冬の草花の季語、草花編です。
まだ雪も残る地面から伸びて花を咲かせている様子はとても力強く、生命力を感じさせます。
極寒の時期に花を咲かせるのは植物にとっても困難なはずですが、それでもいち早く近づく春の到来を告げるかのように、静かに花開きます。
冬にもぜひ花を探してみてください。きっと心の中にも一輪の花が咲くように、困難に立ち向かう勇気をくれることでしょう。
冬の草花の季語
冬牡丹(ふゆぼたん)
三冬
初夏と初秋に咲く二季咲き性の牡丹を、人工的に冬に咲かせるようにしたもの。
自然のままでは五~六月ごろに花を咲かせる蕾を、春に摘み取ってしまい、十月ごろに二度目の蕾をもたせる。
菰(こも…藁囲い)をして寒さを防ぎ、冬に開花させる。
春咲きよりも花は小さめになるが、雪の降り積もった菰の中で咲く様子は華麗である。
- 冬牡丹手をあたたむる茶碗かな 才麿
- 開かんとしてけふもあり冬牡丹 千渓
- 苞(つと)割れば笑みこぼれたり寒牡丹 高浜虚子
- 寒牡丹に天降(あも)りて舞へり雪の使徒 石原八束
八手の花(やつでのはな)
初冬
ウコギ科ヤツデ属の常緑低木。
天狗の羽団扇、鬼の手という別名もある。
大きな掌状の葉に魔物を追い払う力があると考えられ、庭や鬼門となる場所によく植えられた。
初冬に乳白色の直径五ミリほどの花を、枝の先に散形花序を円錐状に多数つける。
暖地、おもに海岸近くの山林に自生する。
- 八ツ手散る楽譜の音符散るごとく 竹下しづの女
- 今日の賀の露地を清めて花八ツ手 富安風生
- 八手咲きゆくさきざきのこの寒さ 加藤かけい
- 花八つ手日陰は空の藍(あゐ)浸みて 馬場移公子
- 咲きそめてひかりのもろき花八つ手 橋本夜叉
寒菊(かんぎく)
三冬
冬に咲く品種の菊。
西日本以西から屋久島にかけての山麓に自生する「島寒菊」(しまかんぎく…別名、油菊、浜寒菊)を原種として、冬に咲くようにしたもの。
十二月~一月にかけて黄色い花を咲かせる。白色のものもある。
秋に咲く普通種の菊が、冬になっても残っている遅咲きの菊は、後述する季語「冬菊」という。
- 寒菊の雪をはらふも別かな 室生犀星
- 寒菊と白き障子をへだて住む 福田蓼汀
- さみしからず寒菊も黄を寄せ合へば 目迫秩父
冬菊(ふゆぎく)
三冬
冬になっても残っている遅咲きの菊。
多くは小輪で白か黄色のノジギク系のものが遅くまで咲く。
- 物かはり移ろふ星や冬の菊 宗因
- 明残る星か雲井の冬の菊 素外
- 冬菊のまとふはおのがひかりのみ 水原秋桜子
水仙(すいせん)
晩冬
白い花弁の内側に黄色い花冠の、香りのよい清楚な花。
寒さも厳しい冬のうちから咲くので「雪中華」と呼ばれた(室町時代の漢和辞書「下学集」)。
地中海沿岸の原産。
学名Narcissusは、ギリシャ神話のナルキッソスに由来している。
品種改良により、多数の品種が登録されている。
全草に毒が含まれており、葉をニラと間違えての中毒が報告されている。
水仙とついていても、違う季節のものもあります
- 春…黄水仙(きずいせん)、房咲水仙(ふさざきすいせん)、シナ水仙(しなすいせん)、口紅水仙(くちべにすいせん)、喇叭水仙(らっぱすいせん)、桃色水仙(ももいろすいせん)、鈴蘭水仙(すずらんずいせん)、浅葱水仙(あさぎすいせん、フリージアの別名)、槍水仙(やりずいせん、イキシアの別名)
- 夏…夏水仙(なつずいせん)
- 秋…鍾馗水仙(しょうきずいせん、ヒガンバナ科の花リコリス)
- 水仙や白き障子のとも映り 芭蕉
- 水仙に猶分行くや星月夜 其角
- 水仙や背戸は月夜の水たまり 蒼虬
- 海明り障子のうちの水仙花 吉川英治
- 水仙に光微塵の渚あり 水原秋桜子
- 雪嶺晴れ畦の水仙風のなか 沢木欣一
- 水仙のうしろ向きなる沖つ濤 古舘曹人
- 水仙の花の香にある日向かな 野村久雄
- 水仙や古鏡の如く花をかゝぐ 松本たかし
冬葵(ふゆあおい)
初冬
アオイ科の多年草で、冬でも枯れずに緑色の葉が残るため、その名がついた。
葉は掌状で、淡紅色の小さな花が集まって咲く。
寒葵(かんあおい)
初冬
ウマノスズクサ科の常緑多年草で、葉はハート形。山地の樹下によく見られる。
冬に地面近くに、暗紫色の筒状の花が咲く。
- 落葉松の積る葉湿り寒葵 長沢ふき
葵とついていても、違う季節のものもあります
- 春…山葵(わさび)夏…葵(あおい)、布袋葵(ほていあおい…水生多年草)、和蘭水葵(おらんだみずあおい…ホテイアオイの別名)、日向葵(ひゅうがあおい…ひまわりの別名)、向日葵(ひまわり)、錦葵(にしきあおい、または、こあおい)、天竺葵(てんじくあおい…ゼラニウムの別名またはひまわりの別名)、紅蜀葵(もみじあおい)、蜀葵(からあおい、しょっき)、水葵・雨久花(みずあおい…青紫の小花をつける水生一年草)、立葵(たちあおい)、花葵、銭葵、白根葵、賀茂葵、二葉葵・双葉葵・双葉細辛、つる葵(ユキノシタの別名)、蔓葵、白葵、黄蜀葵(とろろあおい)、懸葵(かけあおい…葵祭で社殿や御簾に葵を懸けること)
- 秋…龍葵(りゅうあおい…イヌホオズキの別名)
クリスマスローズ
仲冬
キンポウゲ科ヘレボラス属の常緑多年草で、冬にうつむき加減に白や淡紅色の花を咲かせる。
紫色や薄黄緑色、また半八重咲きや八重咲きの花もある。
クリスマスの頃に咲くのはヘレボルス・ニゲル。
ヘレボルス・オリエンタリスはレンテンローズと呼ばれ、春に開花する。
寒さに強く、半日陰を好むので、庭木の根元などに植えられる。
花びらに見えるのは萼で、中にある線状のものが、花びらが退化した蜜腺である。
- クリスマスローズ気難しく優しく 後藤比奈夫
- 通るたびクリスマスローズの首起こす 田口素子
- クリスマスローズに遠く濤の音 青柳志解樹
- クリスマスローズの雪を払ひけり 長谷川櫂
冬蒲公英(ふゆたんぽぽ)
三冬
冬、まだ寒いのに咲いているタンポポ。
冬には地面につくように葉を広げ、茎を伸ばさずに地面近くで黄色い花を咲かせている姿が多い。
晩秋頃まで咲いているものは「帰り花」として詠むが、年が明けてからは「冬蒲公英」になる。
- 冬たんぽぽ母子の会話海を見て 椿文惠
- 子を負いし影が離れず冬たんぽぽ 寺井谷子
冬菫(ふゆすみれ)
晩冬
冬に咲いているスミレの花の総称。
冬から咲くものとしては、紫色の小花をつけるノジスミレやタチツボスミレが多い。
- 廃園に冬すみれ咲けり見に行かむ 水原秋桜子
- 寒すみれ摘まれ来しこと誕生日 後藤夜半
- わが影のさして色濃き冬菫 右城暮石
- 仮の世のほかに世のなし冬菫 倉橋羊村
石蕗の花(つわのはな)
初冬
フキに似たつやのある濃緑の葉から茎を伸ばし、菊のような黄色い花を咲かせる。
十月頃から冬にかけて咲く。キク科ツワブキ属の常緑多年草。
海岸の暖地に自生していて、半日陰を好むことから下草、根締めとして古くから庭園に植えられてきた。
葉は食用、薬用にも用いられた。
- 淋しさの眼の行く方やつはの花 蓼太
- 春秋をぬしなき家や石蕗の花 几董
- 静かなる月日の庭や石蕗の花 高浜虚子
- 貴船路やながれにそうてつはの花 佐々木令山
- 静かなるものに午後の黄石蕗の花 後藤比奈夫
新年の花の季語
福寿草(ふくじゅそう)
新年
旧暦の正月頃に咲くので、元日草ともいわれ、新年を祝うめでたい花ということから名がついた。
キンポウゲ科の多年草で黄色い花を咲かせる。
お椀のように開いた花はパラボラアンテナのように太陽の光を花の中心に集め、暖かくして虫を呼び寄せる。別名、長寿草、朔日草、報春草、賀正蘭。
- ひと雫するや朝日のふく寿草 蒼虬
- 福寿草見てしづかなる命かな 清原枴童
- まどろめるわれを見守り福寿草 阿部みどり女
- 福寿草家族のごとくかたまれり 福田蓼汀
- 日記まだ何も誌さず福寿草 遠藤梧逸