立冬から立春前日までの、冬の時候の季語のなかでも、三冬に分類される季語を集めました。
一年で最も日が短く寒さ厳しい冬。
木々は落葉し、動物や虫たちは休眠に入り、春の目覚めを待ちます。
生活は大変さを増しますが、寒さならではの美しい景色が見られるのもこの時期です。
冬の俳句作りの際にぜひ参考になさってください。
初冬の時候の季語
仲冬の時候の季語
晩冬の時候の季語
時候
冬(ふゆ)
三冬
暦の上では、立冬から立春の前日の節分までをいい、陰暦のほぼ十、十一、十二月にあたる。
陽暦では十一、十二、一月であるが、気象学上では、十二、一、二月を冬としている。
冬を三つに分けた初冬、仲冬、晩冬を「三冬」といい、その間の九十日間を「九冬」という。
陰陽五行で冬は黒にあたるので、玄(黒の意)をつけ「玄冬」ともいう。
- 筆ちびてかすれし冬の日記かな 正岡子規
- 枕摺れしてゐる頬や冬鏡 宮部寸七翁
- 天龍も行きとどこほる峡(かひ)の冬 松本たかし
- 馬馳せる冬まんだらの雲の影 富沢赤黄男
- み仏に美しきかな冬の塵 細見綾子
- 玄冬の鷹鉄片のごときかな 斎藤玄
- 呼べばすぐ応へてしんと冬の家 植村通草
- ひと通るたび翳さして冬の寺 矢島渚男
冬ざれ(ふゆざれ)
三冬
冬になり草木は枯れ、荒涼としひっそりと物寂しいさま。
「冬されば」が誤用されたもので、「冬され」ともいう。
「冬さる」は冬になること。この動詞「さる」は、その時になるという意味である。
以前は初冬の季語とされていたことから、「冬になれば」という意味が残っていた。
「冬ざれ」と濁音になって発音されると、「曝る(ざる)…日光や風雨にさらされて色褪せたり枯れたりすること」の意味が重なり、冬枯れの蕭条たる景色となる。
冬されば あらしのこゑも 高砂の 松につけてぞ 聞くべかりける
能宣 拾遺集巻四 冬
- 冬されや小鳥のあさる韮畠 蕪村
- 大石や二つに割れて冬ざるゝ 村上鬼城
- 冬ざれや雨にぬれたる枯葉竹 永井荷風
- 冬ざれやころゝと鳴ける檻の鶴 水原秋櫻子
- 見えぬ一病憎み愛しつ冬ざるる 角川源義
- 冬ざれや屋根にかたより雀群る 小林清之介
冬暖か(ふゆあたたか)
三冬
冬に入ってから、晴れて風のない日など、暖かい陽気になること。
天候により数日続くこともある。
暖冬の年は生活はしやすいが、農作物への影響や、雪不足によりスキー場に影響が出る。
- 冬あたたか五十のわれに母在れば 大野林火
- 弓形(な)りに海受けて土佐冬ぬくし 右城暮石
- 暖冬や砂丘をのぼる身の重さ 秋元不死男
- 暖冬の夜の雲歩く方へ迅(はや)し 原田種茅
- 冬暖の雨ふる桃の瑞枝(みづえ)かな 小川鴻翔
- 冬ぬくく鷗を追うて沖へ行く 泉春花
- 校庭の柵にぬけみち冬あたたか 上田五千石
盤渉調(ばんしきちょう)
三冬
雅楽の唐楽の六調子の一つで、盤渉の音(洋楽のロ音にあたる)を主音とする調べのこと。
源氏物語(帚木)の中で、神無月(陰暦十月、陽暦十一月)の月の夜に、「木枯らしに吹きあはすめる笛の音をひきとどむべき言の葉ぞなき」と詠み、筝の琴を盤渉調の調べで弾いた、と書かれているところから、冬の季語とされた。
冬の日(ふゆのひ)
三冬
「冬の一日」をいう場合(時候)と、「冬の太陽」をいう場合(天文)の二つの意味がある。
冬日(ふゆひ)は冬の太陽のこと。
冬は短日というように日脚が短く、日照時間が短くなる。
太陽の光も弱々しいが、晴れた日の日向は暖かく、貴重な日差しとなる。
日本海側から東北は雪が降り、関東から西の太平洋側は晴れの日が続くことが多い。
- たまたまに鳥なく冬のひなたかな 大江丸
- ひとり鳴くあひるに冬の日ざしかな 幸田露伴
- 桃畠の土もおちつく冬日影 籾山梓月
- 日の冬や砂の上なる波かたち 小杉余子
- いつぽんの幹のさへぎる冬日なり 長谷川素逝
- 冬の日のものぬくめゐる静けさよ 小島政二郎
- 花びらの一片のごと冬日落つ 原コウ子
冬の朝(ふゆのあさ)
三冬
冬の朝は寒さが一番身にしみる時。
最低気温となる日の出前には氷点下になることも多く、地面には霜が降り、大気は冷え切っている。
雪国では一面の雪が広がり、その上にさらに雪が降りしきる。
寒暁(かんぎょう)は冬の寒い明け方のこと。
- 寒暁の汽笛行手の海祓う 山口誓子
- 寒の暁ツィーンツィーンと子の寝息 中村草田男
- 冬暁けの岩に対(むか)ひて人彳(た)てり 石橋辰之助
- 寒暁や神の一撃もて明くる 和田悟朗
- 寒暁を覚めての息の快し 篠田悌二郎
- 散る濤に冬暁のきざしけり 米澤吾亦紅
- 冬暁に父来て生前より多弁 野澤節子
- 寒暁のまぎれなき死を囲みけり 荒井正隆
冬の暮(ふゆのくれ)
三冬
冬の夕方のこと。
日は短く早々に日が暮れ、夕闇のうちに急に冷え込んでくる。
冬の宵は日が暮れて間もないうちのことで、その時間帯を表す。
冬の夕(ゆうべ)というと、やわらかい情感も表され、寒暮(かんぼ)というと、その硬い語感から寒く厳しい感じが出る。
冬の暮(ふゆのくれ)はその時間帯とともに冬の生活感をも伴う。
- 巻雲の一筋冬の夕べかな 小杉余子
- なにもゐぬ洲に汐充ちて寒暮かな 松村蒼石
- 寒暮濃くなりて煮つまる鯛の粗(あら) 佐野まもる
- 沢蟹の寒暮を歩きゐる故郷 飯田龍太
短日(たんじつ)
三冬
冬至のころは最も日が短く、あわただしく日が暮れる。
暖かな昼が短く、すぐに暮れてしまうことを惜しむ気持ちがこもる。
冬至は夜が最も長くなるが、「夜長」といえば冬ではなく秋の季語。これは、涼しい夜が長くなったのを喜ぶからである。
春は暖かな昼が長くなったのを喜んで「日永(ひなが)」といい、夏は涼しい夜がたちまち明けてしまうのを嘆いて「短夜(みじかよ)」という。
- 短日やにはかに落ちし波の音 久保田万太郎
- 枯れ果てし真菰(まこも)の水や日短か 高野素十
- 短日の灯をともす間の筆を措く 後藤夜半
- ちちははの齢越えて日々短しや 大野林火
- 少しづゝ用事が残り日短 下田実花
- 短日やたのみもかけずのむくすり 中村伸郎
冬の夜(ふゆのよ)
三冬
一年でも最も夜が長い冬。
冬の夜更けは「夜半の冬」、とくに寒さが厳しい冬の夜を「寒夜」という。
昔は炉やこたつを囲んで暖をとりながら過ごすことが多かった。
冬の暖房に関する季語
- 冬の夜や哭(なく)におどろく犬の声 森鴎外
- 冬の夜をいつも灯ともす小窓かな 高浜虚子
- 物おちて水うつおとや夜半の冬 飯田蛇笏
- 寒き夜の畳におきし時計かな 徳川夢聲
- 冬の夜の捩りし反古が音立つる 野見山ひふみ
霜夜(しもよ)
三冬
晴れて寒さの厳しい夜には、地表の温度が氷点下になり、霜が降りる。
最も気温の下がる明け方には、地面や枯れ草が白く光る。
- 我骨のふとんにさはる霜夜かな 蕪村
- 霜満つる夜ただ楠の匂ひかな 暁台
- 秒刻とわが心音と霜夜更く 富安風生
- ひとつづつ霜夜の星のみがかれて 相馬遷子
冷し(つめたし)
三冬
「寒し」は大気の温度が低いのをいうのに対し、「冷し」は冷え切った物に触れた時の、冷たいという皮膚感覚をあらわす言葉である。
「爪痛し」からきた語ともいわれる。
また、大気が冷え切っているためにひやりとした感触があることや、人の心の冷たさ、薄情さにもいう。
体感による冷たいという感じが元になっている。
底冷えは底からしんしんと冷える感じのこと。
- つめたさに箒捨けり松の下 太祇
- 手で顔を撫づれば鼻の冷たさよ 高浜虚子
- 谿の夜の底冷えに住む灯の窓なり 長谷川素逝
- 坑の奥より底冷え軌条音をはこぶ 加藤楸邨
- そこ冷の玄関に客を送りけり 久保より江
- 冷たしや出土磁片の息ぐもり 桂樟蹊子
寒し(さむし)
三冬
体全体で感じる冬の低温のこと。
物に触れた時の皮膚感覚は「冷し」、目や耳で感じる低温の感覚を「冴ゆ」という。
寒き朝、寒き夜といえば冬だが、朝寒、夜寒など熟語になると秋、春寒、余寒は春になる。
- 雪の松折口見れば尚寒し 杉風
- 我が馬を盾にしてゆく寒さかな 其角
- 半鐘の小一里響く寒さかな 羅蘇山人
- もの音もあらぬ書斎の寒さかな 吉川英治
- 水のんで湖国の寒さひろがりぬ 森澄雄
冴ゆる(さゆる)
三冬
冷たく澄み切ったさま。
寒さがより厳しくなり冷たく凍り、くっきりと透徹した感じである。
- 神杉のさえこむ影や禰宜の夢 丈草
- 島泊り昴落ちさう冴えにけり 阿波野青畝
- 暮れ残る豆腐屋の笛冴えざえと 中村草田男
- 冴ゆる夜の噴煙月に追ひすがる 米谷静二
- 冴ゆる夜の抽斗(ひきだし)に鳴る銀の鈴 小松崎爽青
- 満月の冴えてみちびく家路あり 飯田龍太
冱つる(いつる)
三冬
寒気にあって凍ること。
頰凍つる、風凍つる、月凍つる、鐘凍つるなど、実際に凍っていないものでも、凍てついた感じを強調するために比喩的にも用いる。
寒さが厳しい中での快晴を凍晴(いてばれ)という。
また寒さの厳しい地方で、急な寒気の襲来で空気中の水蒸気が凍結し、霞んだように見えるのを凍曇、凍霞、凍靄という。
- 庭草のよごれしままに風の凍 白雄
- 地球凍てぬ月光之を照しけり 高浜虚子
- 墓沍ててとほき甍(いらか)とひかりあふ 大野林火
- 夕凍てのにはかにおもひ浮ぶこと 飯田龍太
- 折鶴のごとくに葱の凍てたるよ 加倉井秋を
- 星冱てて人のこころに溺れけり 松村蒼石
三寒四温(さんかんしおん)
三冬
三日ほど寒い日が続き、その後四日ほど暖かい日が続くこと。
もともとは朝鮮半島や中国北東部に多く見られる現象で、第二次世界大戦前に広まった言葉である。
現在では天気予報や時候の挨拶でも用いられるようになった。
- 降りいでし四温の雨や竹騒ぐ 石川桂郎
- だらしなく酔ひて四温の帽子かな 草間時彦
- 三寒のなくて四温の十姉妹 鷹羽狩行
- てのひらに四温の雨や能のあと 宇佐美魚目
- 雉鳩に四温の雨のやはらかし 新井佳津子