仲秋は、秋の三ヶ月を初秋、仲秋、晩秋と分けたときの間の一ヶ月で、ほぼ九月にあたります。
二十四節気では白露、秋分の期間(九月七日頃から十月七日頃)になります。
今回は秋の時候の季語のなかでも、仲秋に分類される季語を集めました。
初秋、八月の時候の季語
晩秋、十月の時候の季語
三秋の時候の季語
時候
二百十日(にひゃくとおか)
仲秋
立春から数えて二百十日目で、九月一日ころにあたる。
時期的に台風が発生し暴風雨になることが多いとされ、とくに農家では厄日とされた。
またその十日後の二百二十日も厄日とされ、台風に警戒した。
- 風少し鳴らして二百十日かな 尾崎紅葉
- 伊香保まで雨歇まぬ二百十日かな 大谷句仏
- 二百十日塀きれぎれに蔦の骨 横光利一
- 大厄日西広々と暮れにけり 松村浪山
仲秋(ちゅうしゅう)
仲秋
三秋の第二で、秋の半ば。
厳密にいうと陰暦八月十五日を指す。
- 仲秋や夕日の岡の鱗雲 村上鬼城
- 仲秋や漁火は月より遠くして 山口誓子
- 仲秋の月の庵に僧ひとり 岡安迷子
- 仲秋や野に出でて野の平ら見る 染谷十蒙
九月(くがつ)
仲秋
夏休みも終わり学校は新学期が始まる。
まだ残暑厳しい日が続くが、暑さ寒さも彼岸までと言われるように、彼岸花が咲く頃には暑さも落ち着いてくる。
九月は台風シーズンでもあり、大型台風の襲来に見舞われることが多い。
- 九月の地蹠(あうら)ぴつたり生きて立つ 橋本多佳子
- 今朝九月草樹みづから目覚め居て 中村草田男
- 黒揚羽九月の樹間透きとほり 飯田龍太
- ひとり身の九月草樹は雲に豊み 野澤節子
- 経師出て九月の山を見てゐたり 岡井省二
葉月(はづき)
仲秋
陰暦八月の異称で、ほぼ陽暦の九月上旬から十月上旬にあたる。
この月の十五夜が中秋の名月で、月見月との呼び方もある。
稲の収穫時期でもある。
- 二度目には月ともいはぬ葉月かな 一茶
- 朝山や葉月の月のきえのこり 永田青嵐
- 葉月なる竪縞あらし男富士 富安風生
- 壇ノ浦上潮尖る葉月かな 野中亮介
八朔(はっさく)
仲秋
陰暦八月朔日を略していう。朔は第一日、ついたちのこと。
陽暦では九月初旬ころにあたり、この日の行事のこともこう呼ぶようになった。
農村の行事で、田の実の節(たのむのせち)、田の実の祝(たのむのいわい)という稲の豊作を祈願する行事。稲の初穂を供える穂掛けの行事。
それが民間行事となり、贈り物を相互に取り交わすようになった。
- 八朔や犬の椀にも小豆飯 一茶
- 八朔や一重羽織も空の色 成美
- 八朔の雲見る人や橋の上 内藤鳴雪
- 松青く刷き八朔の神楽殿 遠藤七狼
白露(はくろ)
仲秋
二十四節気の一つで、陽暦の九月七、八日頃にあたる。
陰気ようやく重なり露凝って白し、ということで草に朝露が降りるころである。
仲秋の前半が白露、後半が秋分となる。
- 草ともる鳥の眼とあふ白露かな 鷲谷七菜子
- 夜の弓ならふ白露の山塊よ 飯島晴子
- 手習の仮名も白露の夕べかな 笹尾操
- ゆく水としばらく行ける白露かな 鈴木鷹夫
- ひとつづつ山暮れてゆく白露かな 黛執
秋分(しゅうぶん)
仲秋
二十四節気の一つで、陽暦の九月二十二、三日頃にあたる。
太陽黄経が180度になり、春分と同じく昼夜の長さが同じになる。
この日から夜が長くなってゆき、夜長の季節になる。
秋の彼岸の中日でもある。
- 秋分の時どり雨や荏(え)のしづく 飯田蛇笏
- 嶺聳(そばだ)ちて秋分の闇に入る 飯田龍太
- 秋分の男松より夕日さす 田平龍胆子
秋彼岸(あきひがん)
仲秋
秋分を中心とした七日間をいう。
春の彼岸と同じように、法要や墓参が行われる。
- 風もなき秋の彼岸の綿帽子 鬼貫
- きらきらと秋の彼岸の椿かな 木導
- 梨腹も牡丹餅腹も彼岸かな 正岡子規
- 陸橋の空の白雲秋彼岸 石原舟月
- さびしさは秋の彼岸のみづすまし 飯田龍太
秋社(しゅうしゃ)
仲秋
秋の社日で、秋分にもっとも近い戌の日。
春の社日に山から下りてきた土地の神が、山にかえる日とされる。
春には豊作を祈念し、秋には収穫を感謝する。
- 唐黍の風や秋社の戻り人 石井露月
- 家居籠りに秋社の雨と思ひけり 奈良来牛
龍淵に潜む(りょうふちにひそむ、りゅうふちにひそむ)
仲秋
秋分のころをいう。
想像の上でのもので、中国の「説文解字」に「龍は春分にして天に登り、秋分にして淵に潜む」とあるところから。
(龍、竜…「リュウ」と「リョウ」の音は特定の語を除いて多く互用します。)
- 龍淵に潜む岩ごけ湿らせて 千保霞舟
水始めて涸る(みずはじめてかる)
仲秋
秋分の第三候で、陽暦十月三、四日にあたる。
田畑の水を干し始めるという意味で、稲の収穫をする時期。
冷やか(ひややか)
仲秋
肌に冷気を感じ始める寒さのこと。
初秋には涼しさを覚えたが、仲秋には冷たさを感じるようになる。
- もたれゐる物冷やかになりにけり 荷兮
- ひやひやと手に秋立や釣瓶縄 也有
- ひやゝかに簗(やな)こす水のひかりかな 久保田万太郎
- 秋冷の瀬音いよいよ響きけり 日野草城
- 冷えそめて旦暮(たんぽ)したしき鳶(とび)の笛 斎藤空華
かりがね寒き(かりがねさむき)
仲秋
仲秋から晩秋のころ、雁が渡ってくる時期の寒さのこと。
今朝の朝明雁が音寒く聞きしなべ野べの浅茅ぞ色づきにける
万葉集 巻八