秋といえば収穫の秋。色とりどりの果物が店先に並び、実りの秋を感じさせます。
今回は秋の果物に関する季語を集めました。
日本の秋を五感を通して存分に味わいながら、ぜひ一句詠んでみてくださいね。
植物
秋果(しゅうか)
三秋
果樹の多くは春から初夏に花を咲かせ、秋に実りの季節を迎える。
秋の果実を秋果という。
青果店には色とりどりの果実が並び、秋の訪れを感じさせる。
- とりどりの秋果買ひゆけり彌撒(ミサ)のあと 堀口星眠
- 沈む色浮く色秋果盛られをり 岡田貞峰
- 旅とほく帰る秋果を網棚に 宇咲冬男
- 秋果盛り合はす花より華やかに 原田紫野
- 秋果盛る家族揃ひし日のごとく 佐藤博美
桃の実(もものみ)
初秋
桃は七月から八月頃に旬を迎える。
一般に食されるのは水蜜桃の種類で、天津桃といわれる先の尖った在来種はあまり作られなくなった。
中国が原産で、桃は昔、邪気を払う力があるとされた。
白い果肉の白桃、白鳳系と、黄色い果肉の黄桃系がある。
- 白桃や彼方の雲も右に影 中村草田男
- 桃冷やす水しろがねにうごきけり 百合山羽公
- 白桃を洗ふ誕生の子のごとく 大野林火
- さえざえと水蜜桃の夜明けかな 加藤楸邨
- 白桃を剥くねむごろに今日終る 角川源義
- 白桃のうす紙の外の街騒音 野澤節子
- 戸をたてて白桃にほふ仏の間 柴田白葉女
- 桃むけば夜気なめらかに流れそむ 井沢正江
- 桃熟れて雨一粒もふらぬなり 柏禎
梨(なし)
三秋
梨は八月から九月頃に旬を迎える。
甘くて水分が多い幸水(こうすい)、甘さとともに少し酸味の感じられる豊水(ほうすい)、実の大きい新高(にいたか)などの赤梨、二十世紀などの青梨がある。
洋梨は日本の梨とは違い、収穫してから追熟させる。ラ・フランスは十一月から十二月頃が食べ頃となる。
独特のねっとりとした食感と濃厚な風味がある。
- 水なしやさくさくとして秋の風 惟中
- 小刀の刃に流るるや梨の水 毛条
- 梨むくや甘き雫の刃を垂るゝ 正岡子規
- 梨売にガードの日影移りけり 水原秋櫻子
- 梨を食ふともに身うすき夫婦かな 森川暁水
- 梨をむく音のさびしく霧降れり 日野草城
- 林檎園の中の洋梨寂しからむ 山田みづえ
- 梨むけば昼見し荒地ひろがり来 友岡子郷
- ラ・フランス花のごとくに香りけり 佐々木まき
青蜜柑(あおみかん)
三秋
蜜柑が熟す前の、皮が濃い緑色の蜜柑を青蜜柑という。
また、仲秋にいち早く市場に出回る早生種の蜜柑は、皮は緑色でも中身は甘い。これも青蜜柑と呼ぶ。
- 老の目の僅かにたのし青蜜柑 百合山羽公
- 伊吹より風吹いてくる青蜜柑 飯田龍太
- 嫁がねば長き青春青蜜柑 大橋敦子
柿(かき)
晩秋
日本の秋を代表する果実の柿は、晩秋に木全体に赤く熟した実をつけた姿が農村の原風景となっている。
昔はすべて渋柿だったので、渋を抜いて食用にした。
酒樽に入れて渋を抜くことを「醂す(さわす)」といい、これを樽柿(たるがき)といった。
また吊し柿(つるしがき)、干柿にしても渋が抜ける。完熟するまで待っても食べられるようになる。
甘柿が現れたのは鎌倉時代のことであった。
柿の実を木から取り尽くさず、高い枝の実を一つか二つ残しておくことで、翌年もたくさんの実がなるようにと願う(または小鳥の分をとっておくからともいわれる)ことを「木守(きまもり)」「木守柿(きもりがき)」といい、冬の季語となっている。
- 里古りて柿の木持たぬ家もなし 芭蕉
- 渋柿や觜(はし)おしぬぐふ山がらす 白雄
- 渋かろか知らねど柿の初ちぎり 千代女
- 渋柿の如きものにては候へど 松根東洋城
- 我が死ぬ家柿の木ありて花野見ゆ 中塚一碧楼
- 柿落つる音して月はなかりけり 増田流雨
- 塗盆の曇るや柿のつめたさに 長谷川春草
- 人ごみの中手みやげの枝葉柿 瀧井孝作
- 柿むく手母のごとくに柿をむく 西東三鬼
- 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
- 子規よりも多くの柿を食ひ得しか 相生垣瓜人
- 柿もぎつ風にそむけば町が見ゆ 太田鴻村
- 柿むくやよべは茸を選りし灯に 木村蕪城
熟柿(じゅくし)
晩秋
紅く完熟した柿のこと。
皮はするっと剥け、中身はやわらかくとろっとして甘みが強くなっている。
- 日あたりや熟柿の如き心地あり 夏目漱石
- いちまいの皮の包める熟柿かな 野見山朱鳥
- 熟れ柿を剥くたよりなき刃先かな 草間時彦
信濃柿(しなのがき)
晩秋
豆柿ともいわれ、千成柿、葡萄柿の別名があるように、実は小さく1~2cm程度で枝に連なるように実る。
古くから栽培され信濃に多いのでその名がついた。
未熟の青い実から柿渋をとるために栽培され、また材木としても用いられる。
晩秋に霜があたり黒っぽく熟したものは、甘く食用になる。
- 豆柿をこころみて渋大いなり 皆吉爽雨
- 信濃柿赫(あか)し敗兵の日を思ふ 角川源義
林檎(りんご)
晩秋
青森、長野など冷涼な地域で生産される林檎は、さまざまな品種が栽培されている。
ふじ、つがる、シナノスイート、ジョナゴールド、陸奥、王林、シナノゴールドなど、秋から冬にかけてたくさんの品種が出回り、日本の果物の代表ともいえる。
- 星空へ店より林檎あふれをり 橋本多佳子
- 空は太初の青さ妻より林檎受く 中村草田男
- 独房に林檎と寝たる誕生日 秋元不死男
- 母が割るかすかながらも林檎の音 飯田龍太
- 残照の海見ゆるところ林檎熟る 沢木欣一
- 倖せかと訊けばうなづき林檎剥く 村上杏史
- 林檎園やはらかき草踏みて入る 岸田稚魚
- 林檎売る赤すぎる程磨き上げ 高田風人子
葡萄(ぶどう)
仲秋
古くから栽培され品種も多い葡萄は、甲州葡萄で知られる山梨県、長野県、山形県などが主な産地となっている。
巨峰やピオーネなどの黒色系の葡萄、デラウェア、甲斐路などの赤色系の葡萄、シャインマスカット、マスカット・オブ・アレキサンドリアなどの緑色系の葡萄がある。
- くゞり摘む葡萄の雨をふりかぶり 杉田久女
- 葡萄一粒一粒の弾力と雲 富澤赤黄男
- 秋を掌にのせしと云へる葡萄かな 永井東門居
- 原爆も種無し葡萄も人の智慧 石塚友二
- マスカット母との刻のゆるり過ぎ 野澤節子
栗(くり)
晩秋
晩秋に熟れた栗は、棘のある毬(いが)が裂けて弾け落ちる。
毬から褐色の実をのぞかせているものを笑栗(えみぐり)という。
一つの毬の中には三粒入っているが、まれに一粒だけのものがあり、一つ栗(ひとつぐり)という。
- 行く秋や手をひろげたる栗のいが 芭蕉
- 栗一粒秋三界を蔵しけり 寺田寅彦
- 栗のつや落ちしばかりの光なる 室生犀星
- みなし栗ふめばこゝろに古俳諧 富安風生
- 焼栗やまた近くなる雨の音 長田幹彦
- 知らぬ子とあうてはなれて栗拾ふ 藤後左右
- 毬の中別るる栗の相抱く 林原耒井
無花果(いちじく)
晩秋
無花果の字が当てられたのは、一見して花が咲かないのに実がなるように思われたからだが、春から夏に花嚢の中に無数の白い花を咲かせている。そして花嚢全体が秋に赤紫色に実る。
昔は庭や水辺などの比較的湿った場所によく植えられていた。日持ちがしないので、庭にあると新鮮なものが手軽に食べられる。
- 無花果や垣は野分に打倒れ 史邦
- 無花果の古江を舟のすべり来し 高浜虚子
- 無花果の小鳥空家の日暮どき 阿部みどり女
石榴(ざくろ)
仲秋
石榴の実は熟すと堅く厚い皮が裂けて、果肉の中にルビーのような真っ赤な種がたくさん詰まっているのが見える。
食べると甘酸っぱく、ジュースなどにする。
- 秋光に驚き裂けし石榴かな 杉山飛雨
- 美しき柘榴に月日ありにけり 瀧井孝作
- 柘榴火のごとく割れゆく過ぎし日も 加藤楸邨
- 実ざくろや妻とは別の昔あり 池内友次郎
棗の実(なつめのみ)
初秋
芽吹きが遅く、初夏になって芽を出すということから「なつめ」と名付けられた。
枝先に2、3cmほどの楕円形の緑色の実をたくさんつける。
熟すと暗紅色になり、林檎のような味がする。乾燥させて漢方などでも用いられる。
茶道具の棗は、この実の形が似ていることから名付けられた。
- 仮住みや棗にいつも風吹いて 細見綾子
- しぐれ雲から落ちてきし棗の実 六角文夫
- さみどりの雨後の棗に風すこし 南出朝子
- なつめの実青空のまま忘れらる 友岡子郷
- 浪音の空にしてゐる棗の実 茨木和生
胡桃(くるみ)
晩秋
日本では主に長野県でシナノグルミが栽培されている。
もともと自生しているのはオニグルミで、殻が非常に堅く、中の仁は小さい。
木は家具などの材木として用いられる。
果実は熟すと果皮が裂け、堅い殻をもつ核が現れる。これを割り、中の白い胚乳の部分を食用にする。
- 子等遠し病力もて胡桃割る 石田波郷
- 荷を解けば信濃胡桃の転がる音 吉田北舟子
- 栗鼠の子に胡桃落して森は母 山田孝子
- 夜の卓智慧のごとくに胡桃の実 津田清子
- 胡桃割る胡桃の中に使はぬ部屋 鷹羽狩行
- 父といふしづけさにゐて胡桃割る 上田五千石
酢橘(すだち)
晩秋
徳島県原産の柑橘類で、柚子よりもやや小さく、青いうちにしぼって料理の香りづけに使う。
松茸の土瓶蒸しや、焼き秋刀魚に大根おろしとともに供される。
- 夕風や箸のはじめの酢橘の香 服部嵐翠
- すだちてふ小つぶのものの身を絞る 辻田克巳
- あり合はせと言ひし品数青すだち 佐藤博美
柚子(ゆず)
晩秋
晩秋に黄色に熟れる柚子は香りが高く、春の木の芽に対して秋は柚子が香りの代表とされる。
皮を薄く削いで風味づけに、果肉はしぼってポン酢にしたりする。
和菓子、洋菓子にも多く用いられている。
また冬至の日に柚子湯に入ると風邪をひかないといわれる。
- 実をあまたつけたる柚子の日向かな 渋沢渋亭
- 柚子匂ふ無音の闇に圧されをり 目迫秩父
- 真向ひの山に満月柚子の里 西村公鳳
- 子の置きし柚子に灯のつく机かな 飴山実
- 柚子もがれさむく静かな月夜来る 大井雅人
- 柚子の実に飛行機雲のあたらしき 石田郷子
柑子(こうじ)
晩秋
古くから栽培され、皮が薄く酸味が強いが、熟れると橙色が濃くなり甘みも増す。
温州ミカンの栽培が難しい日本海側で主に栽培される。
- 名月に葉隠れ柑子見出たり 成美
- 仏壇の柑子を落す鼠かな 正岡子規
- 海の日の柑子に曇る伊豆の寮 木村蕪城
金柑(きんかん)
晩秋
3センチほどの橙色の金柑は果肉は酸味が強いが、香りの高い果皮が厚く、生や砂糖漬けにしていただく。
喉にいいので冬の風邪に効くといわれ重宝される。
- 金柑にはや頬白の来鳴くなり 岡本癖三酔
- 一本の塀のきんかん数しらず 阿波野青畝
- 入日の家金柑甘く煮られゐつ 村越化石
オリーブの実(おりーぶのみ)
晩秋
モクセイ科の常緑高木で、緑色の実が熟すと紫黒色になる。
熟す前に収穫してグリーンオリーブ、熟してから収穫するとブラックオリーブとなり、それぞれ料理などに用いられる。
- オリーブの実たわゝ並木道をなす 森田峠
- オリーブの実の密放哉の墓まろし 久保田月鈴子
- 橄欖を擲げたき真青地中海 林翔
檸檬(れもん)
晩秋
爽やかな酸味と香りのレモンは一年中売られているが、国産のレモンは晩秋から収穫されるため秋の季語となっている。
- 檸檬青し海光秋の風に澄み 西島麦南
- 夜々の星檸檬をしぼりながらへて 三谷昭
榲桲(まるめろ)
晩秋
秋に黄色く楕円形のカリンに似た実をつける。国内では主に長野県で生産されている。
香りがありはちみつ漬けや果実酒、缶詰にする。
マルメロをカリンと呼ぶ地方があるが、マルメロには表面に産毛があり、カリンの表面はツルツルしている。
- 世をすねし様にまるめろゆがみしよ 島田五空
- まるめろにはや新雪の槍穂高 加藤楸邨
- 吾子紅衣せしかば与ふマルメロを 石田波郷
榠櫨の実(かりんのみ)
晩秋
秋に黄色い果実をつけるカリンは喉に良いといわれ、香りが良くはちみつ漬けや果実酒に用いられる。
- くわりんあり鳥羽僧正の絵巻あり 後藤夜半
- くらがりに傷つき匂ふかりんの実 橋本多佳子
- かりんの実しばらくかぎて手に返す 細見綾子
- 湖(うみ)始まる榠櫨の下の広さより 松本旭
- 己が木の下に捨てらる榠櫨の実 福田甲子雄
- 何となき歪みが親し榠櫨の実 渡辺恭子