初冬は、冬の三ヶ月を初冬、仲冬、晩冬と分けたときの始めの一ヶ月で、ほぼ十一月にあたります。
二十四節気では立冬、小雪の期間(十一月七日頃から十二月六日頃)になります。
今回は冬の時候の季語のなかでも、初冬に分類される季語を集めました。
このように黄色で囲んだ語句は、その季語の傍題になります。
三冬の時候の季語仲冬、十二月の時候の季語晩冬、一月の時候の季語
時候
初冬(はつふゆ)
初冬
冬を初冬、仲冬、晩冬と三期に分けた初めの一か月。
陽暦のほぼ十一月にあたる。陰暦十月の異名。
草木が枯れ始め、本格的な寒い季節に入るころ。
上冬(じょうとう)、孟冬(もうとう)、冬の始(ふゆのはじめ)、冬はじめ、初冬(しょとう)
- 初冬や訪はんとおもふ人来り 蕪村
- はつ冬やふたつ子に箸とらせ見る 暁台
- はつ冬や空へ吹かるゝ蜘(くも)のいと 召波
- 初冬や竹伐る山の鉈の音 夏目漱石
- 初冬の竹緑なり詩仙堂 内藤鳴雪
- 初冬と詠みてさびしさゆゑ知らず 富安風生
- 湯にゆくと初冬の星座ふりかぶる 石橋秀野
十一月(じゅういちがつ)
初冬
七日頃に立冬を迎え、高地の山々より紅葉の季節になる。
後半に入ると冬の到来を告げる北からの凩(木枯、こがらし)が吹き、落葉が進む。
- 茨の実琥珀十一月終る 山口青邨
- あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男
- 峠見ゆ十一月のむなしさに 細見綾子
- 白湯をつぐ湯呑に十一月の昼 桂信子
- 刈り込んで十一月のかなめ垣 星野麦丘人
- 道に出て十一月のかたつむり 北市都黄男
- からまつに十一月の雨の音 野中亮介
神無月(かんなづき)
初冬
陰暦十月の異称。
この月には全国の神々が出雲に集うためとされる。
出雲では縁結びの相談がなされるといい、出雲だけは神在月という。
神去月(かみさりづき)、神在月(かみありづき)、神有月(かみありづき)、時雨月(しぐれづき)、初霜月(はつしもづき)
- 風寒し破れ障子の神無月 宗鑑
- 神無月ふくら雀ぞ先づ寒き 其角
- 神無月豆腐のうれる嵐かな 杉風
- 禅寺の松の落葉や神無月 凡兆
- 詣で来て神有月の大社かな 石田雨圃子
- 列をなしてあまた鮒の子神無月 牧瀬蟬之助
- 神在(いま)す月の出雲へ寝台車 大屋達治
立冬(りっとう)
初冬
二十四節気の一つで、冬の始まり。
霜降の後十五日、陽暦の十一月七日頃にあたる。
日差しは衰え、北風が吹きだし、日が暮れるのも早くなる。
「今朝の冬」は立冬の日の朝のこと。
冬立つ(ふゆたつ)、冬に入る(ふゆにいる)、冬来る(ふゆきたる)、今朝の冬(けさのふゆ)
- 菊の香や月夜ながらに冬に入る 正岡子規
- 出羽人も知らぬ山見ゆ今朝の冬 河東碧梧桐
- 佐久の郡(こほり)ものの音なく冬に入る 前田普羅
- 柴垣を透く日も冬に入りにけり 久保田万太郎
- 立冬や窓博(う)って透く鵯(ひよ)の羽根 石田波郷
- 冬来れば母の手織の紺深し 細見綾子
- 立冬の白波遠く念珠置く 桂信子
- 音たてて立冬の道掃かれけり 岸田稚魚
水始めて氷る(みずはじめてこおる)
初冬
七十二候のうち立冬の第一候で、陽暦十一月七日頃にあたる。
朝晩の冷え込みが厳しくなり、水がはじめて氷になるころ。
小雪(しょうせつ)
初冬
二十四節気の一つで、立冬の後十五日、十一月二十二日頃にあたる。
寒さまだ深からず、雪また大ならざるの意。
- 小雪や古りしだれたる糸桜 飯田蛇笏
- 小雪の朱を極めたる実南天 富安風生
- 小雪の箸ひとひらの千枚漬 長谷川かな女
- 小雪や月の夜干しの白野菜 細木芒角星
小春(こはる)
初冬
冬なのに春のように暖かいこと。
陰暦十月の異称。
小春日(こはるび)、小春日和(こはるびより)、小六月(ころくがつ)、小春凪(こはるなぎ)、小春空(こはるぞら)
- 古家のゆがみを直す小春かな 蕪村
- 海の音一日遠き小春かな 暁台
- 暮れそめて馬いそがする小春かな 几董
- 降る雨も小春也けり智恩院 一茶
- 湯治人枸杞摘みに出る小春かな 大須賀乙字
- 森に来れば森に人あり小六月 徳田秋聲
- 猫の眼に海の色ある小春かな 久保より江
冬浅し(ふゆあさし)
初冬
冬に入って間もない、まだ寒さも厳しくないころ。
浅き冬(あさきふゆ)
- 冬浅き月にむかひて立ちし影 久保田万太郎
- 窯いづる陶や竹林の冬浅し 上野泰
- 冬浅し鳥居のかげを芝に踏む 永尾宋斤
冬めく(ふゆめく)
初冬
やや冬が進んで、冬らしくなってきた感じのこと。
木々は落葉し、庭に霜が降り、人々も冬のコートを着込み、冬の景色へと移り変わる。
- 冬めくやうき身さみしく頰かむり 清原枴童
- 冬めくや引き捨てゝ積む葡萄蔓 伊東月草
- 冬めくと声の出で入る谷明り 原裕
- はやばやとともる街燈冬めける 富田直治
- 枯葉鳴るあした夕べに冬めきぬ 室積狙春