立春から立夏前日までの、春の時候の季語のなかでも、三春に分類される季語を集めました。
春の俳句作りの際にぜひ参考になさってください。
初春、二月の時候の季語
仲春、三月の時候の季語
晩春、四月の時候の季語
春の季語一覧
時候
春(はる)
三春立春(二月四日頃)から立夏(五月六日頃)の前日まで
のことを指す。
天文学上では春分から夏至
陰暦では一月、二月、三月
…が春となります。
新年の時候の季語の春の語は、正月の祝意を込めた言葉であるのに対し、自然や生活の中で目にしたり、肌で感じる感覚をあらわす言葉となっている。
- 富士は雪三里裾野や春の景 宗因
- 春も早山吹白く苣(ちさ)苦し 素堂
- 山寺の春や仏に水仙花 也有
- 月さして一文橋の春辺かな 一茶
- 麗しき春の七曜またはじまる 山口誓子
- 三春へ先づ一歩する心かな 高木晴子
春の日(はるのひ)
三春
春の太陽、または春の一日のこと。
どちらを詠んでいるかは、句の内容で判断する。
うららかな陽光、のどかな一日などの意味合いを持つ。
- 春の日や庭に雀の砂あびて 鬼貫
- 春の日を音せで暮るる簾かな 白雄
- 春の日や鷗ねぶれる波の上 闌更
- 湯に入りて春の日余りありにけり 高浜虚子
- 春の日やポストのペンキ地まで塗る 山口誓子
- もの皆の縁かがやきて春日落つ 松本たかし
- 泣き寄る子喉の奥まで春日さす 加藤楸邨
- 春の日や風よりかろき服を買ふ 秋山恵子
春暁(しゅんぎょう)
三春
暁(あかつき)は、夜半を過ぎ、明けようとしている暁闇(ぎょうあん)の時分。
少し明るくなり始めているが、空はまだ暗い頃である。
曙(あけぼの)は、もう少し時間が経ち、夜がほのぼのと明けようとする頃。
- 春暁や一点燈の大伽藍 阿波野青畝
- 春暁や人こそ知らね木々の雨 日野草城
- 白粥に春暁の雨いとかすか 中川宗淵
- 散らばる書春曙をみな睡る 橋本鶏二
- 春曙何すべくして目覚めけむ 野澤節子
- 春暁を覚めんとすなり仮の世に 田川飛旅子
春の朝(はるのあさ)
三春
春の日の朝。
- 春の朝蜆は黒きものぞかし 乙二
- 白粥に梅干おとす春のあさ 伊東月草
- 春の朝日の矢明るきロダンの像 長岐靖朗
春昼(しゅんちゅう)
三春
のんびりと長閑な春の昼。
春の日中の駘蕩(たいとう)たる感じを表す語である。
- 春昼の僧形杉に隠れけり 原石鼎
- 春昼や古人のごとく雲を見る 前田普羅
- 七いろの貝の釦(ぼたん)の春の昼 山口誓子
- 春昼といふ大いなる空虚の中 富安風生
- よく廻る作り水車の春の昼 松野加寿女
- 探しものする無駄な刻春の昼 嶋田摩耶子
- 春昼やひとり声出す魔法壜 鷹羽狩行
春の夕(はるのゆう)
三春
春のおだやかな夕暮れ時。
見渡せば山もと霞む水無瀬川夕は秋と何思ひけむ
後鳥羽院 新古今和歌集
- 春の夕たへなむとする香をつぐ 蕪村
- 燭の火を燭にうつすや春の夕 蕪村
- 海は帆に埋れて春の夕かな 大魯
- 今着きし沢庵漬けて春ゆふべ 几董
春の暮(はるのくれ)
三春
春の夕暮れ、もしくは暮春(春の終わりころ)の意味で使われる。
- 入相(いりあい)の鐘もきこえず春の暮 芭蕉
- 大門の重き扉や春の暮 蕪村
- 春の暮暗渠(あんきょ)に水のひかり入る 加藤楸邨
- 鈴に入る玉こそよけれ春のくれ 三橋敏雄
- しろがねのやがてむらさき春の暮 草間時彦
春の宵(はるのよい)
三春
日が暮れてから間もないころ。
- 公達に狐化けたり宵の春 蕪村
- 町なかの藪に風あり春の宵 内田百閒
- 春宵や駅の時計の五分経ち 中村汀女
- 児の笑顔寝顔にかはり宵の春 福田蓼汀
- 泣いて済むことはめでたし春の宵 池上浩山人
- うたゝねの肱のしびれや春の宵 佐藤紅緑
春の夜(はるのよ)
三春
夜の時間は、夕(ゆうべ)、宵(よい)、夜、と過ぎてゆく。
傍題の「夜半の春」はもっと更けた夜中となる。
- 春の夜やぬしなきさまの捨車 暁台
- 春の夜や雨をふくめる須磨の月 青蘿
- 春の夜やくらがり走る小提灯 正岡子規
朧月夜(おぼろづきよ)
三春
おぼろに霞んだ春の月夜。
- 水風呂に夢見る朧月夜かな 支考
- 雨だれのぽちぽち朧月夜かな 一茶
- みどり児をおぼろ月夜の腕のなか 平野吉美
暖か(あたたか)
三春
春の気候の暖かく心地よいこと。
- 納屋の雨暖かに藁匂ひけり 武田鶯塘
- あたたかや水輪ひまなき廂(ひさし)うら 杉田久女
- あたゝかに投棄てゝある帚かな 原田浜人
- 暖かや飴の中から桃太郎 川端茅舎
- オルゴール一音欠けて暖かし 有馬籌子
麗か(うららか)
三春
春の陽光のもと、万象が柔らかく美しく見える様子。
- うららなる物ころ見ゆれ海の底 涼菟
- ほたと落ちし墨も白紙のうらゝけき 河東碧梧桐
- うららかや猫にものいふ妻のこゑ 日野草城
- うらゝなる筑波を見しが夜の雨 斎藤空華
- 病む人へ麗日待ちて文を書く 古賀まり子
- うららかや啼き忘れたる鳩時計 久木田民三
長閑(のどか)
三春
のんびりと穏やかな、長い春の日。
- 長閑さは無沙汰の神社回りけり 太祇
- のどけしや港の昼の生肴 荷兮
- 長閑さや出支度すれば女客 素丸
- のどかさや内海川の如くなり 正岡子規
日永(ひなが)
三春
春になり、短かった日がめっきり長く感じられること。
春が来た喜びと、日中が長くなった実感がこもっている。
- 永き日を囀りたらぬひばりかな 芭蕉
- 日永きや柳見てゐる黒格子 白雄
- 鶏の座敷を歩く日永かな 一茶
- 永き日の末の夕日を浴び歩く 大野林火
- 巻尺の端の日永を巻き戻す 岡本いさを
遅日(ちじつ)
三春
春の日の暮れるのが遅くなること。
夕方の時間が長くなり、なかなか暮れないという実感がこもる。
- 遅き日のつもりて遠きむかしかな 蕪村
- 遅き日の光のせたり沖の浪 太祇
- 暮れおそき草木の影をふみにけり 五十崎古郷
- 夢殿をめぐりめぐりて日の遅き 中島月笠
- 暮遅しとろとろ燃ゆる素焼窯 上村占魚
- 遅き日や日輪ひそむ竹の奥 西山泊雲
木の芽時(このめどき)
三春
木々の芽吹く時節のこと。
料理で木の芽といえば山椒の若葉をいうが(地方によっては通草(あけび)の新芽)、木の芽時は特定の芽ではなく、さまざまな木々の芽吹く時という意味になる。
- 夜の色に暮れゆく海や木の芽時 原石鼎
- 水口の鯉の緋を寄せ木の芽風 黛執
- 体温計筆筒にさす木の芽どき 平林孝子
- 牛啼いて農学校の木の芽時 秋山幹生