秋の空やお天気、気象に関する季語を集めました。
高く澄み渡った空、雲、雨や雪、夕焼け、稲妻や虹まで、さまざまな季語があります。
秋の空を見上げて一句詠んでみませんか。
天文
秋晴(あきばれ)
三秋
秋の空が澄み渡った晴天。
江戸時代には秋の空、秋日和と詠んでいたが、明治三十年代の俳句選集「春夏秋冬」に季題として立てられて以来、多く詠まれてきた。
- 秋晴の岬や我れと松一つ 渡辺水巴
- 刻々に大秋晴となるごとし 皆吉爽雨
- 秋晴のどこかに杖を忘れけり 松本たかし
- ほのかなる空の匂ひや秋の晴 高浜虚子
- 秋晴の日記も簡を極めけり 相生垣瓜人
菊日和(きくびより)
仲秋
菊の花が咲き誇る頃の、よく晴れた日。
晴れ渡った空の下、菊の花の香りが漂ってくるような日和のこと。
- 俄(には)かなるよべの落葉や菊日和 原石鼎
- 長話呵々(かか)と終りや菊日和 中田みづほ
- 菊日和軍艦かくも陸(くが)ちかく 伊藤柏翠
- やがてくる雪を思へり菊日和 阿部慧月
秋旱(あきひでり)
三秋
立秋を過ぎてからの晴天続きのこと。
太平洋高気圧の勢力が衰えず、夏のような高温晴天が続くと、田の水も涸れ、水不足を引き起こす。
- 鶏頭になびく草なし秋旱 島田五空
- 火の山の雲厚けれど秋旱 大島民郎
- 画紙に墨にじむ早さよ秋旱 山門直三
秋の空(あきのそら)
三秋
爽やかに澄んだ秋空のこと。
心の変わりやすいことのたとえで「男心と秋の空」と言われていたように、変わりやすいものの例えで用いられた。
おほかたの秋の空だにわびしきに物思ひそふる君にもあるかな
右近 後撰集四二三
旻天(びんてん)の「旻」は「閔」に通じ、あわれむ、うれえる、いたむの意があり、万物をあわれみおおう天という意味で用いられるという説があります。
- 秋の空尾上(をのへ)の杉に離れたり 其角
- 上行くと下来る雲や秋の空 凡兆
- 秋天の下に野菊の花弁欠く 高浜虚子
- 秋天の一翳もなき思ひなり 富安風生
- まづ来る鶴の一羽や空の秋 川端康成
- 富士秋天墓は小さく死は易し 中村草田男
- 秋空につぶてのごとき一羽かな 杉田久女
秋高し(あきたかし)
三秋
秋に空が澄んで高く感じられること。
「秋高くして塞馬肥ゆ」という中国の詩句が由来。
もとは秋になると砦の馬が肥えて侵入して来ることを警戒する言葉であったが、日本に入り「天高く馬肥ゆる秋」ということわざになると、天が高く澄み渡り馬も食欲を増すという季節感をあらわす言葉となった。
- わが庭の真中に立てば天高し 山口青邨
- 天高く展(ひら)けてまぶし海の紺 伊藤凍魚
- 天高し身弱くして気負ふかな 木村蕪城
- 天高し花束のごと子を抱けば 山崎和賀流
- 天高しさびしき人は手を挙げよ 鳴戸奈菜
秋の雲(あきのくも)
三秋
秋の雲の総称。
高い空に鰯雲や鯖雲、鱗雲などの巻積雲が広がるさまや、月明かりに照らされた夜の雲も、爽やかな秋の風情を感じさせる。
- 刈株や水田の上の秋の雲 洒堂
- あら海や波をはなれて秋の雲 暁台
- 飛ぶ鳥をこえて行なり秋の雲 一茶
- 秋の雲立志伝みな家を捨つ 上田五千石
- 秋雲やふるさとで売る同人誌 大串章
鰯雲(いわしぐも)
三秋
鰯雲、鱗雲、鯖雲はいずれも、白く小さな雲片が群れをなして広がる巻積雲の俗称。
鰯雲はいわしの群れのように見えるところから。
鱗雲はうろこに似ているもの、鯖雲は鯖の背の模様に似ていることから、その名がついた。
- なほ上に鰯雲ある空路かな 高浜年尾
- 鰯雲個々一切事地上にあり 中村草田男
- 鰯雲人に告ぐべきことならず 加藤楸邨
- ささ波の淡海音なし鰯雲 山口草堂
- 松山に鱗重ねし鱗雲 原裕
- 鯖雲に入り船を待つ女衆 石川桂郎
秋曇(あきぐもり)
三秋
秋の曇った天候のこと。
秋の天気は変わりやすく、晴れていてもたちまち空一面の雲に覆われることも多い。
春陰に対して秋陰ともいう。
- 蘆も鳴らぬ潟一面の秋ぐもり 室生犀星
- 一天に暁紅を刷り秋曇 富安風生
- 秋曇男の裏地いつも紺 香西照雄
- 秋曇とてはつきりと塔は見ゆ 後藤比奈夫
- 秋ぐもり河原で洗ふ消防車 大信田梢月
秋湿り(あきじめり)
三秋
秋雨のために空気が湿ること。
空気がしっとりと冷たい感じをいう。
- 東塔北谷黒木積む屋の秋湿る 野沢節子
- 神苑になめくぢ睦ぶ秋湿り 鈴木東行
- 草の戸へ三曲二百歩秋湿り 桜井照子
秋の雨(あきのあめ)
三秋
秋に降る雨。
九月から十月にかけて、小雨の降る日が続くことが多く、秋の長雨と呼ばれる。
- 芝居見る後侘びしや秋の雨 太祇
- 秋雨やともしびうつる膝頭 一茶
- 秋の雨しづかに午前をはりけり 日野草城
- 煮ゆる待つ炉にまどろめば秋の雨 安斎桜磈子
- 踏切の燈にあつまれる秋の雨 山口誓子
御山洗(おやまあらい)
初秋
富士山の登山期間は例年七月上旬から九月上旬まで。九月上旬の富士山閉山のころに降る雨のことをいう。
富士山は霊峰なので、登山期間中の汚れを洗い清める雨という意味を持つ。
- 山洗ふ冷えひきよせし枕かな 長谷川かな女
- お山洗ひ黍の穂高く晴れにけり 吉田冬葉
秋時雨(あきしぐれ)
晩秋
晩秋に降る時雨。
時雨とは一時的に降っては止むような、晩秋から初冬にかけての雨のこと。
「時雨」は冬の季語となっている。
- 秋しぐれいつもの親子すゞめかな 久保田万太郎
- 秋時雨女の傘をとりあへず 山口青邨
- 果樹園のほそみち光り秋時雨 比良暮雪
- 花の香の朝市を抜け秋時雨 村田脩
- 大原女の花を濡らせる秋時雨 岡田満津子
富士の初雪(ふじのはつゆき)
仲秋
富士山の寒候年ではじめて降る雪のこと。
雪の統計に用いる寒候年は、前年八月から当年七月までとなっているが、富士山では真夏にも雪が降ることがあるため、一日の平均気温がその年でもっとも高い日を境界とし、その日以降観測されたものが初雪、初冠雪となる。
2004年に富士山測候所での観測を終了したため、気象庁による初雪の観測発表はなくなった。
初冠雪は付近の気象台から観測して、寒候年にはじめて雪やあられなどが山頂付近に積もり、白く見えること。
不尽(ふじ)の嶺に降り置く雪は六月(みなつき)の十五日(もち)に消ぬればその夜降りけり
万葉集 巻三 高橋虫麻呂
- 浮み出て初雪の不二歪みなし 菅裸馬
- 一鳥啼かず富士初雪のきびしさに 京極杜藻
- 直ぐ消えし富士の初雪空の紺 森田游水
- 裏富士の初雪からの日和かな 渡辺騒人
秋雪(しゅうせつ)
晩秋
立冬以前に降る雪で、おもに高山や北海道で見られる秋の雪のこと。
- 秋の雪立山に波をつかねけり 樗良
- 秋の雪北嶽たかくなりにけり 飯田蛇笏
- 秋雪に汐の昏れざる網干(あぼし)町 石原八束
- 秋雪のみじろぎもなき甲斐の山 有泉七種
秋の雷(あきのらい)
初秋
雷は夏に最も多いため、単に「雷」といえば夏の季語だが、それぞれの季節にも雷は季語となっている。
大気中の放電現象で、雷鳴を伴う。
- 船中の寝覚に聞くや秋の雷 村上鬼城
- 秋の雷白刃のごとし砂にゐて 新谷ひろし
- 秋の雷つぶやきに似て鳴り終る 三浦ゆう
- 重く長く秋雷の尾のありしかな 島谷征良
稲妻(いなずま)
三秋
大気中の放電現象の電光、光をさす。
この電光が稲を実らせると信じられていたことから、稲妻と呼ばれ秋の季語となった。
秋の田の穂の上を照らす稲妻の光のまにもわれや忘るる
古今集 巻十一
- 稲妻や闇の方行く五位の声 芭蕉
- 稲妻のわれて落つるや山のうへ 丈草
- 稲妻の一網打つや伊勢の海 蕪村
- 吊捨てに枯るゝ忍や稲光 増田龍雨
- いなづまにつめたき籠の野菜かな 大野林火
秋の虹(あきのにじ)
三秋
「虹」といえば夏の季語だが、それぞれの季節にも虹は季語となっている。
夏には雨の後にくっきりとかかる虹も、秋には淡い色合いになり、はかなく消えてゆく。
- 秋の虹ほのくらく樹をはなれけり 飯田蛇笏
- 秋の虹二川夕浪たてにけり 臼田亜浪
- 秋の虹懸け松島の色変はる 宮本由太加
- ふた重なる間の暗き秋の虹 石田勝彦
- 秋の虹消えたるのちも仰がるる 山田弘子
霧(きり)
三秋
空気中の水蒸気が冷やされ、凝結して細かい水滴や氷晶となって浮遊している状態のことで、水平に見渡せる距離が一キロメートル未満の場合を霧、それ以上の場合を靄(もや)という。
春と秋に多い現象で、春の場合を霞(かすみ)、秋には霧という。
- 川舟の菰に残るや霧の露 馬来
- 風にのる川霧軽し高瀬舟 梅翁
- 霧黄なる市に動くや影法師 夏目漱石
- 杣の負ふものの雫や霧時雨 石橋忍月
- 霧こめて山に一人の生終る 山口誓子
- 霧見えて暮るゝはやさよ菊畑 中村汀女
秋の夕焼(あきのゆうやけ)
三秋
「夕焼」といえば夏の季語だが、それぞれの季節にも夕焼は季語となっている。
夏は日没の時刻も遅く、大空を赤々と染めた豪華な夕焼けが見られるが、秋には大気が澄んできて赤色も弱くなり、すぐに日が沈む。
- 鷺たかし秋夕焼に透きとほり 軽部烏頭子
- 秋夕焼わが溜息に褪せゆけり 相馬遷子
- 秋夕焼映る路傍の水またぐ 猿山木魂
釣瓶落し(つるべおとし)
三秋
釣瓶(つるべ)とは、井戸の水を汲み上げるための、縄などをつけた桶のこと。
井戸を落ちていく釣瓶のように秋はあっという間に日が落ちるというたとえで、秋の日は釣瓶落としといわれるようになり、「釣瓶落し」という季語として定着した。
- 一怒濤生るる釣瓶落しかな 橋本鶏二
- 猫車釣瓶落しの寺にあり 若月瑞峰
- 乗換へて釣瓶落しの小海線 小倉つね子