今日の季語 2月9日
野焼(のやき)
初春
春先にまだ草の芽が出ないうちに、野山の枯れ草を焼くこと。
晴天で風のない日に、野山や河川敷の枯れた草原に火をつけ焼き払う。
主に放牧地で行われてきた。
野焼きをすることで害虫を駆除し、また枯れ草の地上部が灰になり、新たに出てくる草の肥料となる。
新たに草を生やし草原とするため、木が生えず、草地の保全となる。
炎は地温を上昇させ、焼いた後の黒々とした地表も地温が上がりやすくなるため、草の成長が良くなる。
一方で地上部を焼いても、地中の温度はほぼ変化しないため、草の根や地下茎、種は生き残り、再び地上に成長していく。
草の灰は蕨(わらび)や薇(ぜんまい)の成長を促す肥料となる。
また茅葺き屋根に用いる茅を育てるため、この時期に茅場の野焼きが行われる。
熊本県阿蘇の野焼きは、早春の風物詩となっている。
もともとは農作や放牧のために行われていたが、最近では草原の維持のほかに絶滅危惧種の植物の保全のためにも行われている。
「野焼」の傍題: 野焼く(のやく)、野火(のび…野焼きの火のこと)、草焼く(くさやく)、堤焼く(やく)、丘焼く(おかやく)、焼野(やけの)、焼原(やきはら)、荻の焼原(おぎのやきはら)
- 野は焼きて雲に雪もつ月夜かな 松岡青蘿
- 旧道や焼野の匂ひ笠の雨 夏目漱石
- 山焼くとばかりに空のほの赤き 正岡子規
- ぱつと火になりたる蜘蛛や草を焼く 高浜虚子
- 古き世の火の色うごく野焼かな 飯田蛇笏
- 芝を焼く焔小さく走りけり 高橋淡路女
- 野を焼けば焔一枚立ちすすむ 山口青邨
- 久米の子ら衣更の野を焼ける見ゆ 後藤夜半
- 草焼かむ隠岐の荒海よせかへせ 加藤楸邨
- 野を焼くやいかなる火にもまされとて 細谷源二
- がうがうと七星倒る野火の上 橋本多佳子
- 野火の道手をひきつれていそぎけり 久保より江
- 野火あがる空の渚に亡者笑む 石原八束
- 野を焼いて今日新たなる雨降れり 渡辺白泉
- 北上川大きくうねる野火避けて 能村登四郎
- 走る野火とどまる野火や阿蘇の牧 有働木母寺
- 草焼いて岸より暮るる衣川 佐藤水鳴子