春の桜の季語、今回は気候に関する言葉や、お花見、桜を使った食べ物など生活に関する言葉を集めました。
お花見や、桜に関するお祭りに行った際には、これらの季語に出会うことも多いと思います。
俳句を詠む際には、前回の桜に関する季語・植物編とともに、ぜひ参考になさってください。
春の季語一覧
時候
桜月(さくらづき)
晩春
春の季語「弥生(やよい)」の傍題。
弥生は陰暦三月の異称。今のほぼ四月にあたる。
花見月、春惜しみ月、花津月(はなつづき)、夢見月、さはなき月
花冷(はなびえ)
晩春
桜の咲く頃は気候も安定せず、ふいに寒さが戻ることがある。
全国的に見られるが、とくに京都の花冷えが有名。
暖かな陽気から一転して底冷えのする冷気と、桜の華やかさとが対照的である。
- 花冷に欅はけぶる月夜かな 渡辺水巴
- 満月を上げて八分の花の冷え 森澄雄
- 花冷の闇にあらはれ篝守(かがりもり) 高野素十
桜時(さくらどき)
三春
春の季語「花時(はなどき)」の傍題。
俳句で花といえば桜を指すので、花時は桜の花の咲く頃という同じ意味をもつ。
花のころ、花の頃、花過ぎ
- 硝子器を清潔にしてさくら時 細見綾子
- 白粥を所望や京の桜どき 水原春郎
天文
桜東風(さくらごち)
三春
春の季語「東風(こち)」の傍題。
春に吹く東風で、桜の咲く時期の東風をさす。
こち風、正東風(まごち)、強東風(つよごち)、夕東風(ゆうごち)、朝東風(あさごち)、雲雀東風(ひばりごち)、鰆東風(さわらごち)、梅東風(うめごち)、あめ東風、いなだ東風
桜まじ
晩春
「まじ」とは南、または南よりの風のことをいい、桜が咲く頃に吹く南風や南東の風を、桜まじという。
- 待つことに馴れて沖暮る桜まじ 福田甲子雄
花の雨
晩春
桜の咲く時期に降る雨、または桜の花に降り注ぐ雨、という両方の意味がある。
- 遠山は雪まさるべし花の雨 松本たかし
- 花の雨やがて音たてそめにけり 成瀬櫻桃子
花曇(はなぐもり)
晩春
昔から「花開く時風雨多し」といわれるように、季節の変わり目で低気圧が生じやすくなる。
桜の咲く頃の、暖かくどんよりとした薄曇りのことを、花曇という。
- 花ぐもり田にしのあとや水の底 丈草
- 花曇り朧につづく夕べかな 蕪村
- 咲満る花に淋しき曇り哉 正岡子規
- 夜に入れば月明かや花曇 高浜虚子
- 京にこころを大阪に身を花くもり 八幡城太郎
生活
花衣(はなごろも)
晩春
花見に着て行く晴れ着。
また桜襲(さくらがさね)の衣や、桜の花が散りかかった衣のことを指すこともある。
- 筏士(いかだし)の蓑やあらしの花衣 蕪村
- 花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ 杉田久女
- 夕風の小寒さおぼゆ花衣 大場白水郎
- 脱ぎあうて若き母娘や花衣 小島延介
桜衣(さくらごろも)
晩春
襲(かさね)色目の一つ、桜襲による衣。
表が白、裏は赤、紫、葡萄染(えびぞめ)など諸説ある。
桜漬(さくらづけ)
晩春

桜湯
八重桜の花を塩漬けにしたもの。
お祝いの席などでは、これに熱湯を注いだ桜湯が供される。
茶碗の中で桜の花がゆっくり開いてゆく。
塩抜きをして、ちらし寿司の飾りにも用いられる。
- 桜湯を含めばとほる山がらす 飯田龍太
- 桜漬ひとり咲かすや夜の雨 宮本千恵子
- さくら湯の花びらのみなひらくまで 三浦恒礼子
- 旅の夜のさくら湯心ゆるしあふ 古賀まり子
桜餅(さくらもち)
晩春

関東の桜餅

関西の桜餅(道明寺)
大島桜の若葉を塩漬けにしたもので包んだ餅菓子で、桜の香りが楽しめる。
関東と関西で異なる。
- 三つ食へば葉三片や桜餅 高浜虚子
- さくら餅食ふやみやこのぬくき雨 飯田蛇笏
- とりわくるときの香もこそ桜餅 久保田万太郎
花見
晩春
桜の花を愛で、花の下でござを広げて食べたり飲んだりを陽気に楽しむ花見は、日本人の楽しみにしている行楽の一つになっている。
桜は他の花に比べて、咲き始めたと思ったら満開になり、散ってしまうまでが非常に短いため、その期間を一斉に桜の名所を訪ねる人々が多い。
傍題にあるように、花見に関する季語も大変多い。
- 花にゆく老の歩みの遅くとも 高浜虚子
- 老いそめて花見るこゝろひろやかに 飯田蛇笏
- 花見つゝ花を他所なる思ひごと 市村不先
- うたたねのひとり残るや花見船 田中幸兵衛
桜狩(さくらがり)
晩春
桜の花をたずねて、山野を歩き楽しむこと。
どこか桜の名所を訪ねるというわけではなく、桜を探しつつ山歩きをすることである。
また、山の中にある桜の名木を見にゆく場合なども、桜狩という。
- 業平の墓もたづねて桜狩 高野素十
花筵(はなむしろ)
晩春
花見の宴に使う筵のことで、材質にかかわらず花見に使う敷物全般をいう。
また、花見の宴そのもののことや、一面に散っている花びらの上に座ることも、花筵という。
- 花筵引きずつてきし水辺かな 野村泊月
- 花筵往生際の話など 塚本忠
夜桜(よざくら)
晩春
夜の花見、夜桜見物のこと。
夜に咲いている桜のこともいうが、その場合は「夜の桜」とすることもある。
- 夜桜に月は七日か八日かな 高橋淡路女
- 夜桜の一枝長き水の上 高野素十
- 夜桜や梢は闇の東山 田中王城
- 夜桜へ出がけの月の松にあり 田辺夕陽斜
花篝(はなかがり)
晩春
夜、桜の花の下で焚く篝火のこと。京都祇園の花篝が有名である。
花雪洞(はなぼんぼり)は、夜桜見物の花の下、ところどころに設置されたぼんぼりの灯り。

花雪洞
- たをやかに花は揺れゐて篝かな 野村泊月
- 水中の闇をうごかし花篝 木内怜子
- 暮れきらぬ空に城あり花篝 花森柑子
花守(はなもり)
晩春
桜の花を守り管理している人。
または庭などに咲く桜の家の主人をいうこともある。
- 一里はみな花守の子孫かや 芭蕉
- 花守の心にほむる女かな 秋色
- 雲に入る飛花や花守白髪に 大野林火
花軍(はないくさ)
晩春
桜の花の枝などを打ち合う遊び、または桜を持ち寄って優劣を競い、和歌を詠む遊び。
中国でこのような遊びの記録が残っている。
花疲(はなづかれ)
晩春
花見をして疲れること。
春の埃っぽい風が吹く中、美しい桜の花に酔い、人混みにもまれて歩き回り、すっかりくたびれてしまう様子。
日中は暖かくても夜は気温が下がる季節の変わり目で、だるくものうい春愁にもつながる。
- 小筵や花草臥(はなくたぶる)のどやどやと 一茶
- 寝心も花くたびれの夜頃かな 蓼太
- 坐りたるまゝ帯とくや花疲れ 鈴木真砂女
行事
吉原の夜桜(よしわらのよざくら)
晩春
江戸時代に吉原遊郭にて、三月朔日より三十日まで、桜を植えて雪洞を灯した。
この期間にはとくに客で賑わったという。
- 吉原の夜桜なかを通ひけり 野村喜舟
安良居祭(やすらいまつり)
晩春
四月の第二日曜日、京都の今宮神社で行われる花鎮めの祭礼。
「やすらい花の踊」を奉納する。
鎮花祭(はなしずめまつり)
晩春
四月十八日に、奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)、狭井神社(さいじんじゃ)で行われる祭礼。
昔、桜の花の散る頃に流行した疫病を鎮めるための祭りである。
- 神帰り其座や袖の花鎮 言水
花換祭(はなかえまつり)
晩春
福井県敦賀市金ケ崎宮で四月に行われる祭り。
桜の小枝(造花)を社前で授けてもらい、願いを込めて福娘と交換する。その枝を「花換えましょう」と言って思い思いの人と交換すれば、願いが叶うといわれる。
- 花換や沖ゆく船のさみしくて 川上季石
吉野花会式(よしののはなえしき)
晩春
毎年四月十一、十二日に吉野の金峯山寺蔵王堂で行われる花会式で、春の吉野山の最大行事。
竹林院から古式十万石の大名行列が、満開の桜の花の下を蔵王堂まで練り歩く。
十日に桜本坊で餅の千本搗きが行われる。
- 花会式かへりは国栖(くず)に宿らむか 原石鼎
鞍馬の花供養(くらまのはなくよう)
晩春
京都市左京区の鞍馬寺で四月に行われる。
花供養の中日には、雲珠桜の下を練供養、花会式が行われる。
- 午の鐘響き渡るや花供養 高浜虚子