夏の花の季語、第三回目は「初夏」「三夏」に分類される、青、紫色(青みがかったピンク色なども)系統の花を集めました。
花色が豊富にある種類も多いので、ここにない場合は他の色の花のページもぜひご覧ください。
夏の花の季語・初夏(赤、ピンク)
夏の花の季語・初夏(白)
夏の花の季語・初夏(黄、オレンジ、その他)
植物
桐の花(きりのはな)
初夏
高さ10メートル以上にもなる落葉高木で、五月から六月頃、枝の席に紫色の花が咲く。
成長が早いため、昔は女の子が生まれると庭に桐の木を植え、嫁入りの際にたんすを作って持たせる風習があった。
花の後に、30cmほどにもなる葉が生じる。古歌には桐の葉が多く詠まれた。
- 熊野路に知る人もちぬ桐の花 去来
- 神鳴の鳴らで曇りし桐の花 史邦
- 一里ほど先から見えて桐の花 蒼虬
- 臼の上に鶏とまる桐の花 高浜虚子
- 花桐や重ね伏せたる一位笠 前田普羅
- こころひもじき月日の中に桐咲きぬ 大野林火
- 桐咲くや父死後のわが遠目癖 森澄雄
- 桐咲くと誰もが遠き方を見る 菖蒲あや
アイリス
初夏
アヤメ属のうち、西洋の園芸品種をさす。
ジャーマンアイリス、ダッチアイリス、イングリッシュアイリス、スパニッシュアイリスなど。
草丈30~90cm、花色は豊富。
- アイリスのひと鉢だけの花終る 石川空山
- アイリスを見ゆる一眼にて愛す 日野草城
矢車菊(やぐるまぎく)
初夏
キク科の一、二年草で、ヨーロッパ原産。
花の形が、鯉のぼりの先端に回る矢車に似ていることから名付けられた。
(ユキノシタ科の矢車草は、葉の形が矢車に似ている。)
- 住みのこす矢車草のみづあさぎ 中村汀女
- 清貧の閑居矢車草ひらく 日野草城
- 驟雨(しゅうう)来て矢車草のみなかしぐ 皆川盤水
- 風光に村楽しませ矢車草 松沢蕗子
丁字草(ちょうじそう)
初夏
湿地などに自生するキョウチクトウ科の多年草。
五月頃に、細長い花弁の青い五弁花を咲かせる。
ルピナス
初夏
マメ科の一、二年草または多年草。種類も花色も豊富。
和名の「羽団扇豆(はうちわまめ)」は、葉が掌状で羽団扇に見立てたところから。
また、花は藤に似ていて直立しているので、昇り藤の別名もある。
- 海に傾く丘一面の立藤草 杉本富造
- 並びたるルピナス風の夕岬 福井百合子
- ルピナスの白を好みて癒えにけり 秋山澄子
朝顔の苗(あさがおのなえ)
初夏
ヒルガオ科のつる性一年草。
朝顔の種まきは八十八夜頃がよいといわれている。
本葉が三、四枚出たところで鉢に定植する。
各地で朝顔市が開かれ夏の風物詩となっている。
- 雨二日はや朝顔の芽生かな 闌更
- 朝顔の双葉のどこか濡れゐたる 高野素十
- 朝顔のやうやく濃き双葉かな 三宅清三郎
甘草(かんぞう)
初夏
マメ科の多年草で、根を乾燥させたものが薬用、甘味料として利用される。
五月から六月頃、薄紫色の蝶形花を穂状にひらく。
鉄線花(てっせんか)
初夏
中国原産のキンポウゲ科の落葉つる性植物。
茎が硬く鉄の線のようになるので、この名がついた。
五月頃に白または紫色の、多くは六弁花を咲かせる。
- てつせんは花火の花のたぐひかな 季吟
- 山風の温微にゆるる鉄線花 飯田蛇笏
- 鉄線の花空中に遊び咲く 高木晴子
- 鉄線の花の紫より暮るゝ 五十嵐播水
- 山月を遊ばせて白鉄線花 有働亨
- 西方に向き鉄線の終(つひ)の花 松崎鉄之介
風車の花(かざぐるまのはな)
初夏
山林に自生するキンポウゲ科の落葉つる性植物。
五月頃に白または淡紫色の、多くは八弁花を咲かせる。
茎は伸びるとすぐに褐色になり硬くなる。
奈良県宇陀市の自生地は天然記念物に指定されている。
茄子の花(なすのはな)
三夏
夏野菜の代表の一つ、茄子は暑さに負けず、次々に花を咲かせる。
花は紫色の合弁花で、先が五裂し、黄色の葯(やく)が鮮やかに目立っている。
「親の意見と茄子(なすび)の花は千に一つも仇はない」「親の意見と茄子の花は千に一つも無駄はない」ということわざがあるが、実際は茄子の花も落花は多いという。
- 葉の下に茄子の花の鋭さよ 高浜虚子
- またおちてぬれ葉にとまる茄子の花 飯田蛇笏
- 夕づきて夜のなかなかに茄子の花 石塚友二
- 亡き人の数ほど茄子の花咲きて 山口いさを
- 茄子の花茎のむらさきわかち咲く 飯原孝臣
野蒜の花(のびるのはな)
初夏
野原や田畑に自生するヒガンバナ科ネギ属の多年草。
ニラに似た匂いがある。
初夏の頃、50cmほど伸びた茎の先に、白紫色の花を咲かせる。
- 道のべによろめきて咲く野蒜かな 村上鬼城
- 樋水ます雨にはなさく野蒜かな 飯田蛇笏
- 花野蒜引きし心の淡さかな 相島虚吼
牛蒡の花(ごぼうのはな)
初夏
キク科の多年草。
種を採るために畑に残しておいた牛蒡は、初夏に茎を1.5メートルほども伸ばし、枝分かれして紫色または白色の頭花をつける。
花は球形で剛毛があり、子供たちが衣服につけて遊んだりする。
- 篁(たかむら)の中に日が降る花牛蒡 古舘曹人
- 蝶たつて牛蒡の花の夕日澄む 小松崎爽青
- まろやかに遠山ありぬ花牛蒡 原たま
- 顔に本のせてふて寝す花ごぼう 池田義弘
紫蘭(しらん)
初夏
ラン科の多年草で、湿地帯などに自生する。
観賞用として庭にもよく植えられる。
五月から六月頃、30〜50cmの花茎を伸ばし、紫紅色の唇形花を5、6個総状につける。
鱗茎(りんけい)は薬用にも用いられる。
- 吾知るや雑葉園に紫蘭あり 高浜虚子
- 紫蘭咲いていささかは岩もあはれなり 北原白秋
- ゆふかぜのしゞにしらんの一トむしろ 久保田万太郎
擬宝珠の花(ぎぼうしのはな)
初夏
山野に広く自生している擬宝珠は、初夏の頃、大きな葉の間から2メートルもの茎を伸ばし、薄紫色の花を咲かせる。
花は開くにつれて首を垂れる。朝開いて、夕方になるとしぼむ。
つぼみの形が、橋の欄干の装飾品の擬宝珠に似ているところから、名付けられた。
- 絶壁に擬宝珠咲きむれ岩襖 杉田久女
- ひき臼のいま飛石や花擬宝珠 野村喜舟
- 旅ゆけば我招くかに擬宝珠咲く 角川源義
- 滝壺やさやげる花の皆擬宝珠 目迫秩父
- 石の窪雨をたゝへし花ぎぼし 勝又一透
立浪草(たつなみそう)
初夏
シソ科の多年草で、山林のへりや野原に自生する。
五月から六月頃に茎の上に紫色の唇形花を穂状につける。
一つ一つの花は同じ方向に向いて咲き、波頭の様子に似ていることから名付けられた。
- 岩ケ根の立浪草に雨あらく 林紫楊桐
- 渦潮やたつなみ草は風がまへ 近藤忠
- 立浪草風出て深き海のいろ 蒲幾美
- 暮れぎはの立浪草の浪立ちぬ 福山理正
連理草(れんりそう)
初夏
川岸などの湿った草地などに自生する、マメ科の植物。
草丈は40〜80cmで、五月から六月頃に、紅紫色の蝶形の花を数個咲かせる。
葉が対をなして並んでいるところから、連理草の名が付けられた。
- 界隈の目こぼしのこれ連理草 木津柳芽
螢蔓(ほたるかずら)
初夏
ムラサキ科の多年草で、山野の日当たりの良い場所に自生している。
茎はつる状に伸びて、五月頃に星型の青紫色の花を咲かせる。
瑠璃草(るりそう)の別名もある。
浜豌豆(はまえんどう)
初夏
マメ科の多年草で、海浜の砂地に自生する。
茎は地を這って伸び、五月頃から、赤紫色の蝶形花を開く。
- はらはらと浜豌豆に雨来たる 高浜虚子
- 風落ちし時松籟す浜豌豆 阿部みどり女
- 浜豌豆海のぼる日は雲の中 大井雅人
- 手提置く浜豌豆の花かげに 三輪一壺
浜靭(はまうつぼ)
初夏
海岸や川岸の砂地に自生する、河原蓬(かわらよもぎ)の根に寄生する植物。
五月頃、茎の頂に花穂を出し、淡紫色の花を多数つける。