立秋から立冬前日までの、秋の時候の季語のなかでも、三秋に分類される季語を集めました。
季語それぞれの持つ微妙な印象の違いを感じ取っていただければ幸いです。
俳句作りの際にぜひ参考になさってください。
時候
秋
三秋
立秋から立冬の前日まで。(八月八日頃から十一月七日頃)
陰暦では文月、葉月、長月にあたる。
陰陽五行説で秋は白になるので、白秋という。(素秋の素も白のこと)
また、五行説で秋は金なので金秋ともいう。
収穫の秋、紅葉の秋、夜が長く一年も後半になり、衰えやもののあわれを感じさせる季節。
- 笹竹の雀秋しる動きかな 杉風
- 夕暮は鐘を力や寺の秋 風国
- 飛鳥路の秋はしづかに土塀の日 長谷川素逝
- 山の墓香煙雲のごとき秋 西島麦南
- 天地ふとさかしまにあり秋を病む 三橋鷹女
- すずかけの影の等距離街は秋 佐野まもる
律の調べ(りちのしらべ)
三秋
「律(りち)」「呂(りょ)」は音の調子、音律をあらわす。
中国では律を陽、呂を陰としたが、日本では律を陰、呂をを陽とした。
季節の感じが春は陽、秋は陰なので、秋の感じを律の調べといった。
(呂のほうは、季語になっていません。)
律の風は秋らしい風のこと。
秋の日(あきのひ)
三秋
秋の一日。また、秋の太陽や日差しにもいう。
秋の日は釣瓶落としと言われるように、日の入り時刻が日に日に早まる。
秋は空気が乾燥して日中はからっと晴れ渡り、夕方には真っ赤に染まる夕日、そして急に日が暮れてあっという間に暗くなり、どこか寂しさを感じさせる。
- 水底の草にも秋の日ざしかな 高橋淡路女
- 大阪のある道の果秋日落つ 高浜年尾
- 秋の日の白壁に沿ひ影とゆく 大野林火
- 谿ふかく秋日のあたる家ひとつ 石橋辰之助
- 繋船のしづかな揺れが漉す秋日 林翔
秋の朝(あきのあさ)
三秋
秋の爽やかな朝。
初秋、仲秋、晩秋によっても趣は異なる。
秋暁は秋の夜明けのこと。
- 桑の葉に秋の朝雲定まらず 原月舟
- 秋暁の行きかふは皆修行僧 大野林火
- 砂の如き雲流れ行く朝の秋 正岡子規
- 秋暁や胸に明けゆくものの影 加藤楸邨
秋の昼(あきのひる)
三秋
秋の昼間。
空気は澄み空は高く、爽やかな空間の広がりを感じさせる。
- 秋の昼妻の小留守をまもりけり 日野草城
- 益子焼に絵付けの婆や秋の昼 瀧春一
- 猫抜ける外人墓地の秋真昼 中村蓑虫
- うつうつと大魚睡れる秋の昼 沢井我来
- 秋の昼木深く人の入りゆけり 田中鬼骨
秋の暮(あきのくれ)
三秋
「秋の終わり、晩秋」の意味と、「秋の夕暮れ」という二つの意味がある。
- 此の道や行く人なしに秋の暮 芭蕉
- 秋の暮いよいよかるくなる身かな 荷兮
- 大きなる家ほど秋のゆふべかな 許六
- 行き行きて深草に出たり秋の昏れ 蝶夢
- 秋の暮片枝の梨も落ち尽す 闌更
- いつのまに橋をわたりし秋の暮 京極杞陽
- 三田二丁目の秋ゆふぐれの赤電話 楠本憲吉
秋の宵(あきのよい)
三秋
秋の夜に入ってまだ間もなく、更けきっていないころ。
静かでどこか人恋しい思いも感じられる言葉。
宵の秋という場合は、宵よりも秋に重心がかかる。
- 語り出す祭文は何宵の秋 夏目漱石
- 降りかけの路に灯つづる宵の秋 富田木歩
秋の夜(あきのよ)
三秋
秋の夜一般をいう。
澄んだ空に月が輝き、虫の音が聞こえ、秋の夜風が吹き過ぎてゆく。
夜半の秋は、宵のあと、夜が更けたころ。
- 秋の夜を小鍋の鯲(どぜう)音すなり 白雄
- 秋の夜もそぞろに雲の光りかな 暁台
- 遊ぶ子に枕くれけり夜半の秋 樗良
- 秋の夜や母につかふる琵琶法師 几董
- 秋の夜や旅の男の針仕事 一茶
- 子にみやげなき秋の夜の肩ぐるま 能村登四郎
夜長(よなが)
三秋
秋の長い夜のこと。
秋分を過ぎると夜が長くなり、冬至でもっとも夜が長くなる。
夏は短夜と感じられるのに対し、秋は夜がしみじみと長く感じられる。
- 鐘の音の輪をなして来る夜長かな 正岡子規
- よそに鳴る夜長の時計数へけり 杉田久女
- 長き夜やひそかに月の石だたみ 久保田万太郎
- みちのくの夜長の汽車や長停り 阿波野青畝
- 一燈を残し夜長の仕事終ふ 高浜年尾
- かの窓のかの夜長星ひかりいづ 芝不器男
秋麗(あきうらら)
三秋
うららかな秋晴れの日。
- 天上の声の聞かるゝ秋うらゝ 野田別天楼
- 秋麗の魞(えり)舟が揚ぐ小蝦跳ね 山口草堂
- 沖で繰る糸は見えねど秋麗 北光星
- 秋麗ガラスの如く村ありぬ 大橋敦子
- 仏掌の上の虚空や秋麗ら 町田しげき
秋澄む(あきすむ)
三秋
秋の澄み切った大気のこと。
大陸から移動してくる高気圧に日本列島が広く覆われ、涼しく乾燥した空気になる。
空気が澄んでいると、遠くのものもよく見え、音もよく聞こえるようになる。
- 水涼し秋澄む関のかざり鎗(やり) 蓼太
- 秋澄むやせり上り咲く蔓の花 本宮銑太郎
- 秋澄むや橡の木早き実を落す 大森桐明
- 窯を出づ壺のひびきに秋澄めり 上野ひろし
秋気(しゅうき)
三秋
秋の清々しく爽やかに澄んだ大気のこと。
- 奥入瀬の水に樹にたつ秋気かな 吉田冬葉
- 冬瓜の切口にたつ秋気かな 織田鳥不関
- 一筋に木曾谷をゆく秋気かな 森田かずや
- 水郷に漕ぐ波に近き秋気かな 志田素琴
- 秋気満つ鍾乳洞の奥の声 土屋秀穂
爽か(さわやか)
三秋
秋の大気や日差しの、清々しく快い、さらりとした心地よさ。
- 爽やかに夜雨の残りし草の上 松瀬青々
- さわやかにおのが濁りをぬけし鯉 皆吉爽雨
- 爽やかに山近寄せよ遠眼鏡 日野草城
- 羚羊(かもしか)を見し爽涼の裏穂高 福田蓼汀
- 爽涼の大樹夕暮時の色 高木晴子
- 爽やかに赤海龜の子龜浮く 瀧仙杖
- 爽やかやチャペルへ通ふ楡並木 太田泉園
- 爽涼と雲馳けのぼる山毛欅峠 中村金鈴
身に入む(みにしむ)
三秋
秋の冷気や寂しさが身にしみるように感じられること。
寒さや冷たさ、秋風を身に染み入るように感じることとともに、さびしさ、寂寥感を身に深く感じることもいう。
- 身にしむや亡妻の櫛を閨に踏む 蕪村
- 身にしむや蛤うりの朝の酒 龜翁
- 身にしむやほろりとさめし庭の風 室生犀星
- 佇めば身にしむ水のひかりかな 久保田万太郎
- 身に入むや林の奥に日当りて 岡本眸