今回は春の月、星など、春の夜に関する季語を集めました。
春は大気が霞みがかっていることが多く、月の光もおぼろげになり、万物が幽玄の世界の趣を呈します。
春夜の風を頬に受け、土の匂いを感じ、五感の全てで春夜の風情を感じたら、これらの季語でぜひ一句詠んでみてください。
春の季語一覧
天文
春の月
三春
秋の澄んだ月と違い、春の大気は水分が多く、また黄砂や花粉の影響もあり、どんよりとした空にやわらかい光の月が昇るようになる。
満月は冬よりも低い位置になり、光も橙色がかった暖かみのある色になる。
朧月(おぼろづき)ほど、ぼんやりとはしてはいないが、やさしく親しみを覚えるような月である。
- 清水の上から出たり春の月 許六
- 春の月桜一枝ひろひけり 蓼太
- 春の月さはらば雫たりぬべし 一茶
- いつ暮れて水田のうへの春の月 蒼虬
- 春の月上りて暗き波間かな 後藤夜半
- 春月の我が身に遠くありにけり 上林暁
- いとしめば木も語りくる春の月 五所平之助
春三日月(はるみかづき)
三春
春の三日月は傾きが大きく、月は太陽から下側を照らされながら沈むので、舟のような形に見える。
(秋は西から太陽に照らされながら沈むので、三日月は立ったような形に見える。)
- 老人の小走り春の三日月へ 西東三鬼
- 病者らに春の三日月遠き船 大井雅人
朧月(おぼろづき)
三春
朧(おぼろ)は、ぼんやりとしてはっきりしない、不明瞭な状態のこと。
春は大気中に水蒸気やチリ、ホコリが多くなり、空が霞んで、月も朦朧として柔らかく見える。
また、薄雲を通して暈がかかっている月が見えることもある。
- 猫の恋やむ時閨の朧月 芭蕉
- 大原や蝶の出て舞ふ朧月 丈草
- 海に入りて生れかはらう朧月 高浜虚子
- 猿を待つ猿のこしかけ朧月 生出鬼子
朧(おぼろ)
三春
春の夜に、何もかもがぼんやりと霞んで見えること。
春の夜の情感ただよう言葉である。
- 辛崎の松は花より朧にて 芭蕉
- 藻がくれの海月に昼のおぼろかな 二柳
- 白魚のどつと生るるおぼろ哉 一茶
- とぎれては花片流れ川おぼろ 阿部みどり女
春の星(はるのほし)
三春
霞んだ春の夜空に、やわらかく光る春の星。
北には北斗七星、南にはしし座が見える。
北斗七星のひしゃくの柄のカーブを伸ばした先にある、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカをつないだ線を春の大曲線という。
さらにその2つの星と、しし座のデネボラを結んだ三角形を、春の大三角といい、それぞれ春の星座を見分ける目印となっている。
- 乗鞍のかなた春星かぎりなし 前田普羅
- 火の山の太き煙に春の星 高野素十
- 綺羅星の中にわが星春の星 富安風生
- ぐつたりと鯛焼ぬくし春の星 西東三鬼
- 牧の牛濡れて春星満つるかな 加藤楸邨
春の闇(はるのやみ)
三春
春の闇は、どこかほのかな明るさのある闇で、不安な感じや神秘的な感じを含んでいる。
春の夜の闇はあやなし梅の花 色こそ見えね香やは隠るる
凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)古今和歌集
- 何か居り何も居らざり春の闇 富安風生
- 春の闇幼きおそれふと復(かへ)る 中村草田男
- 窓に灯のついて消えたり春の闇 渋沢渋亭
- 二本目の燐寸(マッチ)を擦つて春の闇 吉田花泉
- 千里より一里が遠き春の闇 飯田龍太