冬の風の季語

凍りつく枝と光

冬、寒さも本格的になると、肌を刺すような冷たい風が吹きすさぶようになります。

日本では沿岸部や山間部、地形によっても様々な特徴のある風が吹き荒れます。

雪国の人々や、海へ出る漁師たちは、命の危険に関わるような風にはとくに注意して言い伝えてきました。

また、風向きが変わり、風の中の匂いや音に春の到来を予感させる風もあります。

それぞれの風の名前に込められた人々の感情や思いを感じながら、俳句作りの参考になさってください。

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冬の風・天文

冬の風

三冬ススキと風

冬に吹く風一般をさしていう。
北や北西からの冷たい風。

冬風(ふゆかぜ)、寒風(かんぷう)、風冴ゆる、冴ゆる風、凍て風(いてかぜ)
  • 風寒し不二にもそぶく小窓かな 一茶
  • 冬の風人生誤算なからんや 飯田蛇笏

凩(こがらし)

初冬木枯らし

冬の到来を告げる北風のこと。

気圧配置が西高東低になり、大陸からの冷たい空気が吹いてくるようになると、いよいよ本格的な冬の到来となる。

木枯(こがらし)
  • 凩の果はありけり海の音 言水
  • 木枯や竹にかくれてしづまりぬ 芭蕉
  • 木がらしの吹き行くうしろ姿かな 嵐雪
  • 凩に二日の月のふきちるか 荷兮
  • 木枯や鐘に小石を吹きあてる 蕪村
  • 木がらしやこんにやく桶の星月夜 一茶
  • 木がらしや目刺にのこる海の色 芥川龍之介
  • 海に出て木枯帰るところなし 山口誓子

北風(きた)

三冬

北から吹く冷たい風。冬は西高東低の気圧配置となり、北や北西からの風が多く吹く。
冬の季節風で、暴風となることも多い。

大陸からの冷たい空気は日本海上で湿気を含み、本州の中央山脈に当たり、日本海側に豪雪をもたらす。

山脈を越えて東に抜ける風は乾燥し、太平洋側に乾燥した風を吹かせる。

北風(きたかぜ)、北風(ほくふう)、朔風(さくふう)、北吹く、大北風(おおぎた)、朝北風(あさぎた)
  • 北風や浪に隠るゝ佐渡ケ島 青木月斗
  • 大北風にあらがふ鷹の富士指せり 臼田亜浪
  • 獄の門出て北風に背を押さる 秋元不死男
  • 北風に吹かれて星の散らばりぬ 今井杏太郎

空風(からかぜ)

三冬

冬、晴天続きのところに、山を越えてきた乾いた強い北風。
関東平野で昼間に多く吹く風。

乾燥した畑土や校庭などで砂塵を巻き上げ、時にはつむじ風を起こす。

空っ風(からっかぜ)
  • 雪は来でから風きほふ空凄し 曾良
  • から風の吹きからしたる水田かな 桃隣

北颪(きたおろし)

三冬

冬の浅間山

冬の浅間山

冬に山から吹き降ろしてくる、北寄りの空っ風のこと。
寒くて乾いた風である。

日本海側からの冷たく湿った風は日本海側の陸地に雪を降らせ、中央山脈を越えて吹きおりてくる時には乾燥した冷たい風となる。

それぞれ山の名前をつけて呼ばれることが多く、浅間颪、筑波颪、二荒颪(日光颪)、赤城颪、八ヶ岳颪、富士颪、伊吹颪、比叡颪、六甲颪などがある。

北下し(きたおろし)
  • 寝られずやかたへ冷えゆく北下し 去来

北しぶき

三冬雨の道路

冬に北から吹きつける風雨のこと。

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ならい

三冬ならい地図

冬、主に関東地方や東日本の太平洋沿岸地域に吹く北寄りの風。
山並みと並行して同じ方向に吹いてくる風という意味で「並ぶ」からきている。

地形により風の向きが異なり、東北では西寄りの風、東京では北西の風となる。
茨城県では北東風を「筑波ならい」、北風を「北ならい」といい、伊豆七島では北東風を「下総ならい」、北風を「本ならい」と呼んでいる。

  • 水仙に波の秀(ほ)とどく東北風かな 大脇千代子

乾風(あなじ)

三冬乾風地図砕ける荒波

冬、西日本の地域に吹く北西からの強い風。
海は荒れ、遭難することもあったので漁をする船人たちに恐れられた。

この強い季節風は長く続くこともあり、瀬戸内海では「あなじの八日吹き」といった。

あなぜ、あなし

たま風

三冬たま風地図

冬の若狭湾

冬の若狭湾

冬、主に北陸、若狭湾以北の日本海沿岸部に吹く、北西からの強い季節風。
「たま」は霊魂の意味。

強くかたまって吹いてくるので「たば風」ともいわれる。
「たま風六時間」とも言われ、一時的な風という意味である。

たば風
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べっとう

三冬べっとう地図漁船

冬、東京湾から東海道にかけて、漁村で用いられた風の名前。
前線の通過にともない、北寄りの突風が吹く。

風向は地域によって異なり、関東地方では北西、東海地方では北東よりとなる。

星の入東風(ほしのいりごち)

初冬星の入東風の地図すばる星景

畿内および中国地方の船人の言葉で、陰暦十月中旬ころ(11月下旬〜12月上旬ころ)に吹く北東の風。
夜明けに昴が西に沈む頃に吹くといわれる。

このころは、昴星の出入に天候変り易く、夜明に、この星、西に入る時この風吹く
「物類称呼(ぶつるいしょうこ)」(江戸中期の方言を集めた辞書・越谷五山編)

神渡し(かみわたし)

初冬神渡し地図

神無月に吹く西風のことをいう。
神無月(陰暦十月)には、諸国の神々が出雲に集まるので、その神々を送る風といわれる。

神々が出雲へ旅立つ際に乗っていく風である。
「物類称呼」によれば、伊豆、鳥羽地方の船人の言葉との記載がある。

神立風(かみたつかぜ)、神送風(かみおくりかぜ)

節東風(せちごち)

晩冬節東風の地図周防大島

瀬戸内海の周防大島あたりの言葉で、陰暦十二月ころに吹く東風。
節分の前の東風で、雨も降ることが多い。

立春を過ぎると「雲雀東風(へばるごち)」といい、晴れることが多くなる。

後述しますが、新年の季語「初東風(はつごち)」の傍題に同じく「節東風(せちごち)」があり、新年になって初めて吹く東風をいいます。
このページ内の初東風(はつごち)をご覧ください。

八日吹き(ようかぶき)

晩冬雪の漁港

ハリセンボン

ハリセンボン

陰暦十二月八日の、雪を伴った強風(吹雪)。
日本海側ではこの日には必ず吹雪になると言われていた。

この強風により、ふぐの一種の針千本(ハリセンボン)が浜に打ち上げられるといい、それは針千本が龍宮の乙姫の針を盗んだために追放されたのだと語られてきた。

師走八日吹き(しわすようかぶき)

虎落笛(もがりぶえ)

三冬竹垣

寒風が柵や竹垣に当たって鳴る笛のような音。(画像は普通の竹垣です)

もがり(虎落、茂加離、模雁)とは、昔、戦の時に敵の侵入を防ぐために作られた、竹を筋交いに組み合わせて縄で縛った柵や垣根のこと。
(または紺屋(こうや、こんや…染物屋)が枝のついた竹を立て並べ、物をかけて干すのに使う「もがり竿」の意味もある。)

  • 虎落笛子供遊べる声消えて 高浜虚子
  • 炉の端に月のさしけり虎落笛 吉田冬葉
  • 葛城の八十(やそ)谷わたる虎落笛 西盛古草

鎌鼬(かまいたち)

三冬

極寒の雪国で突風が吹いた時に、突然頰や足の皮膚に鎌で切ったような鋭利な傷ができること。
信越、東北地方などの北国に多い。

旋風がおこった時、空気中に真空の部分ができたところに皮膚が触れると裂けるという説もあったが、はっきりとした原因は分かっていない。

鎌風(かまかぜ)
  • 馬売りて墓地抜けし夜の鎌鼬 千保霞舟

雪風(ゆきかぜ)

晩冬降る雪

雪混じりの風、吹雪。雪を誘う風。
「雪」の傍題。

小春風(こはるかぜ)

初冬

小春(陰暦十月の異称)の頃の風
初冬のころ、春がまた来たような温暖な日が続くことを小春日和というが、そのころの風である。

季節風

三冬

季節によって風向きを変えて吹く風。
本来は無季だが、一般には冬の季節風を指すことが多い。

冬季季節風

冬の風・生活

隙間風(すきまかぜ)

三冬障子の隙間

戸障子や壁の隙間から吹き込んでくる、冬の寒い風のこと。

ひま洩る風(ひまもるかぜ)、隙閒風(すきまかぜ)
  • 灯を消して雪の匂ひの隙間風 堀口星眠

冬の風・植物

落葉風(おちばかぜ)

三冬落ち葉舞う

落ち葉を誘う風のこと。

新年の風・天文

初風(はつかぜ)

新年松飾り

元旦に吹く風のこと。
(一般にその季節の初めに吹く風を「初風」といい、「春の初風(同じく元旦の風の意味)」、「秋の初風」という季語もある。)

春の初風
  • のんとりと吹く初風や松の音 竹遊

初東風(はつごち)

新年紅梅のつぼみ

新年になって、初めて吹く東風。

二十四節気の立春の初候は、七十二候でいう「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」。
中国でも同じ「東風解凍(とうふうこおりをとく)」といい、東風は春の到来を感じさせるものとなっている。

まだ新年で寒い風であるが、春の到来を感じる気分を含んだ季題となっている。

節東風(せちごち)
  • 初東風や棹さきに浮く都鳥 岡野知十

初松籟(はつしょうらい)

新年松の木

新年になって初めての松籟、または正月の間の松籟。
松籟とは、松の梢に吹く風、またその音のこと。

松は日本全土で見られる常緑樹で、他の木々が落葉する中で一年中緑色のままなので、不老長寿の象徴としてめでたい木とされてきました。

初松風、初松韻(はつしょういん)

風のようで風でない季語・動物

晨風(あさかぜ)

三冬ハヤブサ

冬の動物の季語で、鳥の隼(はやぶさ)の別称。
晨風(しんぷう)とは、朝に吹く風のこと。

この記事を書いた人
こよみ

このサイトではテーマごとに季語を集め、画像とともに一目でわかりやすいようにまとめました。季語の持つ多彩な魅力をぜひお楽しみください。

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