秋の山野、自然に関する季語を集めました。
山、川、野原、田んぼ、湖、花園まで、さまざまな季語があります。
俳句を詠む際にぜひ参考になさってください。
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地理
秋の山(あきのやま)
三秋
秋になり空高く澄み渡った空気の中、草木が紅葉し、木の実やきのこで山は一年でもっとも賑やかになる。
秋山や駒もゆるがぬ鞍の上 其角
夜は夜の白雲靆きて秋の嶽 飯田蛇笏
葛城に重ねてうすし秋の山 山本梅史
鳥獣のごとくたのしや秋の山 山口青邨
女湯もひとりの音の山の秋 皆吉爽雨
山彦とゐるわらんべや秋の山 百合山羽公
神と人逢ふ秋嶺の絶巓に 福田蓼汀
好きで来し道深まりて秋の山 稲畑汀子
赤松に日の帰りゆく秋の山 野島恵禾
山粧う(やまよそう)
三秋
色とりどりの紅葉に彩られる山々を、着飾って装うと表現した。
これらの季語は、北宋の画家・郭煕(かくき)の言葉
「春山淡冶にして笑うが如く、夏山蒼翠として滴(した)たるが如し、秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡として睡(ねむ)るが如し」
からといわれている。
箸とるやよそほひそめし山を前 伊東月草
冑山いはれかなしく装へる 富安風生
谷底の朴より山の粧ふらし 皆吉爽雨
滝になる水湛へたり山粧ふ 菅裸馬
水晶をもはや産まざる山装ふ 藤田湘子
秋の野(あきのの)
三秋
秋の色に染まった秋の野。
秋郊(しゅうこう)は、秋の郊外の野のこと。
秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花
万葉集 巻八 山上憶良
秋の野を手にさげて行く虫籠かな 貞徳
あきののやはや荒駒のかけやぶり 暁台
秋の野に鈴鳴らし行く人見えず 川端康成
先に行く人すぐ小さき野路の秋 星野立子
秋郊の葛の葉といふ小さき駅 川端茅舎
秋の野をはろばろと行き木隠りぬ 藤田湘子
枯野の色(かれののいろ)
晩秋
枯野の色とは、紅葉した野の景色が、さびしい枯野の風景に変わりゆく様子のこと。
末枯の高原を這ふみち一つ 牛尾泥中
野山の色(のやまのいろ)
晩秋
草木が紅葉して華やかに彩られた秋の野山の姿。
春に花といえば桜をさすように、秋は野の色、山の色といえば紅葉した山野の姿のことをさす。
大鯉の動きに秋の山のいろ 森澄雄
野山の錦(のやまのにしき)
晩秋
秋の野山が、錦の華やかな織物のように美しく華麗に紅葉しているさま。
錦する秋の野末のかゝしかな 蕪村
野の錦昼の葬礼通りけり 正岡子規
眼つむれば今日の錦の野山かな 高浜虚子
山の錦の中より鐘をつき出しぬ 青木月斗
峡錦滝はひかりをうしなはず 西本一都
小流れのありて色添ふ野の錦 桜木俊晃
両岸の錦を分けて川長し 佐々醒雪
秋園(しゅうえん)
三秋
秋の花が咲き誇り、明るく華やぐ庭園。
病間あり秋の小庭の記をつくる 正岡子規
暮れかけてまた来る客や秋の園 上川井梨葉
秋苑の衰ふること俄かなり 池上浩山人
秋苑に独りとなれば耳聡き 角田独峰
花園(はなぞの)
三秋
秋の草花が咲いている庭園、またその花壇。
花圃のもの剪りまじへつつたのしけれ 江口帆影郎
彳(たたづ)めば昴が高し花畑 松本たかし
花圃に水汲める見てをり手術前 石田波郷
湯治宿花圃の明りに包まるる 皆川盤水
花野(はなの)
三秋
秋の草花が咲き乱れる野原のこと。
秋の七草に選ばれた草花のほか、野菊、曼珠沙華、吾亦紅、松虫草など、春の花に比べてわびしげでつつましい花が多いが、一面に咲き乱れると美しい秋の野の姿になる。
秋の野に乱れて咲ける花の色の千種にものを思ふころかな
古今集 巻十二 紀貫之
から風に片頬さむき花野かな 許六
吹き消したやうに日暮るる花野かな 一茶
芒谷下りて果なき花野かな 河東碧梧桐
君を訪ふて雨の花野を帰りけり 徳田秋聲
花野のなかに花させし墓見て過ぐる 荻原井泉水
鳥銜(くは)え去りぬ花野のわが言葉 平畑静塔
蝶低く花野を何か告げわたる 富安風生
吾子が手に花野の花はあふれ咲く 軽部烏頭子
花野みなゆれ初めたる通り雨 高木晴子
淡きものよりめざめゐる花野かな 高草矢江
父の手のあたたかかりし花野かな 佐藤信子
秋の狩場(あきのかりば)
三秋
鷹狩りのための場所で、歴代の天皇や将軍らによっておこなわれた。
秋は鷹狩りの季節となっている。
宿屋出て秋の狩場を通りけり 松瀬青々
秋の田(あきのた)
三秋
稲が熟して黄金色に色づいた田をいう。
秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ
後撰集 巻六 天智天皇
秋の田にものを落して晩鴉(ばんあ)過ぐ 山口誓子
秋の田の大和を雷の鳴りわたる 下村槐太
秋の田を刈るや白鷺人に近く 山口青邨
秋の田の父呼ぶ声の徹るなり 田中鬼骨
鈍行や海と平らに瑞穂の田 成田千空
刈田(かりた)
晩秋
稲を刈り取ったあとの田。
刈り株だけが並んでいる田の眺めである。
待ちかねて雁の下りたる刈田かな 一茶
刈田凪実らざりしもありけむを 篠田悌二郎
道暮れて右も左も刈田かな 日野草城
いちまいの刈田となりてたゞ日なた 長谷川素逝
夕べには既に刈田の道かへる 村上桃林子
嶺松に鷹の眼あらむ刈田かな 佐伯巨星塔
千枚の刈田となりぬ海明り 前田時余
穭田(ひつじだ)
晩秋
稲を刈り終わった切り株から、芽が出てきて新しい茎が生えるのを「ひつじ」といい、それが一面に生えでた田を穭田という。
やせた穂が出ることもあるが、多くは秕(しいな)といって、中に実のはいっていない籾である。
穭田に一羽下りたる雀かな 内田百閒
穭田へ紅葉降りつぐ上の茶屋 水原秋櫻子
穭田に二本のレール小浜線 高野素十
穭田にしぐるるときの音もなし 長谷川浪々子
穭田の畦の際より日本海 高橋優子
穭田の緑がそろふ湯治帰り 小田切輝雄
落し水(おとしみず)
仲秋
稲の実が入り穂が垂れ始めると、稲は水を必要としなくなるので、水を抜くため田の畦を切って水を落とす。
稲刈りのおよそ一ヶ月前に水を落とすので、稲刈りの頃には土も固まって作業がしやすくなっている。
二三尺秋の響や落し水 月渓
水落し来て子の間に寝まるなり 久米三汀
落し水静かにきけば二つとも 西山泊雲
荒海へ千枚の田の水落とす 下村非文
一鍬(くは)に落し去る水のこだまかな 前田雨月
水落し来て一僧の夜座につく 塩谷はつ枝
秋の水(あきのみず)
三秋
秋の澄み渡った水のことで、湖沼、川、池、汲んだ水まで幅広く詠まれる。
とんぼうや羽の紋透いて秋の水 室生犀星
白鷺に子ありて秋の水に彳(た)つ 山口誓子
十棹とはあらぬ渡しや水の秋 松本たかし
秋の水に色なく栖(す)める小海老かな 尾﨑迷堂
はけどころなかりし秋の水いつか 杉山一転
秋水に小さき日輪とどまれり 福田蓼汀
秋水がゆくかなしみのやうにゆく 石田郷子
水澄む(みずすむ)
三秋
秋になり水が澄んでくること。
秋の長雨や台風の時期を過ぎると、気温の低下とともに水温も下がり、川や湖の水が澄みわたってくる。
秋の水澄むに対し、春は水温む(みずぬるむ)という。
秋澄む、秋気澄む、空澄む、物の音澄む、山澄む
一むらの木賊(とくさ)の水も澄みにけり 鈴木花蓑
水澄みて金閣の金さしにけり 阿波野青畝
水澄めば太古の蠑螈(いもり)底を這ふ 山口青邨
水澄むやとんぼうの影ゆくばかり 星野立子
投票に出るや一本野川澄み 平畑静塔
洞窟に湛へ忘却の水澄めり 西東三鬼
秋の川(あきのかわ)
三秋
秋の川は、初秋の頃はいち早くそのせせらぎに秋の訪れを感じさせ、秋が深まるにつれ水は澄みを加えつつ流れてゆく。
秋の日差しに川面の輝きも増し、岸辺の曼珠沙華や紅葉も彩りを添える。
晩秋になると岸辺の植物も枯れ、秋の川は折々にさまざまな表情を見せる。
秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石
もまれゆく木葉見そめぬ秋の川 星野麦人
塵捨てて眺めてゐるや秋の川 田中王城
鵜かがりの散りて音あり秋の川 永井東門居
秋川に泳ぎしもののすぐ消えし 中川宗淵
木の屑の回りては行く秋の川 田上さき子
秋出水(あきでみず)
仲秋
台風や長雨、集中豪雨によって河川の水かさが増し、堤防を越えて大水が出ること。
春の融雪期に水かさが増すことは「春出水」といいます。
暮れてゆく秋の出水の戸口まで 臼田亜浪
踏切を流れ退く秋出水 橋本多佳子
流れよる枕わびしや秋出水 武原はん
倒れ木に乾く子のもの秋出水 足羽雪野
秋出水裏手に桜島燃えて 鬼塚梵丹
秋の湖(あきのみずうみ)
三秋
さわやかな秋空の下、澄んだ水面が広がる秋の湖。
紅葉した木々が湖面に映り、秋ならではの湖の姿を見せる。
から松の梢に白し秋の湖 会津八一
手のごとき木が出て秋の人造湖 谷野予志
秋の湖かげり籐椅子のわれかげる 西山誠
昏れるとき人の声する秋の湖 岡本みさ子
来て逢ふは言葉の美しき沼の秋 石田三枝子