晩秋は、秋の三ヶ月を初秋、仲秋、晩秋と分けたときの終わりの一ヶ月で、ほぼ十月にあたります。
二十四節気では寒露、霜降の期間(十月八日頃から十一月六日頃)になります。
今回は秋の時候の季語のなかでも、晩秋に分類される季語を集めました。
俳句を詠まれる際にぜひ参考になさってください。
初秋、八月の時候の季語
仲秋、九月の時候の季語
三秋の時候の季語
時候
晩秋(ばんしゅう)
晩秋
秋を初秋、仲秋、晩秋と分けた三秋のなかの末で、秋の終わり。
陰暦では九月、陽暦では十月半ば過ぎにあたる。
秋も深まり、山々は紅葉の時期を迎え、行楽日和が続く。
朝晩は冷え込み始め、草木も徐々に枯れて、夕暮れ時などはとくに感傷を誘う頃である。
- 晩秋の園燃ゆるものみな余燼 山口青邨
- 晩秋や山いただきの電柱も 細見綾子
- 晩秋の音する妻の小袖出し 山口素人閑
- 晩秋の野の明るさを歩きけり 前田震生
- 晩秋や何も映らぬ沼一つ 清川とみ子
- 丘晩秋刈田見え遠く犬が鳴き 大野林火
十月(じゅうがつ)
晩秋
上旬はまだ台風や、秋霖(しゅうりん)と呼ばれる秋の長雨があるが、中旬になると爽やかな秋晴れの日が多くなる。実りの秋、食欲の秋、スポーツの秋となり、全国で秋の行事がさかんに行われる。
下旬になると徐々に冷気が深まり、山々では紅葉が始まる。
- 十月のしぐれて文も参らせず 夏目漱石
- 十月の風雨明けゆく雨蛙 水原秋櫻子
- 隠沼(こもりぬ)の十月鳰(にほ)を遊ばしむ 石塚友二
- 湯にひたる顔の寒さも十月ぞ 太田鴻村
- 神謀りゐる十月の水鏡 原裕
長月(ながつき)
晩秋
陰暦九月の異称で、陽暦では十月上旬からのひと月にあたる。
語源は、夜が長くなるころという「夜長月」からという説と、長雨の降る頃なので「ながめ月」からきたという説がある。
今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
素性(そせい)法師 古今和歌集巻十四
- 長月の秋や小松も荒に就く 道彦
- 長月の今日のひと日の紅を恋ふ 池内友次郎
- 長月の残れる日数繭を煮て 神尾久美子
- 菊月の庭に干しある出雲和紙 川口文絵
寒露(かんろ)
晩秋
二十四節気の一つで、陽暦十月八日ころ。
「この日冷感次第につのり、露凝(むす)んで霜とならんとするゆゑ、寒露と名づく」(改正月令博物筌)
- 茶の木咲きいしぶみ古ぶ寒露かな 飯田蛇笏
- 鶏鳴の一時に暗き寒露かな 岩淵寒山
- 竹林の空に鳶舞ふ寒露の日 有泉七種
- 声を出すあたり透きゆく寒露かな 今村俊三
雀蛤となる(すずめはまぐりとなる)
晩秋
中国の七十二候による季語で、寒露の第二候。
この頃に雀が海辺に群れ、雀の羽の色と蛤の貝殻の色が似ているため、蛤になるといわれた。
物事が変化することのたとえという。
- 蛤に雀の斑あり哀れかな 村上鬼城
- 一雀のひそかに海に入らむとす 相生垣瓜人
- 蛤や少し雀のこゑを出す 森澄雄
秋寒(あきさむ)
晩秋
そぞろ寒(そぞろさむ)
晩秋
漸寒(ややさむ)
晩秋
うそ寒(うそさむ)
晩秋
肌寒(はださむ)
晩秋
朝寒(あささむ)
晩秋
夜寒(よさむ)
晩秋
霜降(そうこう)
晩秋
二十四節気の一つで、陽暦十月二十三日ころ。
「露結んで霜となるなり。ゆゑに霜降といふ。」(改正月令博物筌)
晴れた夜には放射冷却により気温が下がり、霜が降りるようになる。
- 霜降の陶(すゑ)ものつくる翁かな 飯田蛇笏
- 柚の照の霜降といふ山の凪 斎藤美規
- 霜降の夕べ鯔とぶ出雲かな 脇村禎徳
豺獣を祭る(おおかみけものをまつる)
晩秋
中国の七十二候による季語で、霜降の第一候。
豺は山犬、狼の類のことで、獣を生贄にして祭ったという。
冷まじ(すさまじ)
晩秋
秋寂ぶ(あきさぶ)
晩秋
秋も深まり、万物が衰え枯れ始め、荒涼としてくること。
古びた趣をわびしくながめる気持ち。
- 秋寂びて鎖の熊が眠りをり 加藤知世子
- 義仲寺を入れて界隈秋寂びぬ 松崎鉄之助
- 秋さぶや脇侍欠いたる黒仏 上田五千石
(義仲寺…木曽義仲を供養するために創建された寺で、芭蕉が遺言により葬られた。)
(脇侍きょうじ…仏の左右に安置されている像。)
秋深し(あきふかし)
晩秋
十月頃、秋もいよいよ深まり、静かな寂寥感が感じられるころ。
- 秋深き隣は何をする人ぞ 芭蕉
- 深秋といふことのあり人もまた 高浜虚子
- 秋深しふき井に動く星の数 幸田露伴
- わが触れて来し山の樹や秋深し 中村汀女
- 秋深しピアノに映る葉鶏頭 松本たかし
- 秋深し石に還りし石仏 福田蓼汀
- 深秋やもとめて老のひとり旅 松村蒼石
- 秋深き忌の薫香を身にまとふ 大橋敦子
- 漁火の遠くにありて秋深む 大坂晴風
- 二人だけの音に住まひて秋深し 大橋はじめ
暮の秋(くれのあき)
晩秋
秋の終わる頃、秋の末。
「晩秋」とほぼ同義だが、より詠嘆する心理的な要素も含む。
- 松風や軒をめぐつて秋暮れぬ 芭蕉
- うす虹をかけて暮秋の港かな 飯田蛇笏
- 礼すれば釈迦三尊に暮の秋 石塚友二
- 寺山の水の濁れる暮秋かな 高室呉龍
行く秋(ゆくあき)
晩秋
秋が過ぎ去るころ、過ごしやすく情趣の深い秋の終わりを惜しむ心情。
- 蛤のふたみに別れ行く秋ぞ 芭蕉
- 秋の名残夕日の前に小雨ふる 暁台
- 行秋や芒痩せたる影法師 寺田寅彦
- 行秋やすゞめの群るゝ草の原 木津柳芽
- 逝く秋の急流に入る水のこゑ 鷲谷七菜子
- 行く秋や夕映えのこる貝釦 山崎秋穂
秋惜む(あきおしむ)
晩秋
去りゆく秋を惜しむ思いを述べた言葉。
- 戸を叩く狸と秋を惜みけり 蕪村
- 杖影のほそしと歩み秋惜しむ 皆吉爽雨
- 秋惜しむゆふぐれの日よ樹肌照り 五十崎古郷
- 一つの灯身近に置きて秋惜む 青木俊夫
- 古刀展木洩れ日は秋惜しみをり 西川文子
冬隣(ふゆどなり)
晩秋
いよいよ冬がすぐ隣にいるという実感。
厳しい寒さへの畏怖の念とともに、冬支度が急かされるころである。
- 橙や冬を隣の藪屋敷 一具
- はしり火に茶棚のくらし冬隣 飯田蛇笏
- 鶏頭きれば卒然として冬近し 島村元
- 石炭を掬ふ音冬遠からず 山口誓子
- 押入の奥にさす日や冬隣 草間時彦
九月尽(くがつじん)
晩秋
陰暦九月末日のことで、この日をもって秋が終わる。
単にひと月の終わりという意味以上の言葉であったが、今日では陽暦九月末日を詠った場合も多く、秋の終わりという意識は薄れつつある。
- 雨降れば暮るる速さよ九月尽 杉田久女
- 九月尽名所の萩の高括り 沼夜濤
- かんがふる一机の光九月尽 森澄雄
- 九月ゆく銀紙色の日をつれて 津沢マサ子
- 九月尽くポプラに風の音満ちて 林桂