冬の生活に欠かせない暖房。
昔から厳しい冬を乗り越えるために、さまざまな暖房器具が用いられてきました。
今回は冬の暖房に関する季語を集めました。
電気が普及する前のものは馴染みのないものが多いかもしれませんが、
火の暖かさを思い浮かべながら、例句を味わってみてください。
生活
暖炉(だんろ)
三冬
- 持船の大額かゝる煖炉かな 鈴木花蓑
- 一片のパセリ掃かるる暖炉かな 芝不器男
- 室ぬちを暖炉煙突大曲り 藤後左右
- 窓外に照る日楽しき暖炉かな 細田民樹
- 診察のまだ始まらぬ暖炉かな 酒井銀河
ペチカ
三冬
ロシア式の暖炉で、オーブンとして調理にも用いる。
- 火の酒にペーチカおもふ夜頃かな 伊庭心猿
- ペーチカに蓬燃やせば蓬の香 沢木欣一
- ペーチカに畳四五枚敷いて住む 田村了咲
暖房(だんぼう)
三冬
- 女睡て髪を触れらる暖房車 秋元不死男
- ゆるやかに海がとまりぬ暖房車 加藤楸邨
- 煖房車乾きし洋傘を巻き直す 内藤吐天
ストーブ
三冬
- ストーヴの石より寒くさめにけり 阿波野青畝
- ストーブや黒奴給仕の銭ボタン 芝不器男
- ストーブに喪の悲しみのあたたまる 古屋秀雄
温突(オンドル)
三冬
朝鮮半島や中国東北で古くから用いられていた暖房装置。
床の前面を下部から温める床下煖房である。
- 住み移り住みうつりても温突に 江口帆影郎
- 温突に栗の毬焚くみ寺かな 軽部烏頭子
- 温突や卓の銀器のふれる音 前田白雨
寒厨(かんちゅう)
晩冬
冬の寒々とした台所のこと。
- 俎に烏賊の身が透く寒厨 森山比呂志
- 寒厨や昨日の位置に葱二本 石谷秀子
炭(すみ)
三冬
楢(なら)、櫟(くぬぎ)、樫(かし)などを蒸し焼きにして作る木炭。
- 切炭や雪より出づる朝がらす 言水
- 更くる夜や炭もて炭をくだく音 蓼太
- 朝晴れにぱちぱち炭のきげんかな 一茶
- 学問のさびしさに堪へ炭をつぐ 山口誓子
炭火(すみび)
三冬
木炭でおこした火、または火のおきている炭のこと。
- 我宿の松は老いたりいぶり炭 士朗
- ものおもひ居れば崩るる炭火かな 樗堂
- 星のごと光消えたる炭火中 高浜虚子
- 何も彼も遙に炭火うるみけり 石田波郷
- 木の実炒る炭火なつかし杣の宿 岸川鼓虫子
埋火(うずみび)
三冬
灰の中にうめた炭火のこと。
いけ火、いけ炭、うずみとも言う。
- 埋火や障子より来る夜の明り 浪化
- 埋火やありし故人の恋の文 小沢碧童
- 火を埋めて寝るまでにまた時が経つ 山口波津女
- 鑑真の眼か堂守の埋火か福田甲子雄
- 火を埋めながらにおもふ輪廻かな 加藤三七子
消炭(けしずみ)
三冬
赤く熾(おこ)った薪や炭を消して作る炭で、軽くて柔らかく、火がおきやすい。
- 消炭に薪割る音か小野の奥 芭蕉
- 消炭に薄雪かかる垣根かな 召波
- 消炭やつましき母はいそがしき 土師清二
炭斗(すみとり)
三冬
炉や火鉢、火桶にすぐ継ぎ足せるように、炭俵から炭を小出しにして入れておく容器。
- 炭とりをひきよせてきく雁のこゑ 金尾梅の門
- かたはらに炭斗のある安堵感 加倉井秋を
- 炭斗にしぐれに濡れし炭まじる 能村登四郎
炭俵(すみだわら)
三冬
炭窯で作られた炭の搬出には籠を用いていたが、後に俵が用いられるようになった。
家庭では霜除けとして敷かれたり、燃やして灰を作ったりした。
- 炭俵ますほの薄見付たり 蕪村
- 炭もはや俵の底ぞ三かの月 一茶
- 父の忌の雪降りつもる炭俵 大野林火
- 薄雪や簷(のき)にあまりて炭俵 石田波郷
炭団(たどん)
三冬
火鉢の灰に埋めて使用する燃料で、木炭の粉末を固めたもの。
- 炭団法師火桶の窓より窺ひけり 蕪村
- 灰までも赤き炭団の火を掘りし 高浜虚子
- 裏がへす炭団に夕日うしなひぬ 土田春秋
石炭(せきたん)
三冬
地中に堆積した植物が長年かけて石炭となる。
石炭燃料は安価だが煤煙や亜硫酸ガスが発生するため、家庭では暖房や風呂焚きなどの用途に使われた。
- 石炭を投じたる火の沈みけり 高浜虚子
- 石炭を運びこぼしぬ海深し 長谷川零余子
- 石炭の山の間の運河かな 市川東子房
煉炭(れんたん)
三冬
石炭などの炭素質を粉状にしたものを、粘着剤とともに加圧成形した燃料。
家庭用には豆炭、穴明煉炭などがある。
- 煉炭の十二黒洞つらぬけり 西東三鬼
- 濤高き夜の煉炭の七つの焔 橋本多佳子
- 米卸し煉炭卸し島づたひ 寒川北嶺
炬燵(こたつ)
三冬
現在は電気炬燵だが、昔使われていた切炬燵(きりごたつ)は、囲炉裏を切った上に櫓をのせ、蒲団を被せたものであった。
囲炉裏の炭や炭団の熱が保たれ、膝を入れて暖まった。
置炬燵(おきごたつ)は小火鉢などを入れて用いた。
- 火燵(こたつ)出て古郷こひし星月夜 言水
- 影法師の横になりたる火燵かな 丈草
- 真夜中や炬燵際まで月の影 去来
- うたゝねの夢美しやおきごたつ 久保より江
炉(ろ)
三冬
床の一部を切りあけて薪炭をたき、暖まったり炊事に用いたもの。
茶の湯では初冬に炉開きをして、炭を用いる。
室内で四角く仕切った薪をたく場所を作り、天井から自在鉤を吊るした囲炉裏も炉という。
- 五つ六つ茶の子に並ぶ囲炉裏かな 芭蕉
- 炉に近き窓あり雪の山見ゆる 佐藤紅緑
- 犬の顔撫でつゝ炉辺閑話かな 野村泊月
- 酒と茶の薬罐がまぎれ炉辺たのし 皆吉爽雨
- 医者の前口中に炉火てらてらす 飯田龍太
榾(ほた)
三冬
木の枝や幹を乾燥して、囲炉裏の燃料として用いるもの。
- おとろへや榾折りかねる膝頭 一茶
- 化そうな茶釜もあるや榾の宿 尾崎紅葉
- とろとろと榾火消えゆく欠伸かな 坂本四方太
- くろもじの一枝かをる榾火かな 若林潮雨
火鉢(ひばち)
三冬
かつては冬の必需品であった火鉢は、金属製、陶器製、木製などさまざまな種類が作られた。
灰には藁灰、石灰、土灰を用い、炭を熾(おこ)して暖をとる。
- 霜の後撫子咲ける火桶かな 芭蕉
- 桐火桶無絃の琴の撫でごころ 蕪村
- うき時は灰かきちらす火鉢かな 青蘿
- 灯火を消すや火桶の薄あかり 森鴎外
- 金沢のしぐれをおもふ火鉢かな 室生犀星
火吹竹(ひふきだけ)
三冬
火を吹きおこすのに用いる竹筒。
竹の中の節を抜き、先端の節に小さな穴を開けて、吹き込む息を一筋の風として送り出すようになっている。
- 山寺の冬夜けうとし火吹竹 原石鼎
助炭(じょたん)
三冬
炉や火鉢の上にかぶせ、火持ちをよくさせるのに用いる。
箱状の木の枠に紙を貼ったもの。
- 鉛筆で助炭に書きし覚え書き 高浜虚子
- 窓しめて雪空遠き助炭かな 長谷川春草
- 八つどきの助炭に日さす時雨かな 芝不器男
- ぬくもりし助炭の上の置手紙 今井つる女
手焙(てあぶり)
三冬
手を暖めるための小さな火鉢。
- 手炉撫でて山の嵐を聞く夜かな 宇田零雨
- 彫金の花鳥ぬくもる手炉たまふ 皆吉爽雨
足温め(あしぬくめ)
三冬
足元に置いて用いる蓋つきの小火鉢。
- 足焙りしづかに足を踏みかゆる 田村木国
- 足焙旅ごころまたそこよりす 大野林火
行火(あんか)
三冬
箱型の小型の採暖具で、火を入れた小鉢を中に入れる。周り三方は孔があいている。
- 古行火抱き足らぬ火の乏しさに 富田木歩
湯婆(ゆたんぽ)
三冬
半円筒形の容器に熱湯を満たし、タオルなどで包んで寝床で用いる器具。
- 松かぜや湯婆のさめる夜にも似ず 乙二
- 足伸す湯婆のあとのぬくみかな 佐藤肋骨
- 雪水を沸かしてくれし湯婆抱く 江口竹亭
懐炉(かいろ)
三冬
現在は鉄粉を化学反応させて発熱させる使い捨てのカイロが用いられるが、以前は金属製の容器に懐炉灰を入れて点火したり、揮発油を染み込ませた綿に点火する白金懐炉などが用いられていた。
- 三十にして我老いし懐炉かな 正岡子規
- 明けくれの身をいたはれる懐炉かな 高浜虚子
- 棚に置き帯占め直す懐炉かな 内藤鳴雪
温石(おんじゃく)
三冬
手ごろな石や蝋石などを炉や火桶で熱し、布で包んで体を温めるのに用いたもの。
- いつよりか温石先生といはれけり 河東碧梧桐
- 温石の抱き古びてぞ光りける 飯田蛇笏
- 温石や衾(ふすま)に母のかをりして 小林康治
飯櫃入(おはちいれ)
三冬
おひつを入れてご飯の保温に用いるもので、藁で編んだ円筒状の容器。
- ひる頃の日がさしこむやお櫃ふご 稲田重洋
冬扇(ふゆおうぎ)
三冬
夏に用いた扇が、冬になり全く不要になったもの。
- 冬扇や嘘言ふ顔は歯を見せず 森田竹千代
炉開(ろびらき)
初冬
冬になってはじめて炉を開き、火を入れること。
茶道では十一月半ばまでに風炉を撤して炉を開く。
農家などの囲炉裏を開くのも炉開きという。
- 炉開や竹あたたまる南露地 野坡
- 炉びらきや雪中庵の霰酒 蕪村
- 嵐山(らんざん)や紅葉散り来る炉を開く 大橋越央子
- 夜をかけてあらき雨かな炉を開く 山口花笠