仲春は、春の三ヶ月を初春、仲春、晩春と分けたときの真ん中の一ヶ月で、ほぼ三月にあたります。
二十四節気では啓蟄、春分の期間(三月六日頃から四月四日頃)になります。
今回は春の時候の季語のなかでも、仲春に分類される季語を集めました。
初春、二月の時候の季語晩春、四月の時候の季語三春の時候の季語
春の季語一覧
時候
仲春(ちゅうしゅん)
仲春
春を三分して初春、仲春、晩春とするが、ちょうど春半ばの意味となる。
二十四節気でいう啓蟄(けいちつ)と春分の期間で、三月六日ごろから、四月四日ごろにあたる。
- 仲春や庭の撩乱古机 松根東洋城
- 春なかば愁は松を仰ぎても 牧瀬蟬之助
三月(さんがつ)
仲春
暖かくなったり寒さが戻ったりを繰り返しながら、日毎に本格的な春に向かうとき。
三月三日には雛祭(ひなまつり)が行われ、彼岸を迎えると、各地からさまざまな花便りが届くようになる。時に寒が戻り雪が降ることもあり、気候的には不安定な時期である。
- 三月や清水寺の滝まうで 信徳
- 三月や冬の景色の桑一木 丈草
- 三月や大竹原の風曇り 芥川龍之介
- 萌いろの絵の三月の暦かな 皆川白陀
- 大ゆれに三月をよぶ竹の梢 菊地一雄
- 双眸(そうぼう)にあり三月の空の色 武田知子
如月(きさらぎ)
仲春
陰暦二月の異称で、陽暦のほぼ三月にあたる。
まだ寒さが厳しくさらに衣を重ねて着ることから、衣更着が由来とされている。
願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ
西行 山家集
- 如月やうすむらさきの蜆殻 増田龍雨
- きさらぎの藪にひゞける早瀬かな 日野草城
- 如月の梅林といふ停留所 清崎敏郞
- きさらぎや喪の家を出る一人づつ 桜井博道
- きさらぎの一夜で濡るる桐の幹 沼尻玲子
啓蟄(けいちつ)
仲春
二十四節気の一つで、雨水の後十五日、三月六日ころにあたる。
土の中で冬眠していた虫や蛙などが、穴から出てくるという意味である。
このころに初雷がとどろき、土中の虫を目覚めさせるというので「虫出しの雷」「蟄雷」という。
- 啓蟄のつちくれ躍り掃かれけり 吉岡禅寺洞
- 啓蟄や生きとし生きるものに影 斎藤空華
- 水あふれゐて啓蟄の最上川 森澄雄
- 啓蟄の蜘蛛また一つはしりけり 五十嵐播水
- 啓蟄の夜行列車の暗く長く 石原透
鷹化して鳩と為る(たかかしてはととなる)
仲春
中国古代の七十二候の一つで、啓蟄の第三候、三月十六日から二十日ころにあたる。
春の穏やかな陽気で、鷹は鳩に変身してしまうという空想による。
- 新鳩よ鷹気を出して憎まれな 一茶
- 鷹鳩に化して青天濁りけり 松根東洋城
- 鷹鳩と化し神木は歩かれず 鷹羽狩行
龍天に登る(りゅうてんにのぼる)
仲春
龍は中国で神聖視された想像上の生物で、四瑞(しずい)…麟(りん)・鳳(ほう)・亀(き)・龍(りゅう)の一つ。
中国の「説文解字」に、龍は「春分にして天に登り、秋分にして淵に潜む」とある。
(秋の季語「龍淵に潜む」)
万物が生動する春に天に登るという、壮大な想像による言葉である。
- 龍天に黄帝の御衣(おんぞ)翻へる 石井露月
- 龍天に登ると見えて沖暗し 伊藤松宇
- 龍天に登る古墨に重さなし 福田甲子雄
初朔日(はつついたち)
仲春
陰暦二月一日のことで、小正月(一月十五日)以後初めての朔日という意味である。
正月元日が新年となってからは、これを次郎の朔日とした。
- テレビ視る初朔日の核家族 久永芦秋
- 初朔日祖母が手馴れの鉄漿(かね)茶碗 呉地ぬい
- 舟止めの慣はし今も初朔日 川上翠光
春分(しゅんぶん)
仲春
二十四節気の一つで、三月二十一日ころ。
太陽が春分点を通過する時で、昼と夜の長さがほぼ等しくなる。
彼岸の中日にあたる。
この日から昼間の時間が長くなってゆく。
- 春分のおどけ雀と目覚めけり 星野麦丘人
- 春分の滑り台より眼鏡の子 桜井博道
- 顔泛(う)けるごと春分の京にをり 岡井省二
- 春分や手を吸ひにくる鯉の口 宇佐美魚目
彼岸(ひがん)
仲春
春分の日を中日として、前後三日ずつ七日間を彼岸という。
彼岸の法要がおこなわれる。
「暑さ寒さも彼岸まで」といわれ、過ごしやすく快適な気候を迎える。
- 何迷ふ彼岸の入り日人だかり 鬼貫
- 曇りしが降らで彼岸の夕日影 其角
- 山寺の扉に雲遊ぶ彼岸かな 飯田蛇笏
- 月日過ぎただ何となく彼岸過ぎ 富安風生
- お彼岸や音羽の滝のにぎやかに 山口誓子
- 山の端に宝珠のまるき彼岸かな 阿波野青畝
- 人界のともしび赤き彼岸かな 相馬遷子
春社(しゅんしゃ)
仲春
春分に最も近い前後の戊(つちのえ)の日。
土の神を祭って五穀の種子を供え、その成長と豊作を祈願する。
- 鳶ついと社日の肴領しけり 嘯山
- 村口の土橋の雨も社日かな 松根東洋城
- 社日詣の婆らに入りてやや若し 横山左知子
- 竹林に社日の雨の音もなし 古谷実喜夫
三月尽(さんがつじん)
仲春
三月が終わること。
- 三月尽校塔松と空ざまに 石田波郷
- 竹鳴らす三月尽の海の風 原けんじ
- 地玉子の潰れやすさよ三月尽 南ひさ子