季語は季節により春、夏、秋、冬、そして新年に分けられています。
新年は、新たな年を祝福し迎えるためのさまざまな行事がある特別な期間です。
元日から七日までは毎日が季語となっています。
今回は新年の中でも時候に分類される季語を集めました。
新たな年に、気持ちも新たに一句詠む際にはぜひ参考になさってください。
時候
新年(しんねん)
新年
年の初め。
あらたまの年(新玉の年)の「あらたまの」は枕詞であるが、新年の意味に用いる。
- 雪をよぶ雁や年立つ鄙(ひな)の空 松瀬青々
- 我家の水音に年新たなり 石井露月
- ひそかなる枯菊に年改る 松本たかし
- あらたまのぬばたまの夜の大麓 平畑静塔
- 金柑の甘さとろりと年迎ふ 鈴木真砂女
- 年立てり行方わからぬ邪馬台国 加藤かけい
- 何をもて新年といふ田の鴉(からす) 清水径子
- オリオンの盾新しき年に入る 橋本多佳子
正月(しょうがつ)
新年
- 正月や霞にならぬうす曇 許六
- 正月やよき旅をして梅を見る 河東碧梧桐
- 正月の凪つづきけり豆畑 岡本松浜
- 正月や食ふに困らぬ小百姓 原月舟
- 祖母恋し正月の海帆掛船 中村草田男
- 箸取りてしみじみひとり喪正月 小里トミエ
- 正月の地べたを使ふ遊びかな 茨城和生
初春(はつはる)
新年
陰暦の正月は春の初めであったので、新年のことを初春といった。
現在でも初春を正月の意味に用いている。
- 四海波魚のきゝ耳明の春 嵐雪
- 牛馬の物喰ふ音や民の春 蓼太
- 初春や炬燵の上の小盃 重厚
- 初春や眼鏡のままにうとうとと 日野草城
- 初春の二時うつ島の旅館かな 川端茅舎
- 初春の灯をともしゐる沖の船 中川宗淵
今年(ことし)
新年
新しくなった年。年が改まったという感慨がこもっている。
- 嶺の松調子揃ふてことしより 来山
- 鶯に耳おもしろきことしかな 乙由
- しらしらと今年になりぬ雪の上 伊藤松宇
- つと光る今年の雫雨の句碑 和田暖泡
去年(こぞ)
新年
新年になって、過ぎ去った年をふりかえる心情。
「去年今年(こぞことし)」は、慌ただしく年が変わることをいう。
- 吹く風のゆるみ心やこぞことし 峰秀
- 去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子
- 葉牡丹に少し残れり去年の雪 岡本松浜
- 古ぼけし枕時計や去年今年 大場白水郎
- 去年の月のこせる空のくらきかな 久保田万太郎
- 星降りて水田にこぞる去年今年 秋元不死男
- 引き合す襖の白の去年今年 勝又寿々子
- 北限に墨引くごとし去年の貨車 大郷石秋
元日(がんじつ)
新年
一月一日、一年の最初の日。
元旦は元日の朝のこと。
- 元日や軒深々と草の庵 原石鼎
- 元日やゆくへもしれぬ風の音 渡辺水巴
- 元日や葉陰にひそと青木の実 小沢碧童
- 元日や鷹がつらぬく丘の空 水原秋櫻子
- 元日や一語まだなき神の前 細木芒角星
- からつぽの空元日の滑り台 榎本冬一郎
- 元日の帆綱に遊ぶ雀かな 長谷花舟
- 元日の玄関にある笑ひ声 塩尻青茄
元朝(がんちょう)
新年
元日の朝。
新年のはじめの朝はとくに清々しく感じられる。
- 元朝や神代の事も思はるゝ 守武
- 大朝(おほあした)むかし吹きにし松の風 鬼貫
- 元朝の薄日黄ろき大路かな 内田百閒
- 元旦の海に出て舞ふ一葉かな 中川宗淵
- 胸を張れよと元旦の大欅 青柳志解樹
- 茶畠に山の影のび大旦 館岡幸子
二日(ふつか)
新年
一月二日。
書き初め、初湯、初荷などさまざまな行事が始まる。
- 二日には箒のさきや福寿草 太祇
- 二日はや青三日月に塵もなし 原コウ子
- 二日はや雀色どき人恋し 志摩芳次郎
- 琴の音の松風さそふ二日かな 川上梨屋
- 富士川の水みどりなる二日かな 室積波那女
- ころげ出て毬が田に入る二日かな 飴山実
三日(みっか)
新年
一月三日。
三が日の最後の日で、雑煮や屠蘇もこの日までとなる。
お正月ももう三日を迎えたという思いがこもる。
- 人去つて三日の夕浪しづかなり 大江丸
- 三日晴れ日輪海の空をわたる 水原秋櫻子
- 刺す風の三日さざなみひろがりぬ 山上樹実雄
- 雪しづく日の雫見て三日かな 平尾楊波
三が日(さんがにち)
新年
正月一日、二日、三日の総称。
- 一人居や思ふ事なき三ヶ日 夏目漱石
- ふるさとの海の香にあり三ヶ日 鈴木真砂女
- うきうきと持薬を忘れ三ヶ日 伊藤雪女
- 街空に星粒揃ふ三ヶ日 三木蒼生
- 竹伝う雨ひかり落つ三ヶ日 水野輝枝
四日(よっか)
新年
一月四日。
三が日がすんで、仕事始めとするところが多い。
- 正月の四日の月の朧かな 乙州
- 夕鴉午後に二た声四日かな 阿部みどり女
- 餅網も焦げて四日となりにけり 石塚友二
- 妻独り海観に行きし四日かな 本宮銑太郎
- 四日はや猟銃音が雪に鳴る 太田嗟
五日(いつか)
新年
一月五日。
古くは宮中で叙位(位階を授けること)の儀式が行われていた。
四日に次いで、仕事始めとするところが多い。
各地ではさまざまな新年の行事が行われる。
- 水仙にかかる埃も五日かな 松本たかし
- 何時となく常に戻りて五日かな 和田うた江
- 濡れ和紙の無垢が吸ひゐる五日の陽 菅井青宵
- 数の子の味濃くなりし五日かな 竹内千花
六日(むいか)
新年
一月六日。
「七日正月」の前日で、「六日年越し」として、さまざまな行事が行われる。
六日年(むいかどし)というのは、年をとり直すという意味で、古くから麦飯に赤鰯を添えて食べる風習がある。
また、翌日の七日粥(七草粥)のために七草を揃える準備が行われる。
- 六日はや睦月は古りぬ雨と風 内藤鳴雪
- 片付きし居間に伽羅聞く六日かな 藤田耕雪
- 校倉に竹の塵降る六日かな 柏村貞子
- 松六日手拭白き畑仕事 鍵和田秞子
七日(なぬか)
新年
一月七日。
古来中国では、一月一日を鶏の日とし、続いて二日から狗、猪、羊、牛、馬、そして七日を人の日とした。
七種(ななくさ)はもとは宮中で、七つの野から摘んできた野草を粥に入れて祝った行事から、一般に普及したもの。
- 人日の雪山ちかき父母の墓 石原舟月
- 人日の水打つてより小商ひ 清水基吉
- 四五頭の仔馬率てゆく人の日に 久保田月鈴子
- 清浄の雨すこし降る七日かな 櫛原希伊子
- 日のぬくみ欅にありて七日かな 永方裕子
七日正月(なぬかしょうがつ)
新年
元日から始まった朔旦正月の終わりの日。
七日正月として、この日に門松を外して松送りをする。
- 七日正月噴湯の虹を窓辺より 臼田亜浪
松の内(まつのうち)
新年
正月の門松を立てておく期間のこと。
関東では六日まで、関西では十四日までとすることが多い。
- 酔ひつれて雪駄鳴らすや松の内 尾崎紅葉
- 三日程富士も見えけり松の内 巌谷小波
- 子を持たぬ身のつれづれや松の内 永井荷風
- 松の内こゝろおきなき朝寝かな 高橋淡路女
- 大皿の鮓の出前や松の内 中村楽天
- 海に沿ふ一日の旅や松の内 吉田冬葉
- 渡月橋松の内なる往来(ゆきき)かな 室積徂春
- 柑園の雪はなやかに松の内 長田長旅
松過(まつすぎ)
新年
門松や注連縄を取ったあとの、しばらくの期間のこと。
日常に戻る一抹の寂しさも感じられる。
- 松過ぎて再び雪の大路かな 浅野白山
- 松過ぎの職安通ひ足袋新し 鈴木鶉衣
- 松過ぎの鳩ふくみ啼く昼深し 志摩芳次郎
- 松過や一人の姉に手紙かく 今井つる女
- 松過ぎの葉書一枚読む日暮 広瀬直人
- 松過の日当る草を見てゐたり 辻蕗村
餅間(もちあい)
新年
年の暮れに餅を搗き、再び新年の一月十四日に搗く習慣があったところから、その間の期間を指す。
地方により日にちは変わる。
この言葉は、現在ではほとんど用いられることがなくなった。
小年(こどし)
新年
大年(おおとし、大晦日の傍題)に対する言葉で、一月十五日の小正月の前日の、十四日のこと。
関西では十四日年越しといって松を外すところがある。
また、厄除けの日とするところもある。
小正月(こしょうがつ)
新年
一月一日の大正月に対して、一月十五日、または十四日から十六日までを小正月という。
大正月を元日から七日まで、小正月を十五日から二十日までとする地方もある。
旧暦では小正月はかならず満月であった。朔旦正月となる以前は、望月の日が年始であったので、その名残で満月のお正月を祝う習慣が続いた。
- 松とりて世ごころ楽し小正月 几董
- あたゝかく暮れて月夜や小正月 岡本圭岳
- 日を浴びてさざめく樟や小正月 米谷静二
- 遠富士のけふ肩出しぬ小正月 村上麓人
- 裁ちかけの衣の静けき小正月 斎藤夏風
女正月(おんなしょうがつ)
新年
一月十五日。
元日を中心とした大正月を男正月というのに対し、十五日を中心とした小正月を女正月とした。
暮れから正月にかけて忙しい日々だった女性たちが、十五日あたりでほっと一息つける頃であったといわれる。
- 女正月つかまり立ちの子を見せに 中野三允
- 床花の一輪潔し女正月 楠本憲吉
- 女正月磯に夏柑ころげ出て 中拓夫
- 蕾もつものに目をやり女正月 大谷河童
- 湯のたぎる音のみ聞こゆ女正月 下間玲子
仏正月(ほとけしょうがつ)
新年
仏事の始め。
新年になってはじめて仏をまつり、墓参り、寺参りなどすること。
- ひとり来て仏の正月崖荒し 源鬼彦
花の内(はなのうち)
新年
大正月の松の内に対して、小正月から月末までの間を花の内といった。
小正月には削り花(丸木を薄く削って花の形にしたもの)や粟穂稗穂(あわぼひえぼ)の作り物を飾ったためといわれる。
- むなしさの花の内とは誰が言ひし 北建夫
二十日正月(はつかしょうがつ)
新年
一月二十日のこと。
正月納めの日とされている。
- 絵の具とくや二十日正月日曜日 大場白水郎
- 骨正月旦暮の靄に邑溺れ 西村公鳳
- 文楽に二十日正月とて遊ぶ 大橋敦子
- 山の湯に骨正月の老夫婦 長谷川浪々子
初三十日(はつみそか)
新年
正月の末日を初三十日、初晦日という。
地方により、団子をつくったり、蔦を飾る風習がある。
- 初三十日四十路の時の迅きこと 永淡輔
- 地にこぼす硬貨の音や初三十日 喜多牧夫
春永(はるなが)
新年
春の、日の長く感じられること。
正月のことを祝意をこめていう言葉である。
- 春永といふやことばのかざり繩 立圃
- 春永の障子雪降りうつしけり 神田南畝