夏の鳥の季語3回目は、全長27cm以上の陸の鳥をご紹介します。
夏の鳥の代表ともされる時鳥(ほととぎす)をはじめ、その鳴き声から鵺(ぬえ)と呼ばれた虎鶫(とらつぐみ)、そして夜の森で神秘的な声で鳴くといわれていたが、実は鳴いていたのは木葉木菟(このはずく)と判明した仏法僧(ぶっぽうそう)など、15種の鳥を集めました。
俳句を詠む際にぜひ参考になさってください。
夏の鳥の季語・小鳥1(スズメより小さいか同じくらい)
夏の鳥の季語・小鳥2(スズメより大きい小鳥)
夏の鳥の季語・水鳥(水辺の鳥)
夏の鳥の季語・その他(他の季節の鳥の夏の季語)
動物
赤翡翠(あかしょうびん)
三夏
カワセミ科の夏鳥で、5月ごろ渡来する。全長27cm。
全身が赤く、嘴が大きい。
渓流付近に生息し、梅雨の時期によく鳴く。
その鳴き声から、「きょうろろ」とも呼ばれる。
- 沢の雨赤せうびんの声ふるふ 山谷春潮
- 田を植ゑて戻るしじまや水恋鳥 田口冬生
- 赤翡翠足を濡らして帰りけり 後藤克美
時鳥(ほととぎす)
三夏
夏を代表するカッコウ科の鳥で、詩歌に多く詠われてきた。全長28cm。
初夏に飛来し、夏を日本で過ごして晩秋には南へ渡っていく夏鳥である。
おもにウグイスの巣に托卵する。
鳴き声は「特許許可局」や「テッペンカケタカ」などさまざまに聞き做しされ、人々は時鳥の初音を待った。
田植えを促すよう鳴いているとされ、田長(たおさ)鳥とも呼ばれた。
古来、春の花、夏の時鳥、秋の月、冬の雪が、四季を代表する詠題とされた。
- 軽口にまかせてなけよほととぎす 西鶴
- ほととぎす貴船へ通ふ禰宜ひとり 来山
- ほととぎす椴(とど)杉の葉の落つる時 才麿
- ほととぎす声横たふや水の上 芭蕉
- 郭公(「ほととぎす」)一声夏をさだめけり 蓼太
- 時鳥なくや若葉のはしり雨 北枝
- ものの音水に入る夜やほととぎす 千代女
- 夏草の星にしらみて子規(ほととぎす) 麦水
- 谺(こだま)して山ほとゝぎすほしいまゝ 杉田久女
仏法僧(ぶっぽうそう)
三夏
ブッポウソウ科の夏鳥で、4月ごろ南方より飛来する。全長29cm。
三河の鳳来寺山、甲州の身延山や神座山で「ブッポウソウ」と澄んだ声で鳴くとされていたが、実際は仏法僧の鳴き声はゲッ、ゲッという濁った声である。
夏の夜の森で美しい声でブッポウソウと鳴くのは、その後、木葉木菟(このはずく)の声であることが判明した。
そこで仏法僧は「姿の仏法僧」、木葉木菟は「声の仏法僧」と呼ばれるようになった。
- 仏法僧こだまかへして杉聳(た)てり 大野林火
- 仏法僧鳴くべき月の明るさよ 中川宗淵
- 鳴き澄める仏法僧に更くるのみ 五十嵐播水
夜鷹(よたか)
三夏
ヨタカ科の夏鳥で、初夏に飛来し繁殖期を迎え、秋には南方へ帰ってゆく。全長29cm。
夜行性で、飛びながら虫などを捕食する。
キョッキョッキョッと大きな声で鳴く。
- 夏山辺あかつきかけて夜鷹啼く 飯田蛇笏
- 夜鷹鳴き落葉松の空なほくらし 水原秋櫻子
- 軒しづく夜鷹の啼ける月ながら 木津柳芽
- ランプの火消して夜鷹の近くなる 谷村祐治
青葉木菟(あおばずく)
三夏
フクロウ科の夏鳥で、5月に飛来する。全長29cm。
全長30センチほどで、大木のある林などに生息する。
夜行性で、ホー、ホーと2回ずつ規則的に鳴く。
ミミズクの特徴である耳羽はなく、頭は丸い形をしている。
- 産の日近し月が星消し青葉木菟 中村草田男
- 青葉木菟さめて片寝の腕しびれ 篠田悌二郎
- 青葉木菟月昇る樹を変へて啼く 阿部青鞋
- 昨日より近くてさびし青葉木菟 和知喜八
雷鴫(かみなりしぎ)
三夏
正しい和名は大地鴫(おおじしぎ)という、全長約30cmほどの鴫。生息数が減少している。
雷鴫は俗称で、空中を飛び鳴きながら舞い、翼を半開きにして急降下してすさまじい音を立てるところからきている。
主に北海道など日本のみで繁殖し、山地の草原のくぼみに枯れ草や落ち葉を集めた巣を作る。
秋にははるばるオーストラリアまで渡ってゆく。
- ささらだつ牧の青空大地鴫 平井さち子
虎鶫(とらつぐみ)
三夏
全長29.5cmほどの鳥で、一面に虎斑のような模様があるのでこの名がついた。
低山帯から亜高山帯までのよく茂った林に住む。
夕方から夜通し早朝までヒィー、ヒョーと笛を吹くような悲しげな声で鳴くので、古来、鵺(ぬえ)とよばれた。
曇った暗い日には、日中も鳴くことがある。
- 落石の音のあと曳く虎鶫 原柯城
- 虎鶫眠りの国の霧(き)らひつつ 堀口星眠
- 虎鶫累代の闇裏戸より 木村蕪城
- 切株にためらひ傷や鵺啼けり 平井さち子
- 鵺鳴いて高千穂を夜のはなれゆく 橋本世紀夫
十一(じゅういち)
三夏
カッコウ科の夏鳥で、オオルリ、コルリ、コマドリ、ルリビタキの巣に托卵する。全長32cm。
ジュウイチの名は鳴き声からきている。
- 慈悲心鳥おのが木魂(こだま)に隠れけり 前田普羅
- 慈悲心鳥霧吹きのぼり声とほき 水原秋櫻子
- 慈悲心鳥高空のみに星生れ 中村信一
- 十一や傘明るみて泉の辺 菊地一雄
- 慈悲心鳥待つ間ぎつしり星のこゑ 平井さち子
筒鳥(つつどり)
三夏
カッコウ科の夏鳥で、郭公によく似ている。全長33cm。
4月頃に渡来し、仙台虫喰(せんだいむしくい)という鳥の巣に托卵する。
鳴き声はポポ、ポポという低い声で、聞き取りにくい。
- 筒鳥の霧重くなりし声音かな 大須賀乙字
- 筒鳥の筒打ちかへす羅臼岳 上村占魚
- 筒鳥のはるかにこゑすまたはろか 岸田稚魚
- 筒鳥や風いくたびも吹き変り 山田みづえ
青鳩(あおばと)
三夏
黄緑色をした鳩で、山地の広葉樹林などに棲み、オー、オアオーというよウな声で鳴く。全長33cm。
群で海岸に降り立ち、海水を飲む習性がある。
- 遠牧に青鳩鳴けばこたふあり 米谷静二
- 青鳩や林道つひに空を見ず 井沢正江
郭公(かっこう)
三夏
カッコウ科の夏鳥で、時鳥よりもやや大きい。全長35cm。
かっこう、かっこうという鳴き声で親しまれている。
昔はかっこうの鳴き声に物寂しさを感じ、閑古鳥という別名でよく詠まれていた。
初夏5月から6月にかけて飛来し、繁殖期を迎えオオヨシキリやモズの巣に托卵する。
8月半ばごろには南へ渡ってゆく。
- 侘びしらに貝ふく僧よかんこ鳥 其角
- うき我をさびしがらせよかんこどり 芭蕉
- 飯櫃(めしびつ)の底たゝく音やかんこ鳥 蕪村
- 山雲を谷に呼ぶなり閑古鳥 大須賀乙字
- 郭公や吾妻小富士のはゝに似る 杉山岳陽
- 灯るごと梅雨の郭公鳴き出だす 石田波郷
- 郭公の近づくこだま雲の中 石原舟月
星鴉(ほしがらす)
三夏
高山に棲む34.5cmほどのカラス科の鳥で、黒い羽根に無数の白い斑が入る姿から、星鴉といわれるようになった。
針葉樹林を中心に、ハイマツ林やカラマツ林で見られる。
松かさなどの針葉樹の種子を足でおさえながらくちばしでこじあけて食べたり、昆虫を捕食する。
秋には大量の樹木の種子を貯蔵する習性がある。
鳴き声はガーガーガー、警戒の声はカッカッカッなど。
- 星鴉風のあとまた水の音 鈴木六林男
雷鳥(らいちょう)
晩夏
キジ科の高山鳥で、北アルプスなど高山に生息している。全長37cm。
特別天然記念物に指定されている。
ハイマツ帯に生息し、冬は白一色、夏羽は褐色になる。
- 登山網(ザイル)干す我を雷鳥おそれざる 石橋辰之助
- 雷鳥や霧ふきわくる尾根の経 松井朋治
- 雷鳥や霧を呼びつつ巌かげに 中島斌雄
山翡翠(やませみ)
三夏
カワセミ科の留鳥で、背中に黒と白の鹿の子斑があり、頭の冠毛が特徴的である。全長38cm。
山間の渓流に生息し、ヤマメやイワナなどの魚を捕える。
- 山翡翠や釣師の飯の真白なる 堀口星眠
- 山翡翠に雪代淵をふかめたり 中村信一
- 山翡翠の冠毛立つる蕗の雨 岡田貞峰
三光鳥(さんこうちょう)
三夏
ヒタキ科の夏鳥で、日本に5月ごろ渡来し繁殖をし、冬に南方へ帰ってゆく。
黒紫色の羽色で、目の周りとくちばしが鮮やかな青色。
繁殖期の雄は全長の3倍ほどの長い尾羽をもち、全長が45cmにもなる。
雌は17.5cmほど。
「月日星(ツキヒホシ)ホイホイホイ」とさえずるといわれ、三光鳥の名がついた。
- 三光鳥鳴くよ梢(うれ)越す朝風に 伊藤白草
- 三光鳥背戸への小橋湿りがち 水野爽径
- 茶摘女へほいほいと三光鳥 羽部洞然
- 三光鳥森のしづくとなる遠音 北川孝子
- 失恋に三光鳥がホイと言ふ 小林貴子