青い空に白い雲、照りつける太陽、そして紺碧の海。
七月になると各地で続々と海開き、そして七月第三月曜日には海の日を迎え、夏の海は大勢の海水浴客やマリンスポーツを楽しむ人々で賑わいます。
今回は夏の海に関する季語を集めました。
海の俳句を詠む際にはぜひ参考になさってください。
地理
夏の水(なつのみず)
三夏
夏における水の総称。
海、川、滝、湖などの自然のもの、日常生活で用いる水、飲料としての水などさまざまに使うことができる。
- 指輪なき指を浸せり夏の水 野澤節子
夏の海(なつのうみ)
三夏
夏は海が最も賑わう季節。
盛夏の太陽、紺碧の海、砂浜にはたくさんの海水浴を楽しむ人々が集う。
- 島々や千々に砕けて夏の海 芭蕉
- 掌に掬へば色なき水や夏の海 原石鼎
- 夏海へ燈台径(みち)の穂麦かな 飯田蛇笏
夏の浜(なつのはま)
三夏
夏の浜辺。
白い砂浜は海水浴の人たちで賑わう。
- よるべなく光あかるし夏の浜 山口誓子
- 青岬尖りて浪を二分けに 西村秋羅
夏の波(なつのなみ)
三夏
白い波頭を立てて海岸に打ち寄せる波、岩や岩壁に砕ける波、豪快な高波など、夏の海の波。
- 夏浪の寄せ来る浜に恋もなし 山口誓子
- 中年や身を夏濤のなすまゝに 藤井亘
- 夏濤や吹き撓むとき色変ゆる 吹田孤蓬
- 夏濤の白穂ゆたけき岬寺 菊川芳秋
卯波(うなみ)
初夏
陰暦四月ころ(今の五月ころ)の波で、卯月の波ということ。
晩春から初夏にかけての低気圧の通過により、海や川に白波が立つことを指している。
- 四五月の卯浪さ浪やほととぎす 許六
- 楫(かぢ)音や卯波も寒き鳴門沖 梅室
- 散りみだす卯波の花の鳴門かな 蝶夢
- ひとの恋あはれにをはる卯波かな 安住敦
- 卯波といふ白き泡立ち走り寄る 細見綾子
- 卯波立つ万葉の島一めぐり 石井相陰
皐月波(さつきなみ)
仲夏
陰暦五月ころの海に立つ波のこと。
今の六月の梅雨頃にあたり、強い南風が吹き、波が高く荒れることが多い。
- 引いてゆく長きひゞきや五月浪 鈴木花蓑
- 海くらく長汀洗ふ皐月波 相沢行々子
土用波(どようなみ)
晩夏
夏の土用のころ、太平洋沿岸に寄せてくる高い波。
南方沖に発生した台風の影響によるうねりの波で、この土用波が立つと、秋の気配を感じさせる。
- 土用浪まきつくしたる巌かな 長谷川春草
- 補陀落は地ひびきすなり土用浪 阿波野青畝
- 土用波きこえてくらき芥子畠 石原舟月
- 物売りの荷を砂におく土用波 桂信子
- 海の紺白く剥ぎつつ土用波 瀧春一
夏の潮(なつのしお)
三夏
夏の潮全般をさしていう。
初夏は明るく力強く流れ、六月の梅雨には荒れて暗い流れになり、七月になり梅雨が明けると、炎天下の濃紺の潮流となる。
- 夏潮の今退く平家亡ぶ時も 高浜虚子
- わが胸を浸し夏潮いま高し 池内友次郎
- 夏潮に道ある如く出漁す 稲畑汀子
- 夏潮の退けば径ある大鳥居 筒井塔子
青葉潮(あおばじお)
初夏
五月の青葉の頃、太平洋岸を北上する黒潮を、青葉潮という。
栄養豊富な親潮の寒流とぶつかって潮目を形成し、プランクトンの繁殖で鰹の豊漁をもたらすので鰹潮ともいう。
- 青葉潮みちくる一期一会なる 細見綾子
- 海神の翔び立つきざし青葉汐 中村敬生
- ねむる子のまぶたのうごく青葉潮 藺草慶子
赤潮(あかしお)
三夏
海中のプランクトンの大量発生によって海水が赤くなる現象。
汚染された海水がおもに植物性プランクトンの栄養となり、異常に増殖して水中の酸素が少なくなり、魚介類が大量に死んでしまう。
- 赤潮はよその沙汰なり握り寿司 阿波野青畝
- 赤潮や旅鞄置く石磧(かはら) 上野泰
- 赤潮や日闌けし靄のなほ流れ 木村蕪城
苦潮(にがしお)
三夏
海底に溜まった酸素濃度の低い海水が、沿岸の海面に上昇してくることにより発生する。
硫化物が発生し海水が青白く濁ってみえることから、青潮とも呼ばれる。魚介類の大量死を招く。
- 苦潮にうつそみ濡れて泳ぐなり 森川暁水
- 苦潮を噛みて岩礁あらあらし 立花豊子
熱砂(ねっさ)
晩夏
真夏の太陽の熱で、焼けるように熱くなった砂のこと。
海辺の砂浜、河原、砂丘などの砂は非常に熱くなる。
もとは「灼くる(やくる)」という時候の季語の傍題とされていたが、用例が増えるのに伴い地理の季語となった。
- 熱砂ゆく老婆の声もせずなれり 山口誓子
- 蛇行とは河が熱沙とたたかふとき 加藤楸邨
- 窪なして熱砂水なき河流る 岡野等
生活
水着(みずぎ)
晩夏
海やプールで泳ぐときに着る水着、競泳用の水着など。
- まつはりて美しき藻や海水着 水原秋櫻子
- 海水着男女が影をさしかはす 山口誓子
- 椅子深く水着のままに熟睡(うまゐ)せる 大野林火
- 水着の娘しなしなと来て赤電話 神山幸子
- ひそやかに水着の妻となりゐたり 田中春生
昆布刈(こんぶかり)
三夏
昆布の主産地は北海道や三陸地方で、夏に刈り取られる。
刈り取った昆布は、浜辺で天日干しされる。
- オホーツクの海ねぢりては昆布刈 杉野秋耕死
- 放牛の食むを承知の昆布干す 井尾望東
- 馬でゆく千島の荒磯昆布干せる 佐藤牧翠
天草取(てんぐさとり)
三夏
海藻の一種で、夏に海女が潜水して採取し、心太や寒天の原料とする。
- 干してある天草反せば裏に貝 大橋櫻坡子
- 天草も海女も濡れ身はおもしおもし 野澤節子
- 天草海女髪梳きあひて海荒るる 今岡碧露
海蘿干(ふのりほし)
晩夏
岩礁に生える紅藻類の一種で、味噌汁に入れて食したり、糊の材料とする。
- 門口も磯の匂ひやふのりほし 利牛
- 修道女午後はふのりを干すいとま 高浜年尾
- 海蘿干す老のあやしむ雲出たり 宮下翠舟
夜釣(よづり)
三夏
夏の夜に海や川、湖などで釣りをすること。
- 垣外に夜釣の鈴の聞えけり 竹下きよし
- 崖裏に月のひそめる夜釣かな 茂籠草亭
- マッチの火虚空へとびし夜釣かな 米澤吾亦紅
- 二番星三番星は夜釣の灯 和田祥子
箱眼鏡(はこめがね)
三夏
箱の底にガラス板をはめた道具で、上から覗いて水中の魚を突いたり、貝を採るのに用いる。
- 箱眼鏡波飴のよに畳みけり 徳永山冬子
- 箱眼鏡海のプライバシーのぞく 島将五
- 箱眼鏡みどりの中を鮎流れ 宇佐美魚目
水中眼鏡(すいちゅうめがね)
三夏
水中に潜るときに目を開けていられるようにつけるので、水が入らないように作られている。
- 水眼鏡とらず少年走り来る 田中裕明
網舟(あみぶね)
三夏
海や川、湖などで、船の上から網を打って魚をとること。
鱚釣(きすつり)
三夏
鱚は浅い海の砂地に生息し、夏になると産卵のため水深のごく浅いところに集まってくるので、初心者でも釣りやすい。
天ぷらや塩焼きにされる。
- 白鱚の眼瞋(いか)らし釣られける 篠田悌二郎
- 真夜中や鱚舟くだる隅田川 木津柳芽
- 鱚舟のもどりて朝の江をにごす 宮原双馨
べら釣(べらつり)
三夏
スズキ目ベラ科の魚の総称で、六、七月ころが旬となる。
- べら釣の波乗小舟島端に 松本たかし
- べら釣に夜焚よごれの舟を借り 藤崎久を
烏賊釣(いかつり)
三夏
烏賊は種類や地方によって旬の時期が違ってくる。
夜に集魚灯をつけて、寄ってきた烏賊を釣ることを夜焚き釣りという。
- 烏賊釣のわが灯ひとつにつゞく闇 米澤吾亦紅
- 赤々と烏賊火は遠し寝るときも 桂樟蹊子
- 烏賊釣火沖ゆらぐごと増えにけり 大澤ひろし
- 明け方は西へと寄りぬ烏賊釣火 松林朝蒼
鰹釣(かつおつり)
三夏
鰹は、太平洋沿岸を黒潮に乗って春から季節が進むにつれ北上し、秋には南下する回遊魚である。
- 鎌倉は波風もなし鰹つり 蓼太
- 高波をえいやえいやと鰹舟 長谷川素逝
夕河岸(ゆうがし)
晩夏
魚河岸は朝に開かれるが、夏は魚がいたみやすく日が長いので、午後に港に帰ってきた漁船からも直ちに魚市場に運び夕方に売りさばいた。
- 夕河岸や横日匂へる日本橋 柳下孤村
- 夕河岸の鯵売る声や雨あがり 永井荷風
囲い船(かこいぶね)
晩夏
漁の期間が終わった船を陸にあげ、苫(とま)やシートをかけて囲っておくこと。
北海道で春のニシン漁が終わると、船が一斉に引き上げられて苫がかけられたのが夏だったので、夏の季語となった。
船遊(ふなあそび)
三夏
納涼のために海、川、湖などで、小型の船に乗って楽しむこと。屋形船など。
- 遊船のさんざめきつつすれ違ひ 杉田久女
- 舟遊びあやまちぬらす袂かな 高橋淡路女
- 手をだせばすぐに潮ある船遊び 山口波津女
- 遊船や毛氈(もうせん)の上の水の玉 大橋宵火
- 日にかざす扇小さし舟遊 阿部みどり女
ボート
三夏
池や川、湖、海などに浮かべて遊ぶボート。
オールで漕ぐもの、足でペダルを漕ぐものなど。
- 貸しボート旗赤ければ空青く 竹下しづの女
- 恋のボート父子のボート漕ぎかはし 富安風生
- ボートより菓子の袋を漂はす 横山白虹
- モーターボート沖より何を得て返す 太田保
ヨット
三夏
三角の帆に風をはらんで、海上をすべるように走るヨット。
レース用の小型のものから、豪華な大型のものまでさまざまある。
- 雲よりもヨットの白は目立つ白 嶋田摩耶子
- 老夫婦の黙に沖さす遠ヨット 桂信子
- はばたけり解纜(かいらん)せかすヨットの帆 原柯城
- 港出てヨット淋しくなりにゆく 後藤比奈夫
- 帆をあつめヨットハーバー暮れにけり 今西世子王
- 競ふとも見えぬ遠さのヨットかな 三村純也
- 漁港ともヨットハーバーともつかず 吉岡翠生
スカル
三夏
ボートの一種。細長く、左右一対の櫂(かい)を両手で持ってこぐ。
シングルスカル、ダブルスカル、クォドルプルなど。
- スカールに篠つく雨となりにけり 堀柿堂
水上スキー(すいじょうすきー)
三夏
足にスキー板状のものをつけ、モーターボートにつけたロープのハンドルを握って引っ張ってもらいながら、水上を滑るスポーツ。
- 頬にしぶきしつゝ水上スキーとぶ 前田野生子
- 湖をひつぱる水上スキーの綱 山畑禄郎
サーフィン
三夏
サーフボードに腹ばいになって乗り沖まで行き、大きな波がきたら立ち上がって波に乗り、砂浜まで滑走する海のスポーツ。
- 波のりの白き疲れによこたはる 篠原鳳作
- 波乗やあしたなきかに若人等 上村占魚
- 海鳥にまじり浮かびて濤乗りす 平岩武一
サマーハウス
三夏
避暑用に、海辺や高原、温泉地などに建てられた家のこと。
- 男女来て夜の起居透く海の家 横山房子
- 女三人口紅を塗る海の家 稲本忠男
バンガロー
三夏
高原や海浜に設けられた、夏のキャンプ用の宿泊所。
- バンガロー隣といふも葛がくれ 鳥居ひろし
- 建て前もなくバンガロー建ち進む 勝尾佐知子
泳ぎ(およぎ)
三夏
海や川やプールでの水泳のこと。クロールや平泳ぎ、背泳ぎなど。
日本にも武術の一つとして、伝統的な泳法がある。
- ほうほうとこだまさみしく淵に浴む 平岩小いとゞ
- 遠泳や高浪越ゆる一の列 水原秋櫻子
- 泳ぐ人あり月の波くだけをり 高浜年尾
- 青嶺聳つふるさとの川背で泳ぐ 大野林火
- 水底にあるわが影に潜りちかづく 篠原梵
- 突放し突放し椰子の実と泳ぐ 三橋敏雄
海水浴(かいすいよく)
晩夏
海で泳いだり遊んだりする、夏の代表的な行楽の一つ。
- 富士暮るゝ迄夕汐を浴びにけり 大須賀乙字
- 潮あびの戻りて夕餉賑かに 杉田久女
- 吾が青春すぎぬ潮浴びの人眩し 近藤白亭
砂日傘(すなひがさ)
晩夏
夏の海辺の砂浜に、直射日光を避けるために立てる大きめの日傘。
色鮮やかでカラフルなものが多い。
- 砂日傘ちよつと間違へ立ち戻る 波多野爽波
- 柄天に冲しころがる砂日傘 高浜虚子
- 砂日傘ひらき頃なる砂の灼け 能村登四郎
西瓜割り(すいかわり)
晩夏
目隠しをした人の前方に西瓜を一つ置き、見物人の声をたよりに進み竹竿で割る遊び。
割られた西瓜を皆で食べる楽しみも。
- 海の話赤道祭や西瓜割る 及川貞
日焼(ひやけ)
三夏
夏の強烈な紫外線により、露出している肌が焼けて黒くなる。
海ではとくに数時間でも炎症し赤くなり、その後皮が剥けたりする。
- 母哭かす夢の子日焼けいつも笑顔 福田蓼汀
- 富士を去る日焼けし腕の時計澄み 金子兜太
- 楔形に日焼けし胸を湯にしづむ 八木絵馬
行事
海の日(うみのひ)
晩夏
七月の第三月曜日。
明治九年に明治天皇が東北巡幸の際に、北海道から明治丸で横浜まで乗船したことを記念して、昭和十六年に七月二十日を海の記念日とした。
のちに海の日となり、平成八年以降は七月の第三月曜日となった。
- 海の日の一つの墓に詣でけり 山本螢村
- 海の日を畳の上で養生す 矢島昭子
- 海の記念日散りたる父の若きかな 古賀まり子
競渡(けいと)
仲夏
海の上で船を漕いで競う行事。
中国から伝わったもので、長崎ではペーロン、沖縄ではハーリーと呼ばれる。
- 櫂揃へむかでのごとく競艇(ハーリ)船 沢木欣一
- 舳絵(へさきえ)の飛龍雨呼ぶ競渡かな 福島五浪
- ペーロンの櫂ぞ折れよと掻きたくり 平田羨魚
海開き(うみびらき)
晩夏
各地の海水浴場開きのことで、以前は七月一日が多かったが、近年は七月上旬から中旬ごろが多い。
一夏の安全無事の祈願が行われ、海の家などが開かれる。
- 海開きなど思ひつゝ遠くあり 石塚友二
- しほからき水に塩撒き海開き 田中白夜