夏の雨に関する季語を集めました。
日本の夏は、五月の初夏、六月の梅雨、七月の盛夏と、気象的にみると三つの季節があります。
日中地表面が熱せられ、上空に寒気が流れ込んで来ると大気が不安定になり、夕方頃に雷をともなう激しい雨になることも多い夏。
雨が上がると、少し気温が下がり涼しい風が吹いてきます。
今回は梅雨に限定されない夏の雨の言葉を掲載しました。
雨が降った日には、ぜひこれらの季語で一句詠んでみてくださいね。
梅雨の季語はこちら
天文
夏の雨
三夏
夏に降る雨の総称。
五月雨、梅雨など特色のある雨ではなく、一般的な雨のこと。
- 着ながらにせんたくしたり夏の雨 一茶
- 負ふた子の一人ぬれけり夏の雨 正岡子規
- 太幹にはりつきし蝶や夏の雨 西山泊雲
- 夏雨やにごりの早き沢の水 上川井梨葉
- 夏の雨きらりきらりと降りはじむ 日野草城
- 夏雨に夜明けてゐたり大伽藍 中川宋淵
- 存分に育ちし欅夏の雨 高田風人子
卯の花腐し(うのはなくたし)
初夏
五月頃に卯の花(空木、ウツギの花)を腐らせるように、しとしと長く降り続ける雨。
(陰暦四月の別名を卯の花月といった。)
- 書淫の目あげて卯の花腐しかな 富安風生
- 書架静かなりし卯の花腐しかな 後藤夜半
- ひと日臥し卯の花腐し美しや 橋本多佳子
- 古傘に受くる卯の花腐しかな 日野草城
- 一つ家のよよと卯の花腐しかな 深川正一郎
- 卯の花腐し山国は墓所多し 飯田龍太
夏ぐれ
仲夏
沖縄で夕立のことを指す言葉。
本土よりも先に梅雨入りする、沖縄の雨期とされることもある。
夕立(ゆうだち)
三夏
夏の午後に大気が不安定になり、突然激しい大粒の雨が降ること。
多くは夕方に雷を伴って土砂降りになり、短時間で止む。
- 夕立に走り下るや竹の蟻 丈草
- 夕立のあとの大気や石拾ふ 渡辺水巴
- 睡蓮に水玉走る夕立かな 西山泊雲
- 夕立もやみたる頃の迎へ傘 高橋淡路女
- 夕立が洗つていつた茄子をもぐ 種田山頭火
- 法隆寺白雨やみたる雫かな 飴山實
- 大夕立青樟の香を残したる 坂内文應
驟雨(しゅうう)
三夏
夏のにわか雨、夕立のこと。
急に激しく降った後には涼しい空気をもたらす。
- 河豚の子が驟雨に口を浮かしくる 後藤七朗
- 薔薇垣の見る見る煙る驟雨かな 清崎敏郎
- すみずみを叩きて湖の驟雨かな 綾部仁喜
- 驟雨過ぎ蟹のあそべる御宝前 明石洋子
- 驟雨来る夏ひと夜さの山毛欅林 田原青女
喜雨(きう)
晩夏
夏の土用の頃に日照りが続き、旱魃(かんばつ)になっている時に、待ちに待った恵みの雨が降ること。
- 喜雨に次ぐ鶏鳴老の夜明待つ 原田浜人
- 疲れたる木々の葉に降る喜雨の音 星野立子
- 仏灯のまたゝきつゞけ喜雨到る 加藤霞村
- ありがたやひゞきて喜雨の竹雫 石塚友二
- 来る人の傘のけぶりて喜雨の中 山本二十二鹿
雹(ひょう)
三夏
激しい雷雨に伴って降る、氷のかたまり。
時には鶏卵大の大きさになり、果樹や野菜など農作物、家屋や車などに被害が及ぶ。
(同じ氷の粒でも、霰は直径5mm未満、雹は直径5mm以上のものとされている。)
- 八大龍王怒つて雹を抛(なげう)ちし 青木月斗
- 雹の瘤(こぶ)皆に笑はれ見られをり 河野静雲
- 烈日やころげし雹に草の陰 原石鼎
- 雹晴れて豁然(かつぜん)とある山河かな 村上鬼城
- 雹降って冷えたちのぼる峡(かひ)の沼 佐藤鬼房
雷(かみなり)
三夏
上昇気流により発達した積乱雲によって起こされる、空中の放電現象で、夏に多い。
稲に実りをもたらすと考えられていました。
- 昇降機しづかに雷の夜を昇る 西東三鬼
- 迅雷の身にしみし夜を父の夢 野澤節子
- 空間を遠雷のころびをる 高浜虚子
- 迅雷やおそろしきまで草静か 原石鼎
生活
雨乞(あまごい)
晩夏
空梅雨や旱(ひでり)続きで水不足になった時、雨の降るように祈祷すること。
- 雨乞ひに曇る国司のなみだかな 蕪村
- 雨乞ひや火影にうごく雲の峯 闌更
- 島山に雨乞の大火あがりけり 志田素琴
- 山葛の風を力や雨祈る 佐藤杏雨
雨休み(あめやすみ)
晩夏
旱(ひでり)がつづく田畑に雨が降ると、農家はその日の仕事を休んで、雨を喜び祝う風習がある。
- 草よりも人のはかなき雨祝ひ 一茶
- 雨音に手足ゆだねて雨休 浦歌子
作り雨(つくりあめ)
三夏
庭に、屋根などから水を降らせて雨のようにしたり、滝のように見せたりする仕掛けのこと。
料亭などで行われる。
- 庇間の青き空より作り雨 富安風生
- 風添ひて作り雨とは思はれず 大橋越央子
- 作り滝木々のみどりを吸ひ落つる 上村占魚