冬は花が少なく寂しい時期ですが、まだ寒い中から咲き始める花もあります。
時に雪が舞う中でも、寒さに耐えながら健気に咲く姿が見られます。
新年を迎えて早々に臘梅が良い香りを放ちながら、明るい黄色に輝きながら咲き始めます。
梅の蕾もふくらみ、八重の寒紅梅もちらほらとほころんできます。
時には庭のバラが思いがけず蕾をつけ、冬のさなかに花を咲かせていることもあります。
今回は冬の季語となっている花の言葉、花木編です。
寒い中で咲いている花をみつけたら、ぜひ一句詠んでみてくださいね。
冬の花木・梅
早梅(そうばい)
晩冬
標準の開花期より早く咲いた梅。
暖地や日当たりの良い南側の山裾など、開花条件の良いところでは早くから咲き始める。
また暖冬など、その年の気候条件により早く咲いた梅など。
特定の品種をさすものではない。それに対し、後述の「冬至梅」「寒梅」は特定の品種を指す言葉である。
- 早梅や日はありながら風の中 原石鼎
- 早梅や深雪のあとの夜々の靄 増田龍雨
- 早梅に歩みよりゆく影法師 星野立子
- 早梅の発止発止と咲きにけり 福永耕二
冬至梅(とうじばい)
仲冬
冬至の頃に咲く品種の梅。
梅は野梅(やばい)系、紅梅系、豊後(ぶんご)系、杏系に分類されるが、冬至梅は「野梅系」の品種で、中国伝来の原種に近い系統である。
白花は一重と八重、淡紅色の紅冬至もある。
- 冬至梅暖炉の側でふくらみぬ 山口青邨
- 冬至梅蕾微塵に暮れゆけり 百合山羽公
寒梅(かんばい)
晩冬
まだ寒さの厳しい冬の時期から、咲き始める性質の梅の品種の総称。
寒中に咲く梅は特に気品がある。
庭上一寒梅
笑侵風雪開
不爭又不力
自占百花魁庭上の一寒梅
笑って風雪を侵して開く
争わずまた力めず
自ずから百花の魁を占む「寒梅」新島襄
- 梅一輪一輪ほどの暖かさ 嵐雪(この句には「寒梅」との前書があります)
- 寒梅や奈良の墨屋があるじ㒵(がほ) 蕪村
- ゆつくりと寝たる在所や冬の梅 惟然
- 寒梅や雪ひるがへる花のうへ 蓼太
- 寒梅や痛きばかりに月冴えて 日野草城
- 寒梅のあたりにて日の終りかな 岸田稚魚
冬の花木・桜
冬桜(ふゆざくら)
晩冬
晩秋から翌年の一月頃にかけて一足早く咲く桜で、花は小さい一重咲き。
群馬県藤岡市の桜山公園の「三波川の冬桜」は、天然記念物に指定されている。
また、年に二回開花する種類に四季桜、十月桜がある。
- うつし世のものとしもなし冬桜 鈴木花蓑
- 母癒えて言葉少なや冬桜 岡田日郎
- 冬桜海に日の射すひとところ 岸田稚魚
寒桜(かんざくら)
晩冬
寒緋桜と山桜や大島桜との交配種といわれ、淡紅白色の花をつける。
大寒桜、修善寺桜、河津桜、熱海桜など。
- 山の日は鏡のごとし寒桜 高浜虚子
- 花びらのちらりと小さき寒ざくら 石原舟月
- 澄みのぼる時空の風の寒桜 石原八束
- 寒桜人もをらずに咲きにけり 大峯あきら
寒緋桜(かんひざくら)
晩冬
紅色の鮮やかな桜で、下向きに半開きに咲く。
中国南部、台湾原産。
- 緋寒桜見むと急ぎて日暮れけり 邉見京子
- 緋寒桜脇から入る二の鳥居 数長藤代
冬の花木・椿
冬椿(ふゆつばき)
晩冬
まだ冬の寒いうちから咲き始める、早咲きの種類の椿の総称。
房総や伊豆、四国南部、伊勢湾沿岸などの温暖な地域では、早咲きの椿が見られる。
椿は、花びらは散らずに花ごとぽとりと落ちる。
山茶花は花びらがはらはらと散る。
- 赤き実と見てよる鳥や冬椿 太祇
- つくばひの少き水や寒椿 田中王城
- 寒椿つひに一日の懐手 石田波郷
- 生きることは一と筋がよし寒椿 五所平之助
- 寒椿月の照る夜は葉に隠る 及川貞
侘助(わびすけ)
三冬
椿の一品種で、花は一重咲きで小さく、筒状に咲く。
葉は細めでつやがあり、慎ましく控えめな印象で茶花によく用いられる。
雄しべが退化していて、結実しないことが多い。
花色は白、淡紅、紅色、赤地に白模様など。
- 侘助や障子の内の話し声 高浜虚子
- 浮雲やわびすけの花咲いてゐし 渡辺水巴
- 侘助のひとつの花の日数かな 阿波野青畝
- 侘助の落つる音こそ幽かなれ 相生垣瓜人
山茶花(さざんか)
初冬
ツバキ科の常緑小高木で、一重の白花のほか、淡紅、紅色、紅と白の絞りなどもある。
咲き方も八重咲き、獅子咲きなどの様々な品種がある。
晩秋から初冬にかけて咲く。
日本特産の花木で、山口県、四国西南部、九州に自生している。
漢名は茶梅(さばい)。小椿、姫椿、白椿とも呼ばれる。
山茶花は主に山茶花、寒椿、春山茶花の三群に大別される。
以前は田毎の月(たごとのつき)も山茶花に含まれていたが、現在では中国原産の油茶の系統であることが判明している。
- 山茶花や雀顔出す花の中 青蘿
- 山茶花の散りしく月夜つづきけり 山口青邨
茶の花(ちゃのはな)
初冬
晩秋から初冬にかけて、丸い小さく白い花をうつむき加減に咲かせる。
五弁の花びらの中に多数の黄色のしべが特徴である。
垣根にもよく用いられている。
簡素でわびさびを感じさせる花が茶人たちに好まれた。
中国の雲南地方原産。山茶花と同じく椿の仲間である。
- 宇治橋の神や茶の花さくや姫 宗因
- 茶の花に人里ちかき山路かな 芭蕉
- 茶の花に隠れんぼする雀かな 一茶
- ほんのりと茶の花くもる霜夜かな 正岡子規
- 茶の花に月より降りし時雨かな 島村元
- 茶の花のしんと昔の香を放つ 松本キヨ子
冬の花木・バラ
冬薔薇(ふゆばら)
三冬
バラは主に春に咲く一季咲きのものと、春と秋にも咲く四季咲きのものがあるが、秋にも咲くバラが冬になっても花をつけることをいう。
冬の寒さの中で木枯らしに葉を落としながらも、幾重もの花びらを開こうとする、哀しくも美しい冬薔薇の姿である。
- 冬薔薇は色濃く影の淡きかも 水原秋桜子
- 冬ばらの蕾の日数重ねをり 星野立子
- 病む瞳には眩しきものか冬薔薇 加藤楸邨
- 冬薔薇やわが掌が握るわが生涯 野澤節子
冬の花木・その他
寒木瓜(かんぼけ)
晩冬
鮮やかな緋色の小花を細枝に次々に咲かせる。
木瓜は春、三~四月に咲くが、暖地やその地の環境などで冬のうちから咲くものがある。
これらを冬木瓜といい、寒中に咲く木瓜を寒木瓜という。
紅色、白、濃紅、朱色、紅白混ざったものなどがあり、一重咲きと八重咲きがある。
園芸種では、緋木瓜(ひぼけ、深紅色)、更紗木瓜(さらさぼけ、紅白雑色)を寒木瓜と呼んでいる。
バラ科の落葉低木。
- 寒木瓜や外は月夜ときくばかり 増田龍雨
- 寒木瓜のほとりにつもる月日かな 加藤楸邨
- 寒木瓜の火いろ嬰児の声となる 田中鬼骨
枇杷の花(びわのはな)
仲冬
十二月頃、絨毛に覆われた蕾が割れ、黄色味を帯びた白い小さな五弁花が咲く。
枝先にびっしりと密集して咲き、ほのかに甘い香りがする。
暖地の果樹で関東地方以西に分布する。
葉は長く、裏に褐色の綿毛が密生している。
バラ科ビワ属の常緑小高木。
- 枇杷の花大やうにして淋しけれ 高浜虚子
- 枇杷咲いて長き留守なる館かな 松本たかし
- 枝ごとに弥陀仏御座し枇杷の花 永井東門居
- 故郷に墓のみ待てり枇杷の花 福田蓼汀
- わが刻を今日はわが持つ枇杷の花 林翔
- 花枇杷は口重き花わが窓に 渡辺千枝子
- 咲き初めて雲の色なる枇杷の花 岩田由美
臘梅(ろうばい)
晩冬
新年早々から咲き始める、蝋細工のようなつやのある黄色い花。
とくに香りが高い。
中国中部原産のロウバイ科の落葉低木。
葉の出る前に、枝先に下向きに並んで小さい花が咲く。
基本種は黄色い花の内側の花弁が、小さく暗紫色をしている。
よく見られるのは素心蝋梅(そしんろうばい)で、花全体が黄色をしている。
名前は花弁の色が蜜蝋に似ているからとも、臘月(陰暦12月)に咲く梅に似た花だからともいわれる。
古名は唐梅(からうめ)。
- 臘梅や雪うち透す枝のたけ 芥川龍之介
- 臘梅や枝まばらなる時雨ぞら 芥川龍之介
- 臘梅のつやを映しぬ薄氷 増田龍雨
- 臘梅のかをりやひとの家につかれ 橋本多佳子
- 臘梅や樅をはなるる風の音 古舘曹人
柊の花(ひいらぎのはな)
初冬
初冬に香りのある小さい白い花を咲かせる。
光沢のある濃い緑色の葉の縁が、鋭いトゲのようにとがっているの柊。
老木になるにつれ、トゲはなくなるのが知られている。
節分の日にイワシの頭を枝葉にさして門口に飾り、魔除けにする風習がある。
関西以西から沖縄、台湾の山野に広く自生している。
モクセイ科の常緑小高木。雌雄異株。
庭木として、また泥棒よけのため生垣に植えられたりする。
- 柊の香の失せ何か失へる 篠田悌二郎
- 柊の花の匂ひを月日過ぐ 野澤節子
- 父とありし日の短さよ花柊 野澤節子