
- 真つ白き障子の中に春を待つ 松本たかし
春近し(はるちかし)
晩冬
冬の終わりに、春の近い訪れを待つ心。
- 仲見世や櫛簪に春近し 長谷川かな女
- 叱られて目をつぶる猫春隣 久保田万太郎
- 日あたりて春まぢかなり駅の土堤(どて) 山口誓子
- 春近し石段下りて薺(なづな)あり 高野素十
- 古書展へ水たまり跳ぶ春隣 広瀬一朗
冬尽く(ふゆつく)
晩冬
初冬、仲冬、晩冬の三冬が終わること。
長く暗い冬から解放され、ほっとする喜びがある。
- 波除に石蕗(つは)咲く冬も了りけり 加藤かけい
- 雨にうたす植木一鉢冬終る 村山古郷
- バラの刺白く三角冬も終る 山口青邨
節分(せつぶん)
晩冬
季節の分かれ目のことだが、後に「節分」といったら冬から春への変わり目(立春の前日)をさすようになった。
二月三日ころにあたる。
- 節分をともし立てたて独住 召波
- 節分や灰をならしてしづごころ 久保田万太郎
- 竹運ぶ船節分の雨の中 永井東門居
- 無患子(むくろじ)の実の残れるを節分会 細見綾子
年内立春(ねんないりっしゅん)
晩冬
旧暦で、新年になる前に立春が来ること。
立春は旧正月の元日の頃にあたるが、元日の前に来ることもあった。
- 立つとしのうちぎ姿かはるがすみ 貞室
- 年の内へ踏み込む春の日足かな 季吟
- 年の内の春や夜市の鉢の梅 桃隣
- 年のうちの春やたしかに水の音 千代女
- としのうちに春は来にけり茎の味 大魯