寒い冬の魚は脂が乗り、身も締まっておいしさが増します。
塩蔵したり乾燥させて長期保存できるようにしたり、わたを珍味として味わったり、海苔を作ったり、人々は海の幸を十分に利用してきました。
今回は冬の季語となっている海の幸の言葉を集めました。
海の幸(このページです)
魚
乾鮭(からさけ、からざけ)
三冬
鮭のはらわたを取り除き、塩を振らずに、素乾(しらぼし…陰干しにする)にしたもの。
北海道や東北地方の鮭のよくとれる地方では、軒下に縄を張って吊るして干した。
- 雪の朝独り干鮭を嚙み得たり 芭蕉
- 乾鮭や琴(きん)に斧うつひゞきあり 蕪村
- から鮭の口はむすばぬをならひかな 白雄
- から鮭も敲(たた)けば鳴るぞなむあみだ 一茶
- 乾鮭の二本は過ぎぬ草の宿 高浜虚子
- 乾鮭と並ぶや壁の棕梠箒 夏目漱石
塩鮭(しおざけ)
三冬
鮭のはらわた、卵、えらを取り除き、塩蔵したもの。
薄塩で仕立て縄で巻いたものを「新巻(あらまき)」といい、塩を濃くしたものを「塩引き(しおびき)」という。
年末に市場に出回り、お歳暮の贈答品として用いられた。
- 塩引や蝦夷の泥迄祝はるゝ 一茶
- 吊塩鮭片身となりし後減らず 目迫秩父
塩鰹(しおがつお)
三冬
伊豆地方で生産される。
鰹の漁期は4~5月と8~9月にピークを迎えるが、塩蔵しておき、塩鮭と同じようにお正月用やお歳暮の贈答品、冬の保存食にした。
注連(しめ)をつけて神前に供え、二日の乗初め(のりぞめ)の日にその年の豊漁を願ってお神酒とともに供える掛け魚(かけざかな)という風習があった。
塩鰤(しおぶり)
三冬
富山、石川など北陸地方でよくとれる鰤のはらわたを取り除き、塩蔵したもの。
薄塩のものが鰤の新巻、塩の濃いものが鰤の塩引きという。
十二月から一月ごろに寒風が吹いて海が荒れ、晴れた寒い日に雷が鳴ると、鰤がよくとれるといわれており、その雷を「鰤起こし(ぶりおこし)」という。
鰤は出世魚で縁起がいいので、塩鰤はお正月用に用いられた。
地方により呼び名が異なるが、主に以下のように呼ばれている。
- ワカシ…15cmくらいまでのもの
- イナダ…40cmくらいのもの
- ワラサ…60cmくらいのもの
- ブリ…90cm以上のもの
塩鱈(しおだら)
三冬
鱈の身を塩蔵したもの。
鱈は塩鱈のほか、開き鱈、干鱈、棒鱈など様々に加工される。
- 塩鱈や旅はるばるのよごれ面 太祇
煮凝(にこごり)
三冬
煮魚の煮汁が冷えて、ゼラチン質がゼリー状に固まったもの。
- 煮凍や簀子の竹のうす緑 其角
- 妻の留守に煮凍さがすあるじかな 几董
- 煮凍りへともに箸さす女夫(めうと)かな 召波
珍味
雲腸(くもわた)
三冬
鱈のはらわたにある、白子のこと。
色が白く、見た目に形が雲を思わせることから、雲腸という。
また、大輪の白菊の花のようでもあることから、菊腸、菊白子とも呼ばれる。
味は淡白で、主にすまし汁に用いられる。
海鼠腸(このわた)
三冬
海鼠(なまこ)のはらわたの塩辛。
からすみ、ウニとともに三大珍味の一つとされる。
海鼠腸に熱燗の酒を注いだものを海鼠腸酒という。
- このわたの壺を抱いて啜(すす)りけり 島田五空
- このわたに一壼の酒を啜るかな 柳川春葉
- このわたや縷々(るる)綿々と箸を垂れ 中野三允
- 恋ざめの末の海鼠腸すゝりけり 佐藤惣之助
酢海鼠(すなまこ)
三冬
海鼠を酢の物、酢漬けにしたもの。
両端を切り落としてから腹を切り開き、中のこのわたを出す。
塩もみ、板ずりをしてぬめりを取り、よく洗う。
硬くならないうちに手早く薄く切り、三杯酢につける。よく切れる包丁を使うとよい。
大根おろしやわかめと和えたり、柚子の皮をあしらう。
カニ
甲羅煮(こうらに)
三冬
日本海側、北方の太平洋でとれるずわい蟹の料理。
地方により呼び名があり、若狭湾では越前蟹、鳥取では松葉蟹という。
カニの甲羅の中にカニ味噌やカニの身をつめて、しょうゆ、みりん、砂糖で味をつけたものを炭火の上で煮る。
銀杏、しいたけ、三つ葉などをあしらう。葉生姜の甘酢漬けを添えても。
海藻
新海苔(しんのり)
晩冬
冬に初めてとれる新海苔は柔らかく香りも良くおいしい。
有明海や瀬戸内海が有名。
- 新海苔や肴乏しき精進落 正岡子規
- 新海苔の艶はなやげる封を切る 久保田万太郎
- 抱き入れし新海苔に雨走りけり 萩原麦草